La dernière scène 【9】




 快斗は渡仏してからは、多忙を極めた。
 敵組織の概要は既に大凡が手の内にある。後は各国現地警察と如何に上手く連携を取り、一斉摘発に持っていくかだ。総指揮はICPOの本部が行うとはいえ、実際に動くのは現地警察なのだから。
 警察の中に組織の手が伸びていないかという確認も含めて、念には念を入れて作戦が練られていく。その中心に居るのが、katsukiと名乗っている本来ICPOとも警察とも何ら関係のない快斗なのだ。
 当初は不信を持たれていたが、これまでの末端組織の摘発に彼の協力があったこと、英国警察やICPOとも浅からぬ縁のある日本の白馬探の関係者であることなどで信用を得ていった。
 何よりも彼がメインになって立てている摘発作戦は、そのまま上手く動けば水も漏らさぬであろうと思われるものであることから、ICPOや組織本部のあるフランス警察の関係者たちは積極的に動いていた。
 後は如何にこちらの動きを漏らすことなく、摘発に踏み切るかだ。
 先だってのアメリカで行われたある犯罪組織における摘発作戦の過ちの二の舞だけは犯すまいと、皆、必死になっていた。



 そして作戦決行の日。
 世界一斉に行うために、各国警察の現場ではグリニッジ世界標準時間が採用された。これにより、深夜に動くところもあれば、昼日中に動くことになるところなど、様々な対応が迫られることになり、各国現場の緊張感はイヤでも増していく。
 そしてそれは、日本に残り、日本にある組織支部の摘発のために動くことになっている白馬も同様であった。それに何よりも、彼には快斗の身の安全という心配事もあった。
「今は彼のことに気を取られるのはおやめなさい。例え何があろうと、この私が、赤の魔女の名に掛けて彼を無事に連れ戻すから。今は何よりも目の前のことに集中することよ」
 出掛けに入った小泉紅子からの電話での言葉が蘇る。
 紅子の言うとおりだと思う。快斗のことに気を取られて肝心の作戦に失敗しては、それこそ彼のこれまでの苦労を、たとえ日本だけでとはいえ、水泡に帰させてしまうのだから。
 気を取り直して白馬は時計に目をやった。
 作戦開始まであと一時間。





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