La dernière scène 【16】




 白馬がパリに着いたのは、アネットからの連絡を受けてから二日後だった。
 白馬が病院のロビーに入ってきたところを、アネットの方が見つけて声を掛けてきた。
「探、こっちよ」
「お久し振りですね、アネット」
「ええ」
 頷きながらも、アネットは訝しげな顔をした。白馬は彼の容態が心配ではないのだろうかと。そう思える程に落ち着いているのだ。
「彼の様子はどうですか? 僕がこちらに着く頃には落ち着いているはずだと言われてきたのですが」
「……ええ、確かに落ち着いてきているわ。最初の頃は、出血多量でかなり危なかったのだけど。でも、誰に言われたの?」
「僕と彼の共通の友人に、その、占い、をよくする人がいまして。とてもよく当たる人なので」
 快斗は彼女── 小泉紅子── のことを“魔女”だと言っていたし、紅子自身も自分を“赤の魔女”だと言っていた。日本を()つ前、紅子の屋敷で水晶球に映し出された快斗の様子を見せられもした。それでもまだ本当に“魔女”とは信じがたい。快斗は信じているようだが。それに、アネットに“魔女”などと言っても笑われるのがオチだろうと思って、白馬は“占い師”ということにして話を進めた。
 二人して会話を続けながら、彼のいる病室へと向かう。
「彼、こちらではずっと“Katsuki”という名前で通しているのだけど、本当の名前は何ていうの? 貴方を呼び寄せた以上、それくらいは聞いておいてもいいと思うのだけど」
 それを聞いて、白馬は彼らしいと、何となくそう思った。
「快斗、です。ファミリーネームは黒羽」
 やがて病室の前に着くと、パリ市警の警官が二名、扉の脇に立っていた。
 アネットを認めた二人が敬礼すると、アネットは軽く「御苦労さま」と言って静かに病室のドアを開けた。
 ゆっくりとできるだけ静かに病室に入る。
 探が紅子の屋敷で見せられた水晶球の中ではまだ集中治療室の中で酸素マスクを付けた状態だったが、今は個室に移動して機器は付けられたままではあるものの、そのマスクも外れている。
 顔色はまだまだいいとは言えないが自力呼吸ができるようなら、紅子が言っていたように確かに大丈夫なのだろう。探はほっと息を吐いた。
「医師は何と?」
「余程のことがなければ、もう大丈夫でしょうって。だから集中治療室からこちらに移すこともできたの。あとは意識の回復を待つだけ。あの状態で命が助かったのは奇跡だって驚いていたわ」
「そうですか、それは良かった」
 これはやはり紅子が彼を引き留めてくれたのかもしれない、そう白馬は思った。そして紅子が魔女だというのを信じてもいいのかもしれないと。





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