Négation 【3】




 KIDの糾弾はなおも続く。
「殺人未遂もありますね。私が小さかった貴方に何度殺されそうになったことか。特に劇場『宇宙』の時。どうにか上手くやり過ごしはしましたが、一瞬でも遅ければ、あの高度で麻酔銃を受けて、そのまま激突死か墜落死か」
「『宇宙』の時は、おまえならきっと避けると判断してた」
「随分と高評価していただいているようですが、人間に絶対、などということは無いのですよ。
 そして何よりも貴方は私以上の、いいえ、世界に類を見ない大泥棒」
「何だとっ!? 俺が何を盗んだっていうんだっ!!」
「盗んだでしょう? 毛利氏の時間と記憶という形の無い物を何度も何度も。他にも、鈴木園子さんからも何度か盗んでますね。それ以外にもいらっしゃることでしょう。大したものですよ。私は形のある物しか盗めないのに、貴方は形のない物を本人にすら悟られずに盗み続けたんですから」
「盗んだ訳じゃない! あれは他に方法が無かったから……っ」
「私から見れば同じことですよ。それとも犯人を上げるためなら犯罪行為を犯すことなど瑣末なことに過ぎないとでもお思いですか。だとしたら思い上がりも甚だしいことです。
 ああ、それと、ご自分を探偵だ、などと言うのはお止めになった方がいい。貴方は探偵ではないのですから」
 探偵ではないと否定されることほど、新一にとって屈辱的なことはない。誰がなんと言おうと自分は探偵だし、探偵であろうとしてきたのだから。それだけは自信を持って言える。
「俺は探偵だ! コソ泥のおまえに否定される覚えはない!」
「探偵じゃありませんよ。だって貴方、届け出をしてらっしゃらないでしょう?」
「届け出?」
「探偵業の業務の適正化に関する法律、通称、探偵業法によれば、都道府県公安委員会に届出をして探偵業を営む者、と定義されていますが、貴方はそれをしていないでしょう? それに第一、日本はアメリカなどと違って捜査権などは無いにもかかわらず、貴方の行っていることは明らかに法律で定められたこと以上のれっきとした捜査です。この点をとっても、明らかに貴方は法律違反行為をしているんですよ。今度一度、警視庁に投書でもしてみましょうかね。明らかに捜査一課の対応にも問題があるようですし。
 どうしても探偵として捜査をしたいのなら、ご両親のいるアメリカに移住して資格を取ることをお勧めしますよ」
「……今になってそんなことを言うなら、どうしてコナンだった俺を探偵と呼んでたんだよ」
 KIDの指摘に、体中の力が抜けたようになって新一は問い掛けた。
「あれは、あんな小さな体で頑張っていた彼への、謂わばご褒美ですよ。では今夜はこれにて失礼を。自称探偵クン」
 KIDは自分を認めていたわけじゃない、KIDにとっては自分は所詮ただの子供に過ぎなかったのだと言われたようで、新一は脱力しその場に膝をつき、KIDが再び白い翼を広げて飛び立っていくのを黙って見つめていることしかできなかった。

── Fine




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