La dernière scène 【4】




「ということは、あなたもマジシャン?」
「の卵でした」
 アネットの問いに、Katsukiは少し寂しそうに微笑した。
「先代と組織の攻防は、とある宝石を巡ってのものでした。組織にその宝石を渡さないために、先代は、盗む、という手段をもってその宝石を探していたのです」
「どんな宝石(いし)なの? 純粋に興味があるわね」
「本当の名前は知りませんが、裏では“パンドラ”と呼ばれています」
「名前からして、あまりいいものではなさそうね」
 アネットは細く形のよい眉を顰めた。
「私が基本的にビッグジュエルばかりを狙っているのはご存知でしょう?」
「ええ」
 Katsukiの問いかけにアネットは頷いて肯定する。
「その宝石を月に翳すと、中に入っているもう一つの宝石が赤く光る。インクルージョンですね。それがパンドラ。そしてそのパンドラの流した涙を飲むと、不老不死が得られるのだそうです」
「不老不死? まるでお伽噺のようね」
 アネットは目を丸くして、信じられない、というような顔をして応じた。
「そうですね。本当に不老不死を齎すかどうか、それは私にも分かりません。でもその宝石を巡って先代が殺されたのは事実ですし、組織が懸命になって探しているのも事実です。
 先代にとっては、それの曰く因縁はともかく、先代の祖母の家に元々あったものが盗まれてしまったものだそうで、だからなんとかして探し出したいと考えてのことだったようです。これは比較的最近分かったことですが」
「でも少なくとも、あの組織はその宝石が不老不死を齎すというのを真実として信じて探しているわけね、貴方と対立しながら」
 Katsukiは頷いた。
「それに、私にはパンドラの件以外にも組織と対立する、いえ、組織を潰したい理由がある」
 そう言ってから、一息入れるようにKatsukiはカップに一口、口をつけた。
 それからアネットの瞳を真っ直ぐ見詰めて告げる。
「先代は、私の父なんです」





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