「降ろせよ!」
肩の上で叫びながら暴れるオスカーに顔を顰めながらも、アリオスは寝室に足を踏み入れると寝台の上にその躰を放り投げた。
「うわっ!!」
寝台のスプリングに、軽く躰が跳ね上がる。
アリオスは体勢を立て直そうとするオスカーの躰の上に乗り上げるようにしてその躰を押さえつけた。
「どけよ!」
アリオスを睨み上げそう叫ぶオスカーに、
「おまえが、悪いんだぜ」
口元に意地悪げな笑みを浮かべながら告げた。
「え? 何……?」
アリオスの表情に疑問を浮かべた時には、唯一頭を除けば指一本すら自由にならなかった。
「……アリオス……、おまえ、何を……?」
かつては知っていた、だが今のオスカーにとっては未知のアリオスの力に、彼は顔色を失った。
「……本当に、まだ何も思い出してないんだな」
言って、アリオスは乱暴にオスカーの着ているものを剥ぎ取っていった。
「やめろ、いやだっ、アリオス!」
オスカーの拒絶の言葉を無視して全裸にすると、腰の下に枕を入れて高くし、さらに両足を思いきり開かせて秘処の全てを眼前に晒させた。
「っ!!」
オスカーは思わず顔を背けた。
見られている。いや、視姦されている── その感覚に、オスカーは全身を羞恥に赤く染め、アリオスに好きに扱われる悔しさに唇を噛み締めた。
「俺を拒絶したりするから、こんなメに合うんだぜ。大人しく素直に抱かれてりゃ、いくらでも優しくしてやるものを」
アリオスはオスカーの顎を掴んで自分の方に無理矢理顔を向けさせながらそう告げた。
「下種が!」
「この前、その下種に抱かれてさんざん悦んでたのはどこのどいつだよ」
そう言ってせせら笑うアリオスに、そう強い力ではないとはいえ、顎を捕まれて動かせないために、顔を歪めながら視線だけを反らした。
「フッ。で、どういうわけだ? いきなり帰れってのはよ。何を怒ってる? 言ってくれなきゃ分かんねぇだろ」
「……女の代わりになる気はない、それだけだ」
「何だって?」
「俺にだってプライドはある。女の身代わりに抱かれる気はない! 女がいいんなら、男の俺なんか抱いてないで女のところに行けばいいだろうっ!」
怒りと、そして悔しさに満ちた視線を向けるオスカーに、アリオスは怪訝そうな顔を向けた。
「女の代わりって、一体どっからそんな話が出るんだ?」
「今日の昼間、アンジェリークと会ってたじゃないか! いくらなんでも女王である彼女に手は出せなくて、それで代わりに俺のところにきたんだろうっ!? 馬鹿に、……するな、よっ……」
叫んでいるうちに涙が溢れてきて声が詰まる。泣き顔を見られたくなくて、アリオスの手が離れたのを幸い、オスカーは瞳を伏せて顔を背けた。
「……昼間、見たのか。なるほどな……」
言って、溜め息を一つ。
「……楽しそうに、笑いながら話してた。……なのに、……他の女と一緒にいるなんて、そんなこと思いもせずにおまえの言葉を信じて、今夜は来るか、明日は来るかって、ずっと待ち続けて……、馬鹿、みたいだ……」
「あれは、あの女が望んだからそうしてやったまでだ。あいつには、借りがるからな」
「……借り……?」
オスカーは疑問を呈しながら、未だ涙を流しつづける瞳をゆっくりとアリオスに向けた。
「記憶を無くして、自分の名前すらも思い出せなかった俺に、アリオスと、名前を教えてくれたのがあいつだった。そのあいつが望んだからな、だから付き合ってやった。それだけのことだ。第一、オスカー、俺はお前を女の代わりにしたことなんか一度もないぜ。その必要もないからな」
「……誤魔化すなよ……」
「誤魔化してなんかいねえよ。なぜって、おまえが俺の女なんだからな」
「なっ!?」
アリオスの言い様に、オスカーは目を見開いた。
確かに、自分はこの男に抱かれている。以前もそうだったと、躰でだが識っている。女の立場にあるのは否めない事実だ。だが、女ではない。
「お前が俺の女だ。俺がそうした、俺だけの女に、な」
言いながら、オスカーの躰に線に添って掌を這わせていく。
「あ……、ぅんっ……」
「抱くたびに、お前の躰を作り変えてやった。女に、な。女を抱いて女の中でイクのではなく、俺に抱かれて、ここを」
言いながら、アリオスは先刻からアリオスを求めて止まずにひくつき続けているオスカーの秘孔に人差し指を押し込んだ。
「あうっ!!」
「貫かれて、突き上げられて、イク躰にな。ここが他の女みたいに濡れるのも、俺を少しでも受け入れやすくするためさ。女なら、当たり前の反応だろう?」
続けてもう一本の指を挿し入れて、中を掻き回し、肉襞を抉り、擦り上げる。そのたびにくちゅくちゅと濡れた音が静かな室内に響いていく。
屈辱と羞恥とに顔を紅く染めたオスカーは、目を固く瞑り、唇を噛み締めた。
「……んっ……」
