La dernière scène 【6】




 黒羽快斗の欧州からの帰国を出迎えたのは、クラスメイトの白馬探だった。
 二人は白馬のばあやの運転する車に乗って、早々に成田を後にした。
「随分とゆっくりだったね。もっと早いかと思っていたのに」
「別件で、帰りにアメリカの知り合いのところに寄ってたんだよ」
「彼女の感触はどうだった?」
「んー、大丈夫、かな。おまえのお墨付きだしな」
「そう言ってもらえると、紹介した甲斐もあったというものだね」
「とりあえずもう暫くの間は蜥蜴の尻尾切り、かな。頭はまだ遠そうだ」
 やはり時差の関係だろうか、会話を続けながらもどこか眠そうな様子を見せる快斗に、白馬は休むことを促した。他人の気配に敏感な彼は── 心を許している白馬以を別にすれば── 飛行機の中でも睡眠は取れてはいないはずだ。
「眠そうだね。なんだったら、江古田に着くまで眠っていてもいいよ。着いたら起こしてあげるから」
「悪い、そうさせてもらう。ちょっとばかし強行軍だったんだ、最後」
 言い終えるやいなや、快斗は眠りに入った。それだけ疲れているのだろう。そしてまたそれをできるくらいには自分の事を信頼してくれているのだと思うと、白馬は嬉しかった。
 快斗が眠りに入って数分後に、マナーモードにしていた携帯に着信が入った。
「はい」
『探? 彼はもうそちらに着いて?』
「ええ。今、成田からの車の中ですが、僕の隣で寝ていますよ。彼に何か?」
『寝ているのなら伝言を頼むわ。彼の置き土産で、イギリスとスイスの尻尾を二本、無事に切った、って伝えて』
「それはそれは。どうやら上手く機能しているようですね」
『ええ、彼のお陰でね。よろしく言っておいて。何かあれば貴方を通して連絡するし、連絡してくれって。こちらとしても本気で組織壊滅に動くから』
「ええ、伝えます。他になければ、また後ほど」
『ええ、また』
 携帯を切って隣を見るが、快斗が起きる気配はない。余程安心しているのだろう。
 白馬に電話を掛けてきたのは、快斗に紹介したアネット・スタールからだった。
 そのアネットの伝えてきた内容は、十分に白馬を納得させるものだった。暫くは快斗の言ったとおり蜥蜴の尻尾切りにしかならないだろうが、いずれは胴体へ、そして最終的には頭に。
 できれば高校を卒業するまでに済ませてしまいたいと思う。そうすれば彼も心おきなく普通の大学生活を送ることができるようになるはずなのだから。
 とはいえ、1412についてどのような司法取引をしたのか、実のところ白馬は知らない。後で改めてアネットに確認を入れておこうと思った。それに別件で行ったというアメリカの件も気になる。快斗のことであれば早々口を割るようなことはないだろうが、できる限り聞き出しておきたい。不安材料は少しでも少なくしたいというのが、現在の白馬の心中なのだ。





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