旧き城砦の惑星── 。
皇帝の待つ虚空の城を前にして、ヴィクトールはオスカーに近づくとそっと呼びかけた。
「オスカー様」
アリオスが皇帝レヴィアスだったと知れた日の夜、自分はアリオスの女だったのだと、自嘲の叫びを上げて、常のオスカーからは信じられないほどに泣き崩れていた。
それを、ヴィクトールは自分の胸の内に秘めて誰にも話すことなく、ただ黙ってオスカーを見つめてきた。
あの一晩で全てを吹っ切ったかのようにも見えて、戦うのに躊躇いはないようだった。だが、本当にそうなのだろうか。不安が過る。
ヴィクトールが何を言いたいのか察して、オスカーはしっかりとその目を見つめ返した。
「大丈夫だ、闘える。奴のことは、もう吹っ切った。奴は、俺が倒す」
この剣で、とそう言って、腰の大剣を持つ手に力を込める。
それを見て取ったヴィクトールは、
「分かりました。ですが決して無理はなさらないでください。よろしいですね、オスカー様」
一人ではない、自分たちがいるのだと、それを忘れないでくれと言外に伝えるヴィクトールに、オスカーは前方の城を見つめながら黙って頷いた。
◇ ◇ ◇
「……んっ……」
朦朧とする意識の中、オスカーはゆっくりと目を開けた。
躰が、重かった。まるで重しか何かをつけられているかのように。
そしてまた、視覚的にも、まだ輪郭をはっきり捉えるところまで覚醒してはいない。視覚だけではない、五感の全てがまだ覚醒しきっていない。それでも自分が何か柔らかな物の上に横になっているのはどうにか分かった。
ここはどこだ、俺は何をしているのだと、朧げな意識の中でオスカーは記憶を辿り始めた。
皇帝レヴィアスとの決着をつけるために、アンジェリークたちと皇帝の本拠たる虚空の城に脚を踏み入れた。そして── 。
中に入って程なく、仲間たちと引き離された。それはおそらく自分一人が、ではなく、城に入った仲間全てが、孤立させられたのだろうと察せられる。
そしてアンジェリークを、仲間たちを探さねばと思っているうちに、突然闇に覆われ、引き込まれるように意識を失ったのだ。
「あっ!?」
突然わが身を襲った刺激に、オスカーは声を上げて背を仰け反らせた。
「漸く気がついたようだな、オスカー」
「!!」
掛けられた声に、オスカーの意識は一気に覚醒した。そして躰を起こそうとして、叶わなかった。僅かに肩から上、頭を上げることができただけだ。
「レヴィアスッ!?」
自分がどういう状態にあるのか、それがはっきりと目に飛び込んできた。
寝台の上、全裸でレヴィアスに圧し掛かられているのだ。
「なんのつもりだ、レヴィアス!?」
睨みつけながら語気も荒く問うオスカーに、レヴィアスは何をいまさらと平然とした顔で答えた。
「決まっている、おまえを抱くんだ。我のものであるおまえをな」
言って、レヴィアスはオスカーの胸の突起の一つを口に含んだ。
「ああっ」
軽く噛み、それから口の中で転がすように舐める。
「やめっ……! いやだ、離せ……っ!!」
「今になって何を嫌がる、いつも悦んで我に抱かれていたおまえが」
先ほど口にしたのとは逆のもう片方の突起を指で摘み上げ、押しつぶしたり引っ張ったりしながら告げるレヴィアスに、オスカーは軽く背を仰け反らせながら、目を堅く瞑り、レヴィアスの言葉を否定するように必死に首を横に振った。
「知ら、ない、貴様なぞ……」
「知らない、だと? 忘れたというのか、自分が我のものだということを!」
両腕を突っ張り、なんとかレヴィアスを押しのけようとするオスカーに、レヴィアスはその両腕を引き剥がすと頭の上に一纏めに押さえつけた。
「忘れたとは言わせぬ、何度も告げたはずだ、おまえは我のもの、我の女だと!」
