夢の跡　【６】

　枢木スザクの騎士就任祝賀会が催されているアッシュフォード学園クラブハウスのホールに、ロイドが姿を現した。
　ロイドはスザクに仕事だよと言う。
　それは今のスザクには正直ありがたかった。退学届にサインをしたのにこの場に居続けるのは、やはり精神的に辛いものがあったのだ。
　スザクがミレイに挨拶して、会場であるホールを後にしたその後も、生徒たちの喧騒は続いていた。主役がいようがいまいが、要は騒ぐことができる名目があれば良かったのだろう。そのことに気付いたスザクは、祝いの言葉を貰ったばかりだっただけに余計に寂しい思いがした。そのため、頭を仕事だ、と切り替えた。そうでもしなければやってられない心境だった。
　しかしその仕事で式根島に向かう途中でも、スザクには衝撃が待ちうけていた。ロイドから特派を除籍すると通告されたのだ。
「な、何でですか？」
　学園ばかりか特派まで、何故？　スザクには理由が分からなくて、次々と自分の居場所を奪われていくことに怖れが募った。
「だって君、ユーフェミア皇女殿下の騎士になったじゃない。皇女殿下の騎士を、いくら宰相閣下といえど自分の配下に持つことはできない。ついでに言えば、ユーフェミア皇女殿下は軍人じゃないから、軍も除隊の方向だね」
「なんで軍まで……」
「ユーフェミア皇女殿下はコーネリア総督と違って軍属じゃない。軍属じゃない皇族の騎士が、常に主の傍にいるべきなのに、軍人だからって軍に時間を割いて主の傍にいないでいていいわけないじゃない。ちょっと考えれば、いや、考えなくても、このくらい、騎士なら分かることでしょう」
　言外に、ロイドはスザクに騎士としての心構えが足りないと言っているのだ。
「だから特派での任務はこのお出迎えが最後ぉ。まあ、丁度ユーフェミア皇女殿下も同行してるんで、今回は問題ないからね。戻ったら、できるだけ早く軍に除隊届を出しなよ。除隊しても少佐待遇は変わらないはずだから。でないと、騎士としての恰好がつかないからねぇ」
　そうロイドが告げたとほぼ同時にドアが軽くノックされて、ロイドの副官であるセシル・クルーミーが顔を見せた。
「もうすぐ式根島に到着です、用意をお願いしますね」
「はいは〜い」
「は、はい」
　ロイドの軽い調子に対して、重苦しい雰囲気のスザクに、セシルは状況を察した。ロイドが特派からの除籍を通告したのだと。しかし記憶の逆行の件がなくとも、本来これが正しいあるべき姿だったのだから、とセシルはスザクの覚悟のなさ、皇族の騎士としての自覚のなさを思わざるを得なかった。



　式根島で合流した帝国宰相シュナイゼル第２皇子と共に、シュナイゼルが乗艦してきた浮遊航空艦アヴァロンに乗船したロイドたちは、そのまま一路神根島を目指した。
　今回のシュナイゼルの最終目的地である神根島には、エリア11の総督時代にクロヴィスが研究していた遺跡があり、シュナイゼルはそれを自分の目で確かめるためにやってきたのだ。神根島では先に運び込まれたＫＭＦガウェインの“ドルイドシステム”と呼ばれる情報解析システムによって、遺跡の調査が進められていた。



　スザクたちが神根島にいる頃、エリア11では、ナリタ戦役で敗れ、辛うじて逃れた片瀬少将をはじめとした日本解放戦線の生き残りの者たちが、流体サクラダイトを積み込んで藤堂たちとの合流もままならぬ中、国外脱出を図っていた。しかしそれはコーネリアの知るところとなり、ブリタニア軍の奇襲を受けてなすすべもなく撃沈され、残された藤堂と四聖剣たちは、エリア11に数は少なくなったとはいえ、未だ残るテロリストグループを糾合し、起死回生を図るべくトウキョウ租界の政庁に対して一斉蜂起の攻撃を仕掛けた。だが所詮は烏合の衆、キョウトからの支援があるとはいえ、ブリタニア軍の前に敵うわけもなく、ほとんどの者が戦死、あるいは捕縛の憂き目にあい、これによりエリア11のテロ活動はほぼ収束したと思われた。
　だがその一方で、中華連邦に政治亡命していた、枢木政権下で官房長官の職にあった澤崎が中華の力を借りてキュウシュウに攻め寄せてきた。
　神根島にいたアヴァロンは、急遽キュウシュウに向かい、先に応戦していたブリタニア軍と合流、スザクはランスロットで出撃し、辛うじてこれを撃退。これがスザクの特派における最後の任務となった。
　これらのことにより、エリア11は完全に平定されたと判断したコーネリアは、総督位を妹のユーフェミアに譲り、ダールトン将軍をユーフェミアのために残して、シュナイゼルと共にアヴァロンで本国に帰還した。これにはロイドたち特派も同行している。
　そしてエリア11に残ったユーフェミアは、今後はスザクを選任騎士とし、副総督ではなく総督として、正式にエリア11を治めていくことになる。