「あら、随分とゆっくりだったのね」
車内に戻ったKatsukiを認めてアネットが声を掛けた。
「騒音はいただけませんが、空気は良かったですからね。のんびりさせてもらいました。それよりその後の様子はどうです?」
「各国の支部はほぼ壊滅。今はジャベールを追っているところよ。さっき会長室に抜け道を見付けて、そこから入って行ったところ。……間に合うといいんだけど、それだけが気掛かりね」
そう告げながらモニターを見つめるアネットの視線は真剣だ。
その一方で、Katsuki── 快斗── は思う。なら大丈夫だろうと。多分今頃はまだ茫然としているままであろうから。
やがて暫くして、アネットに一報が入った。ジャベールを発見したと。
「本人に間違いはなくて?」
『間違いありません。ただ、様子が変なんです。茫然としていてとても大組織のボスとは思えない雰囲気で……』
その言葉に、もしや、とアネットはKatsukiに視線を移した。
その視線の先で、Katsukiが薄く微笑みを浮かべている。
「間に合ったようですね。これで私と貴方たちとの取引きは終了です。あとは当初の約束どおり、貴方方が私の正体をばらさずにいてくれれば、それで、全て、終わり……」
そう言って掛けていた椅子から立ち上がったKatsukiの体が揺らぎ、そのまま床に倒れた。
はっとしてアネットが両手で口元を覆う。
「katsuki!! い、医師を! 早くっ!!」
アネットがKatsukiの元に駆け寄ると、そこは血の海だった。
「Katsuki、貴方がジャベールを……!?」
慌ててやってきた医師が応急手当てを施すのを傍で見ながらアネットは思った。
これが彼の一番最初からの真の目的だったのだと。ジャベールと相対して自分は死ぬつもりだったのだと── 。
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