1997年秋、東京──
 その日は、雷雨だった。そう遠くないところで、雷が鳴り続いている。そして激しい雨が降り続く。
 そんな中、新宿の片隅にある小さな神社で、数人の、明らかに不良学生と知れる高校生たちが人待ち顔でいた。
 やがて、彼らの前に一人の、赤い学生服を来た男が現れた。どうやらそれが彼らの待ち人のようだ。
── どうやら、逃げねぇで来たようだな」
転校生(よそもの)だから知らなかったじゃすまねぇぜ……」
「くくくっ、誰に喧嘩売ったか、分からせてやる……」
「土下座して、俺らの靴でも舐めりゃ、勘弁してやるぜっ」
「ひゃひゃひゃっ」
「けけけけっ」
 下卑た笑いをしながら口々に告げる。だが、その男は、何も感じても、また聞こえてもいないかのように、彼らの言葉を無視していた。
(とき)が満ちる……」
 男の口から発せられた言葉に、彼らは一体何だ、という顔をした。
「…………?」
「狂気と混沌の帳がおりる……。
 何人(なんびと)たりとも、逃れることはできない……」
「てっ、てめぇ、ナニわけわかんねぇコト言ってんだっ!!」
「ナメてんじゃねぇぞっ!!」
「…………。
 おまえたちは、相応しいか、闇の世界(まち)を生きる者に」
 怒りに、彼らは男に殴りかかっていった。
 その時、男は持っていた刀を鞘から抜いた。だが彼らはそれに気付いていなかった。それほどに素早い動きだった。
 ザシュッ! と、斬りつける音が、した。
「うわぁぁぁぁぁっ!! うっ、腕が……俺の……」
 彼らの一人が叫び声を上げる。ゴロッと、切り落とされた腕が地面に落ちて転がった。
 そこではじめて、彼らは男が彼方を抜き、それで仲間が切られたことを理解した。
「《力》持つ者たりうるのか」
 それがはじまり。
 男は次々と刀を振るい続けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!! 耳がっ、耳がぁぁぁっ」
「見せてみるがいい……、愚かなるヒト(・・)の力を」
「ヒッ── !!」
「う……うぅ……」
「痛ぇ……痛ぇよぉ……」
「た……助けてくれぇ」
「助けてぇ──
 呻き声と叫び声が、辺りに響く。だがそれは雷の音に掻き消され、それを聞いたのはそこにいた者たちだけ。
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
「見せてみるがいい……、お前ら、ヒトの力がどれほどのものか── 。くくくくっ……、あーははははははっ──
 男の笑い声が木霊する。だがそこに、その声を聞くものは最早一人もいない。地面に既にピクリとも動かなくなった学生達の体が、転がっているのみ─────





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