La dernière scène 【8】




「センター試験が終わったら、渡仏する」
 快斗が白馬にそう伝えたのは、一緒に出掛けた初詣の帰り道でのことだった。
 高校3年という存在にとってはこの上ない現実であるセンター試験と、非現実的な犯罪組織との戦いを同列のように語る快斗に、白馬は少しばかり呆れた。
 しかし怪盗KIDとしての快斗を考えれば、より重要なのは対組織であって、センター試験の方が母親や中森親子といった周りに対しての配慮に過ぎないのだろう。
「準備の方はもう?」
「最後の詰め、ってところかな。俺が渡仏して最終確認をして、決戦は1月末から2月の頭、になると思う」
「大丈夫、なんだろうね?」
「欧州を中心に世界中一斉摘発の予定だ。逃がしはしない」
 白馬が聞いたのは快斗の無事だったのだが、快斗はそうとは受け取らず、組織摘発の方を答えた。
「どっかの誰かさんのような間抜けな真似はしないさ」
 そう言って、悪戯小僧のようにニカッと笑いを見せた。
 快斗の言う“どっかの誰かさん”が誰のことを指しているのか、探はアネットから聞いて知っている。
 行方不明から復活した東の高校生探偵── 工藤新一が追っていたというアメリカに本拠を置く通称“黒の組織”と呼ばれる犯罪組織のNo.2が逃げ、ICPOの別部隊が動いていると。
 IQ400、否、測定不能と言われる確保不能の大怪盗KIDがここまでICPOとタッグを組んでいるのだ、そうそうヘマはしないだろう。しかし何事にもイレギュラーというのは存在する。白馬が心配しているのはその点だ。
 過去、悉く不可能を可能にしてきたKIDでも、やはり一人の人間であることに変わりはないのだから。



 1月半ば、センター試験終了直後、快斗の姿は成田にあった。見送りに来たのは白馬と紅子の二人だ。
「白馬、日本国内の方は任せたからな」
「分かってる。君の期待には十分に応えるつもりだよ、任せてくれたまえ」
「紅子、宝石(いし)の始末は?」
「私を誰だと思っているの。完璧に決まってるじゃない」
 快斗の問いに、紅子が長い赤みを帯びた黒髪を掻き揚げながら答えた。
「じゃあ、行ってくる」
 足元に置いたボストンバッグ一つを手に取って、ちょっとした卒業旅行か何かの軽い雰囲気で快斗は出国ゲートへ向かった。
 その様子を不安そうに見つめる白馬に紅子が問い掛ける。
「そんなに心配、彼の身が?」
「……君は心配ではないのですか、小泉さん?」
「大丈夫よ。彼には、この私、赤の魔女が付いているんだから。最悪、無傷は無理でも、何があろうと連れ戻して差し上げるわ」





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