漸く暖かくなってきた春の陽射しの差し込む縁側に座って、彼は庭を見ていた。庭に何かある、というわけではなかったが、これから暫く留守にする屋敷内を、庭を、見ていた。
年の頃は十七、八といったところだろうか。癖の少ない艶やかな黒髪は男性にしては長めで、その前髪の間から覗く瞳の色は、陽の加減によっては緑にも見える。細身で、背筋を伸ばした姿勢のよい姿からは、座っていても長身であると知れる。
「失礼いたします」
そう言って座敷の奥から出てきた老人は、彼の傍らに歩み寄り、膝を折ると、頭を垂れながら告げた。
「若、お車の用意が整いましてございます」
「そうか」
彼は軽く頷いて答えると、静かに立ち上がった。
「今更重ねて言わずとも分かっていると思うが、今回の件、くれぐれも手出しは無用だ。たとえ相手が、おまえの息子の仇であっても。いいな?」
視線を老人に向けることもなく、真っ直ぐ前を見たままで、けれど言い聞かせるように告げる彼に、老人は深く頭を下げた。
「……承知、いたしております」
「ならばよい。では、行くとしようか」
彼は老人を従えてその場を後にした。
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