快斗の意識が戻ったのは、白馬が来て数日後の午後のことだった。
快斗の瞳がゆっくりと開かれ、そこに最初に映ったのは、彼を心配そうに見守る白馬の顔だった。
「はく、ば?」
「ああ、そうだよ。アネットが呼んでくれたんだ」
「……俺、生きて、る?」
「生きているよ、小泉さんの言ったとおり」
「紅子か……。そういや、確かに紅子の声を、聞いたような気がする」
「君の出発前に彼女が言っていたけど、小泉さんが、君をこの世に引き留めてくれたようだね」
二人が会話をしている間に、アネットがコールで呼んだ医師と看護師がやってきた。
白馬は快斗から離れ、医師が診察するのを見守った。
暫くして、医師が白馬とアネットに向かって告げた。
「もう大丈夫でしょう。まだ若いから回復力も早いですしね。ですが、だからといって患者の負担になるような長話は暫くは避けるようにして下さい」
そうして医師も安堵したような顔で看護師と共に病室を後にした。
「とりあえず、何か聞きたいことはある?」
そう快斗に問い掛けたのはアネットだ。
「……あいつ、ジャベール、は?」
「無事に捕縛したわ。実際にことに当たった警官の話だと、抜け道を抜けて出た山小屋の外で、茫然自失しているジャベールを見つけてそのまま捕えた、ってことだったけど、それは貴方が何かしたから、でいいのかしら?」
「あいつの探してた宝石を、あいつの目の前で砕いてやったんだ。といっても、砕いたのは本物じゃなくて、知り合いに用意してもらったフェイクだけど」
「そんなに価値のあるものだったの、それは?」
「あいつにとっては、ね。俺の目的は、それを奴の目の前で砕いて、嘲笑ってやることだったから、これで怪盗は廃業。無事に逮捕もされたんなら、心残りはないよ」
だから自分はもうどうなってもいいのだと、快斗は暗にアネットに告げた。アネットも白馬もそれを察したが、アネットはそのことについては触れなかった。
「なら医師も言っていたように長話もなんだから、他に質問がなければ、今日のところはこれで失礼するわ。いい?」
「ええ。じゃあ黒羽君、君は今は何も考えずに回復に努めることだ。明日また来るよ」
「白馬……」
「何だい?」
「わざわざ来てくれて、ありがとな」
やはり疲れたのか、快斗の言葉は段々小さくなっていって、やがて眠りに入っていったようだった。
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