快斗の病室を出た後、アネットと白馬は病院内のカフェテラスに場所を移した。
「実際のところ、彼への処分はどうなるんですか?」
白馬は一番気になっていることを単刀直入に尋ねた。
「正直なところ、組織の方が先決で、彼についてはまだこれからなのよ」
「彼との司法取引の内容は? 何も無かったということはないでしょう?」
「彼の正体を明かさないこと」
「それだけ、ですか?」
アネットの答えに、白馬は目を丸くして応じた。
「それだけよ。最初から自分が捕まることを覚悟して、いえ、死を覚悟して、逃げる気はなかったみたい」
そう言って、手元のコーヒーを一口、飲んだ。
「ただね、彼についてはこれから、って言ったけど、正直、何も無かったことにしていいんじゃないかという意見があるのも事実なのよ」
「というのは?」
「まず、ICPOが指名手配していた1412は、彼じゃなくて彼の父親でしょ。で、今の彼の活動の殆どは日本だった。そして奪った宝石は確認されている限り、その全てが返却済み。時には他の悪党の逮捕に協力してたような部分もあったっていう話じゃない」
「ええ、そうですね。他の犯人が盗んだものを盗み返して、本来の持ち主に返却したりしたこともありました」
「で、それに加えて今回の実績。彼の情報収集能力やその分析力、組織壊滅の計画の綿密さ、指示の仕方の確かさとか。ICPOとしては、ヘタに逮捕したりするよりも今後も何かあった時に彼の協力を得られるように繋ぎを付けておいた方がいいんじゃないかと、上層部の一部でそういう声が出てるのも事実なの」
「そうですか」
白馬は肩の力を抜いたように、自分の分のコーヒーに口をつけた。
「組織の処理の方が先で、本当にまだどうなるか分からないのだけれどね」
そこでふと白馬は思いついたようにアネットに尋ねた。
「彼の処分が決まるのがまだ暫く掛かるというなら、彼の回復状況にもよりますが、一旦、日本に戻ることは可能ですか?」
「何かあるの?」
「この2月の後半から3月にかけて高校の卒業式と大学の入試が」
何気なく言われたその言葉に、アネットは目を丸くした後、慌てて立ち上がった。
「そういうことは早く言いなさい。早速上と相談してくるから」
そう告げて、アネットは慌ただしくカフェテラスを後にした。
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