「……俺は、おまえの、ものなんかじゃ、ない!!」
レヴィアスの愛撫を受けて熱を持って疼き始めた躰を、掻き集めた理性で必死に押さえ込んで、オスカーは否定する。
「ちっ」
と、レヴィアスは小さく一つ舌打ちをすると、オスカーの顎を掴み、熱に溺れそうになりながらも気丈に自分を睨み上げてくるオスカーの瞳を真っ直ぐに見詰め返しながら宣告した。
「なら、どこまでその強情を張っていられるか、見せてもらおうか」
その言葉に顔を蒼褪めさせたオスカーに、レヴィアスはさらに続ける。
「今度こそ、二度と否定できぬようにその躰に思い知らせてやろう、おまえが誰のものなのかを」
レヴィアスはそこまで言ってオスカーを押さえ込む手を離したが、レヴィアスの魔導によるものなのだろう、オスカーは目に見えぬ力によって寝台に縫いとめられたように身動きできない。
レヴィアスはオスカーの両脚に手を掛けると、思い切り開いて腰を上げさせた。
「い、嫌だっ! やめろっ、レヴィアスッ!!」
レヴィアスは口元に小さく笑みを浮かべると、オスカーから見えるようにさらに腰を持ち上げ、ひくつき始めているオスカーの後孔に唇を寄せた。
「ひっ!」
レヴィアスは乾いたそこに指を添えて舌を挿し入れ、潤わせるために唾液を送り込み始めた。
自分の躰がどんな状態にあるか、オスカーには嫌というほど分かっていた。
男に飢え、男が欲しいと、レヴィアスが欲しいと熱を持ち、疼いている。
だがそれを口にするわけにはいかない。レヴィアスに屈することはできない。
自分は女王に仕える炎の守護聖であり、レヴィアスは、女王に危害を加え、自分たちが育み護っているこの宇宙を侵略しようとしている、この宇宙に仇なす存在なのだ。その思いだけで、せめて声を出すまいと歯を食いしばる。
十分に後孔を潤わせたと見て取ったレヴィアスは、顔を上げるとオスカーを見た。
身じろぎすらも叶わぬ状態で、与えられる快感を逃がすこともできずに懊悩している。唇は噛み締めすぎて血を滲ませていた。
そう長くは持つまいと思いながら、レヴィアスはさらなる愛撫をオスカーに加えていく。
濡らした後孔に、まずは一本、指を挿入する。
オスカーが声も出せずに息を呑んだのが分かった。
差し入れた指をゆっくりと蠢かす。そしてもう一本。
オスカーの躰のことは、おそらくオスカー本人よりも分かっている。どこをどうすればどう感じるのか、全て熟知している。今のオスカーの躰を作り上げたのは、他ならぬレヴィアスなのだから。
「……うっ……、んっ……」
微かにオスカーの唇が綻び始めた。
さらにもう一本、挿入する指を増やすと、レヴィアスはオスカーが最も感じるポイントを、撫で上げ、突き上げる。
「あうっ……、やっ、い、いやだ……。ああっ……」
抑えきれずに声を上げ始めたオスカーに、レヴィアスは空いた手で胸の突起も嬲り始めた。
だが、勃ちあがり、その欲望を示しているオスカーのものには決して触れない。
触れる必要がないからだ。
オスカーはとうに後ろだけでイケるのだから。そこまでレヴィアスはオスカーの躰を仕込んだのだ。触れてやれば、より快感を覚えるだろうが。
拷問だと、オスカーは思う。これは快楽という名の拷問だと。
苦痛なら耐えられる。だが快楽は、そうはいかない。
先走りの液を零し始めた自身は、イクことができないようにいつのまにか根元を紐で括られている。そして後孔に与えられるのは指だけで、もっと太く硬い、逞しいレヴィアスの男で突き上げて欲しいのに、一向に与えられない。
「っう……、あ……」
熱に潤んだ薄蒼の瞳から大粒の涙が零れ始めた。
もう耐えられない、と。
「……もう、許して……」
