Négation 【2】




 新一が、おそらくKIDが降り立つと予測を立てたビルに到着し、屋上に出る扉の影に身を隠し、気配を消して暫く待っていると、予想どおりにKIDがやってきた。
 白い翼を折りたたみ、音も立てずに屋上へと降り立つ。
 相変わらず見事なものだ、と新一は思う。そして、さてこれからどうするか、と改めて考えていると、KIDがふいに顔だけを扉の方に向けた。
「そこの扉の影におられる方、いつまでも隠れていないで出てこられてはどうです? 私は逃げも隠れもしませんよ」
 ばれていたのか、と思う。自分では十分に気配を消したつもりでいたのに、KIDには通じなかったらしい。新一は、ちっと一つ舌打ちをすると思い切って扉を開けて外に出た。
「ここは、初めまして、と言うべきですかね、工藤新一君」
「何が初めましてだ。ここ暫くはおまえの余計なお世話のおかげで出てこれなかったが、今までに何度も会ってるじゃねぇか」
「でも、その姿に戻られてからは初めてでしょう? とりあえず、元の姿を取り戻すことができたこと、おめでとうございます、とでも言っておきましょうか」
 実を言えばKIDは表の顔── 黒羽快斗── なら、既に二度ほど阿笠邸で会っているのだが、それは新一には関係のないことだ。今は怪盗KIDとしてこの場に在るのだから。
「そういうことなら、ありがとうよ、と一言返しておこうか。だが今夜が初めてなら、同時に今夜が最後だ。今日こそとっ捕まえてその素顔を拝ませてもらうぜ」
「私は、私の身を捧げる方を既に決めていますし、ましてや犯罪者の貴方に捕まるなど、冗談ではありませんよ」
 そう返しながら、時計型麻酔銃を構える新一にKIDもトランプ銃を取り出して向き合った。
「俺が犯罪者だとっ!? それこそ冗談じゃねえっ! 俺はおまえら犯罪者をとっ捕まえる探偵だ!」
「おや、自覚が無かったんですか? それはまた困ったものですね」
 KIDの姿勢は変わらず、トランプ銃を新一に向けながら話を続ける。
「まず、今その手にしておられる麻酔銃。銃とつく以上は銃刀法違反に当たりますね。それと麻酔銃ですが、麻酔を使用するには資格が必要ですが、貴方はその資格を持ってはいない。違いますか? その点はそれを作った阿笠博士も同様ですが。それからよく不法侵入をしておられた」
 新一は返す言葉を持たず、KIDの指摘はなおも続く。
「それから江古田の時計台。あの時は相手が貴方だったとは知りませんでしたが、今なら納得できます。貴方は目暮警部の銃を使ってポールを撃ち落とした。これも銃刀法違反ですが、それと同時に、貴方は思わなかったのですか? ポールがもし群衆の中に落ちていたらと。幸いにもそれは免れましたが、万一風に煽られでもして群衆の中に落ちていたら何人もの負傷者を出して、ヘタをすればパニック状態になっていたんですよ。これなどは貴方の浅はかな行為ですね」





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