La dernière scène 【1】




 4月の終わり、アネットのパソコンに一通のメールが入った。差出人の名は“1412”とだけ。“1412”で思い出される人物は唯一人。20年近くも前にパリに一番最初に出現した怪盗に、後にICPOが付けた番号だ。何年にも渡って活動した後、突然姿を消した。
 そして去年の6月、日本から彼が復活したと報告があった。この差出人の“1412”は本人なのか、それともその名を騙る悪戯なのか。
 恐る恐る、アネットはメールを開いた。そしてその内容に息を飲んだ。
 なぜなら、それはもう何年も前からICPOが中心になって捜査を進めている、とある国際犯罪組織の一端と思われるイタリアのある会社に関するものだったからである。そして添付されたファイルには、それを裏付けるような内容が記されていた。
 慌てて上司に報告しようとした時、アネットの携帯電話の呼び出し音が鳴った。こんな時に、と思いながら取ると、それは馴染みのある人物からだった。
『久し振りですね、アネット』
「探? どうしたの、今頃」
『KID、いや、“1412”から貴方宛てにメールが届くと思うのでその連絡に』
「それならもう届いたわ。どうして貴方がそれを知っているの?」
『僕が彼に貴方のアドレスを教えたからです。ICPOで僕のよく知っている人間がいたら教えて欲しいと頼まれましてね。謂わば僕は仲介役です。彼なら僕などに聞かなくてもそのくらいの情報は幾らでも手に入れられたでしょうが、僕を間に挟むことで信頼性を高め、本物だと思わせたかったのでしょう。添付されたファイルの現物も、もうじき僕の名前で貴方の元に届くと思います』
「ちょっと待って、探。じゃあ貴方は、彼の正体を知っているの?」
 アネットの緊張した電話の遣り取りに、周りの同僚たちもざわめきだした。
『ええ、知っています。彼の目的も知ってしまいました。だから僕はもう彼を捕まえることはできない。この件に関しては、僕は彼の協力者なんです。何かあったら僕に連絡を下さい。僕から彼に伝えます。では今日のところはこれで』
 電話が切れた後、暫し呆然としていたアネットに同僚が声を掛けた。
「アネット、一体どんな電話だったんだい? そんな呆けた顔をして」
「探って、日本の白馬氏の息子だろう?」
 それらの声にハッと意識を取り戻して、アネットは足早に上司の元へと足を運んだ。





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