囁くように小さく呟かれたその声に、レヴィアスは唇の端を上げた。
「どうして欲しい、オスカー。言ってみるがいい。おまえの望むようにしてやる」
聞きながらオスカーを見下ろせば、オスカーの唇がわなないている。
「…………」
イキたい。けれどそれ以上に、飢えていた。
「……欲し……」
「何が?」
分かっているのに、意地悪げに問い返す。
オスカーは顔を歪ませ、そうして遂にレヴィアスに屈した。
「おまえが、欲しい。……俺の中に、挿れて……っ! 突き上げて、めちゃくちゃにしてくれっ!!」
遂に耐え切れずに形振り構わず叫ぶオスカーに、レヴィアスは満足そうに笑った。
「おまえの望むままに、おまえが欲しいだけ与えてやろう」
離すまいと絡み付いてくる肉襞から無理に引き剥がして指を引き抜き、オスカーの両脚を抱えなおす。そして熱く滾った楔をあてがうと一気に貫いた。
「はあああぁぁっ!!」
強く締め上げてくるオスカーの内部を、レヴィアスはそれよりも強い力で突き上げていく。
「……あ、もっと、もっと欲し……! もっと奥まで……。ああっ、あ、レヴィアス、もっと── っ!!」
レヴィアスがオスカーを貫くと同時に、オスカーを抑えていた力は消えていた。
オスカーは自由になった脚を、決して離れないようにとレヴィアスの腰に絡め、そして両腕はレヴィアスの背に回されて、縋りつくように抱きつき、爪を立てた。
自分がこの宇宙の女王に仕える炎の守護聖であることも、この虚空の城に来た目的も、もはやオスカーの中にはなかった。ただ男を受け止めより強く感じ取ろうと、それしかない。
「そうだ、オスカー。おまえはそうやって我の下でヨガって啼いていればいい」
言いながら強く腰を打ち付け、ギリギリまで引き抜き、また一息に貫く。掻き乱し、抉り上げながら、オスカーの唇を塞ぎ、思うさま舌を絡めあい、口腔内を貪り尽くす。
その根元を括り上げられた時とそれを外された時以外ついに一度も触れられなかったオスカーの欲望が、その熱を解放した時に放たれたオスカーの叫びは、口腔内に消えて、レヴィアスに飲み込まれた。
一際きつくなった締め付けをかろうじてやり過ごしたレヴィアスは、オスカーの肩に腕を回し、引き寄せるようにしてさらに強く抱き締めて突き上げると、レヴィアスを欲して止まないオスカーの内にその熱い飛沫を放った。
「あぁ……」
熱い、満足しきったような溜息がオスカーの口から零れた。
だがそれも一時のこと。
オスカーの内部はなお蠕動し、中にあるレヴィアスを締め付け刺激する。まだ足りない、もっと欲しいと。
そんなオスカーの様子に苦笑を漏らしつつも、レヴィアスはオスカーの内襞にこすり付けるようにして抽送を再開した。
「んあっ、あ、……っ」
レヴィアスのそれはほどなく硬度を取り戻し、再びオスカーを悦ばせるべく、彼のもっとも感じる場所を抉るように突き上げていく。
何度抱いたか分からなくなった頃、遂に意識を失ったオスカーを、レヴィアスはようやく解放した。
オスカーの股間を見れば、呑み込みきれなかったモノが溢れて脚を汚している。
レヴィアスはそっと後始末をしてやってから、眠るオスカーの額に優しく口付けた。
「そのまま眠っているがいい。目覚めた時には、全て終わっているだろう。おまえは嘆くかもしれぬが……」
唇に触れるだけの口付けを落とす。
「何があろうと、おまえがどう思おうと、我はおまえを手放さぬ。おまえは、我のものだ」
オスカーから目を離さぬままマントを翻すと、レヴィアスはアンジェリークたちとの決着をつけるために姿を消した。
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