シュナイゼルたちと共に本国に戻ったロイドは、その後、セシルと共に軍を退役した。シュナイゼルは悪友ともいえるロイドのこの行動に不信を持ったが、ロイドはそれに関するシュナイゼルの問いかけには、
「他にやりたいことができたんだー」
と嬉しそうに答えて済ませた。
その態度に、遺留を促しても無駄と判断したシュナイゼルは、ロイドのやりたいようにやらせることにした。やりたいことには徹底的にのめり込むが、やりたくないことは無視かサボるかで、やらせるのは無理だということを長年の付き合いで把握していたこともあったので、そう判断したのだ。
軍を退役したロイドは、とりあえず婚約者のいるエリア11に向かった。しかし会う目的の相手は婚約者ではなく、その祖父である。
婚約者たるミレイの祖父ルーベン・アッシュフォードは、一言でいって、食えない人物である。後見していたマリアンヌ皇妃亡き後、アッシュフォード家は没落したが、ルーベン自身のコネクションは未だ生きていて、それはブリタニア本国に留まらず、EUにも及んでいる。今回のロイドの目的は、そのルーベンのEUでの伝手である。
孫娘のミレイから全てを聞かされていたルーベンは、ロイドの望むままにEUの知人に宛てて紹介状を認めるとロイドに手渡した。
アッシュフォードの屋敷でそんな遣り取りがされている中、遂に魔女は動いた。アッシュフォード学園のクラブハウス居住棟に住むルルーシュに接触を図ったのである。
ある夜、ルルーシュが自室に戻るとそこに見知らぬ少女がいた。ライトグリーンの髪、琥珀色の瞳の少女に、自分が惹きつけられるのが分かった。常のルルーシュならば、得体の知れない相手が自分の部屋にいるとなれば、出ていけ! と追い出していたところだが、今回は何故かそれをする気は起きなかった。
「君は、誰だ……?」
「私の名はC.C.、お前の唯一人の共犯者にして不老不死の魔女」
「俺の、共犯者? それに不老不死って、一体どういうことだ?」
「こういうことだ」
そう言って、C.C.と名乗った少女── 魔女── はルルーシュの腕を取ると、躰を思い切り近付け、唇を奪った。唇はすぐに離れたが、その途端、膨大な情報がルルーシュの頭の中に流れ込んできた。
「C.C.、おまえ……」
「思い出したか? 私の魔王」
「ああ、思い出した、全て。だが何故今頃になって……?」
そう、今頃、だ。クロヴィスは更迭され、コーネリアは本国に帰還し、今はユーフェミアの治めるエリア11。
本来ならクロヴィスを殺し、コーネリアを倒し、神根島でスザクに捕まり父であるブリタニア皇帝の前に引き出されていた自分。
「ゼロ・レクイエムを完遂させないために。おまえはあれで全てがうまく纏まっていくと思っていたのだろうが、とんでもない。様々な失態続きで世界は混沌としたものになった。
それに何より、明日を望んだおまえ自身がいないのが耐えられなかった。だから、時を逆行した」
EUは対ブリタニア戦において当初は劣勢に立たされていたが、過去に一度は破棄されたEDC(欧州防衛共同体)条約を各国が批准し、これによって戦闘に関することの全てを一ヵ所に収束、これをもって各国毎の対応ではなく、EUとして全体で事にあたれるようになったため、無駄がなくなり、それにより、一時はブリタニアに占領されかけていた東欧圏を取り戻して、五分にまで巻き返していた。
その裏に亡き者とされた神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、彼に忠誠を誓ったロイド・アスプルンド伯爵がかかわっていることを知る者は少ない。EDCの上層部の人間だけといっていい。
ロイドはルーベンの伝手を頼ってその紹介状を手にEUの有力な政治家とコンタクトを取り、ルルーシュの智謀を見せて、対ブリタニア戦の構想を披露した。その結果、EU各国は早急にEDC条約に調印し、軍備を整えてブリタニアに対抗したのである。
ブリタニアはコーネリアを出陣させたが、ルルーシュの立てる作戦とEDCによって統制のとれたEUの統合軍相手には苦戦を強いられ、ヨーロッパ大陸から一時的にせよ、撤退せざるを得ず、ここにブリタニアとEUに関していえば、小康状態が誕生したのである。
その小康状態を利用して、ルルーシュはロイドと共に中華連邦に赴いた。ギアス嚮団壊滅のためである。同行するのは、EDCの一部隊だ。ルルーシュはC.C.によって記憶を逆行させたと同時に、両目にギアスを宿した状態となっている。コード保持者であるV.V.にはギアスは効かないが、他の嚮団員には効くだろう。
ルルーシュはEDCの部隊を率いて嚮団を急襲した。その際、隊員たちに対して、中にいる者たち全てを抹殺するよう、全滅させるように、とだけギアスをかけた。
そんな中、V.V.を捕えたEDCの隊員は、銃で致命傷を与えても死ぬことのないV.V.に怖れをなしていたが、ルルーシュはそのままV.V.を連れて神根島を目指した。
EDCの部隊には、誰も入って来ないように見張っているよう指示すると、待ち合わせていたC.C.や、ロイドが捕えているV.V.を連れて遺跡の中に入っていった。
遺跡を通して、Cの世界へと至る。
そこにいたのは、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア、ルルーシュの父親である。
「そなた、ルルーシュか。生きておったのか」
さすがにマリアンヌ似でもあることからか、一目見てシャルルは分かったようだった。
「ええ、あなたの野望を潰えさせるために、地獄から戻って参りました」
ルルーシュの物言いと、その同行者に目を見開く。
「兄さん、C.C.も! 何をするつもりだ、ルルーシュ!?」
「言ったでしょう、あなたの野望を潰えさせるためだと」
「儂の野望? それが何か分かっているとでも言うのか?」 「神殺し。人類の集合無意識である神を殺し、人の意識を一つにする。違いますか?」
「何故それを知っておる?」
捕らわれているV.V.共々、ルルーシュが自分たちの目的を知っていることに驚く。
「C.C.から聞いたのか?」
妥当に考えればそういう結論に達するだろう。何よりこの場にはC.C.がいるのだ。
「だがそんなことはどうでもいい。これでコードが2つ揃った。ラグナレクの接続が行える」
そう言ってシャルルは笑った。
「そうはさせない! 神よ! 俺は何度でも願う。刻の歩みを止めないでくれ! 俺は明日が欲しい!」
そう天空に向かって叫ぶルルーシュの両の瞳が、ギアスの力に赤く染まり、赤い大きな鳥が飛び立つのをシャルルとV.V.は目にした。
「何っ!?」
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