「素直になれよ。正直に言ってみろ、俺が、欲しいんだろう? 欲しくてたまらないんだろう? さっきからずっと、躰が疼いてるんだろうが。俺が自分の女であるおまえを抱きたくてたまらねえように、女のおまえが自分の男を、俺を欲しがるのは当然のことだ」
アリオスは唐突に指を引き抜いた。
「あっ!」
喪失感に思わず声を上げたオスカーに口の端を上げて小さく笑いながら、その細い腰を掴んで固定し、それから自分の前を寛げると、オスカーの中に挿れたくて堪らずに熱く滾っているものを出して秘孔に押し当てた。
「さあ、正直に言ってみろ。どうして欲しいんだ、オスカー?」
唇がわななく。唇を開けば、欲しいと、それしか出てこないだろう。もうずっと、アリオスが欲しくて躰の奥深くが熱を持って疼き続けているのだ。
だが、オスカーは最後に残った僅かな理性で、首を横に振った。
「ちっ、強情なところはちっとも変わってねぇな」
軽く舌打ちをすると、アリオスはまだほぐれきれていないオスカーの秘孔に力任せに思い切り楔を押し込んだ。
「ひああああっっ── !!」
途端に、悲鳴がオスカーの唇から迸る。
「ああっ、ひぃっ……! ぃやあぁ…、ぁああ……」
いくら中が濡れているとはいえ、そこのきつさと締め付ける強さに変わりはない。しかしアリオスは、オスカーを気遣うことなく、己の望むままに腰を使ってオスカーの最奥へと楔を突き入れ、抉り上げ、オスカーのもっとも感じる一点を撫で上げるように突いた。
「ああぁっ!!」
躰を動かすことができないために、与えられる衝撃をどこにも逃がすことができずにそのままダイレクトに受け止めて、悲鳴を、嬌声を上げ続ける。
「オスカー、前にも何度も言った。おまえは俺の、俺だけのものだ。誰にも渡しはしない。このこと、今度こそ忘れないように躰に刻み込め!」
今のオスカーの耳には入っていないだろうことを承知の上でそう告げると、アリオスはオスカーの腕を取ると自分の肩に回させた。それから背に両腕を回し、オスカーを膝の上に抱き上げる。
「やあああぁぁ── っ!!」
挿入の角度が変わり、さらに自重が掛かってより深くアリオスを咥えこむことになって悲鳴を上げる。
他に縋るものがなくて、アリオスの背に回した腕に力を込め、ジャケットを思い切り掴んだ。押さえつけていた魔導の力が消えて自由に躰が動かせるようになったのにも気付かぬまま、無意識のうちにアリオスの腰に両足を絡め、離れないように、離されないように縋りつく。
「はああっ、……んあっ、ア、……アリオス……、アリオス……!」
「なんだ? 何が言いたい?」
涙を流しながら、嬌声を放つ合間に必死に己の名を呼ぶオスカーに、アリオスはこちらも欲望に満ちた荒い息の合間に、腰を突き上げながら問い返した。
「……他の女を、見るな……。他の誰も、見な……で……!」
オスカーのその言葉に、アリオスは嬉しそうに深い笑みを刻むと、嬌声を上げ続けるオスカーの唇を塞いだ。口腔に舌を入れ、思う様蹂躙する。舌を絡めて貪り、オスカーの放つ嬌声も飲み込んだ。
そうして一際大きく深く突き上げると、アリオスはオスカーの熱い内部に己の熱を解き放つ。
オスカーも自分で意識せぬままに欲を吐き出すと、アリオスに躰を預けたまま意識を失った。
アリオスはそっとオスカーから楔を抜くと静かにオスカーの躰を寝台に横たえた。それから一旦寝台を降りて衣服を脱ぎ捨て全裸になると、改めてオスカーの上に重なった。
涙の痕の残る頬を軽く叩いて、オスカーの覚醒を促す。
「オスカー、オスカー」
息を吐き出すようにしながら、オスカーはゆっくりと瞳を開けた。
泣いて、常より少し紅くなった薄蒼の瞳が現れる。
「くたばっちまうのはまだ早いぜ。夜はこれからだ」
軽く唇を重ね、それから首筋に、鎖骨にと、唇を滑らせていく。
会えなかった時間を埋めるように、オスカーが泣いて許しを請うまで、その夜、アリオスはオスカーを抱き続けた。
完全に意識を失い、失神するように深い眠りについたオスカーの前髪を優しく掻き上げて、現れた額に口付けを落とす。
思い出すのは、かつての旅の間のこと。
単に互いの性欲解消と、そういって始まった二人の関係だったが、エリスのことを知ってもう抱かれる気はないと、誰かの身代わりなどごめんだと言って、今夜と同じようにオスカーがアリオスを拒絶した時のことだ。
腹が立って、無理矢理に犯した。
その夜が切欠だった。
それから、自分のオスカーに対する想いを自覚し始めた。
「……同じことを、繰り返してるな、俺たち……」
自嘲の笑みを唇に浮かべる。
「けど、今度こそおまえを離さない。たとえ誰がなんと言おうと、そしておまえが嫌だと言っても、二度とこの手を離しはしない!」
自分に、そしてオスカーに誓うようにそう宣告すると、アリオスはオスカーの唇に軽く触れるだけの口付けをして、姿を消した。
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