夢の跡 【8】




 遺跡の出入り口から出てきたのは、V.V.という死なない躰をもった不思議な子供を除いた三人── ルルーシュ、ロイド、C.C.── だった。
 ルルーシュは詳しいことは何も言わず、ただ「終わった」とだけ告げた。
 それを補うようにロイドが、「一応念のためにこの出入り口を破壊して、誰も出入りできないようにしてくれ」とEDCの隊員に告げ、彼らはその指示に従って出入り口を爆破した。
 それを見届けた後、ルルーシュはまだやることがある、これから自分たちは一度エリア11に立ち寄った後にブリタニア本国に渡る旨を、そしてEDCの隊員たちには、元の部隊に戻るように指示を出した。



 Cの世界で、ルルーシュが神── 人の集合無意識── にギアスをかけると、神に否定されたシャルルとV.V.の躰は、徐々にその形を消滅させていった。
 それを見届けて、それからマリアンヌの精神体が残ってしまったな、と思ったが、そればかりはどうにもできず、たとえ残ったままだとしても、今の状態ではマリアンヌは何もできまいとのC.C.の言葉に納得して、三人はCの世界を後にした。
 残る問題はシュナイゼルであり、これは本国ブリタニアに戻るしか方法はないということになり、三人は遺跡を後にして、連絡しておいたアッシュフォードが手配しておいてくれた船でエリア11本土に戻り、EDCの隊員とはそのまま別れた。
「ルルーシュ様!」
 アッシュフォード学園に戻るなり、ミレイはそう叫んで駆け寄ってきた。
「ご無事のご帰還、何よりでございます」
 そう告げるミレイの眦には光るものがあった。
「心配をかけたな」
「全て終わったのですか?」
「いや、まだシュナイゼルが残っている。あの男は放置しておくわけにはいかない。これから本国に向かう。そのために今一度おまえに会って、ナナリーのことを頼んでおきたかった」
「そのことでしたらお任せください。ナナリー様はこのアッシュフォードが確かにお預かりし、お守り申し上げます」
「そうか。済まないが頼む」
 それだけを告げて、ルルーシュはミレイに背を向けた。
「ルルーシュ様、ナナリー様に会ってはいかれないのですか?」
「未練が残るだけだ」
 振り向いてそう答えると、ルルーシュはそのまま歩き始めた。もう戻られる気はないのだと、ミレイは納得し、深く礼をしてその背を見送った。



 ブリタニア本国、帝都ペンドラゴンの宮殿では、数日前から皇帝の姿が見えず、皇族や貴族、臣下たちが右往左往していた。執務的には宰相のシュナイゼルがいることから滞ることなく済んでいるのが幸いなところである。
 そんな中、各エリアの皇族総督たちが、皇帝陛下の呼び出しだといって戻ってき始めた。
 その様にシュナイゼルは首を傾げる。もちろんシュナイゼルだけではなく他の皇族たちもだ。何せその呼び出しをかけたという皇帝が行方知れずなのだから。
 そうこうして結局皇族全てが宮殿に集まったところで、皇帝から玉座の間と呼ばれる大広間への招集がかかった。招集されたのは皇族だけではなく、現在ペンドラゴンにいる貴族たちも全てである。大広間はそれら全てが集ってもまだ余裕があり、文武百官も勢揃いの状態となった。
「皇帝陛下御入来」
 近衛の先触れの声に続いて玉座の元へやってきたのは、第98代皇帝ではなく、まだ20歳にも満たないだろう学生服らしきものを身に纏った少年と、宰相シュナイゼルの友人であるロイド・アスプルンド伯爵であった。
「私が第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
 少年はそう名乗り、玉座に腰を降ろした。
「ルルーシュ、生きていたんだね」
 そう言って一歩前に出てきたのは、第1皇子のオデュッセウスだった。
「ありがとうございます、異母兄上(あにうえ)。地獄から舞い戻って参りました」
「それは良かった。けれどそれにしては一体どういうことだい? 君が皇帝だなんて。皇帝は父上のはずだろう」
「父上はエリア11の神根島で私が弑しました。ですから国是である弱肉強食に従って、私が次の99代の皇帝というわけです」
 ルルーシュの微笑を浮かべながらのその言葉に驚いたのはオデュッセウスだけではなく、大広間にいた全員だった。動揺が、ざわめきが広がっていく。
「なんだって、ルルーシュ!? 父上を弑したというのかい!?」
「……もっと分かりやすくお話しましょう。……我を認めよ!」
 ルルーシュの両目から飛び出した赤い大きな鳥が大広間を舞った。
 その一声で、ざわめいていた大広間が静まり、続いて「「「オールハイルルルーシュ!」」」の掛け声が響き始めた。
 ルルーシュとロイドは、その中にシュナイゼルとコーネリアの姿を認めてホッと安心の溜息をそれと分からぬように吐いた。それだけではない、シャルルのナイト・オブ・ラウンズもワンのビスマルクをはじめ皆揃っている。これで反抗勢力はこの場にいない地方貴族たちくらいだろうと思われたからだ。



 ルルーシュはそうして登極して後、ドラスティックな改革を推し進めた。
 皇族特権を廃し、能力の認められない皇族たちを平民に落とし、貴族という特権階級も廃した。財閥を解体し、既得権を廃して富の配分の平等を目指した。抵抗勢力に対しては、ある程度の予想は立っており、ルルーシュに忠誠を誓った者たち── その中には、マリアンヌの長子であるルルーシュが皇帝となったと知ってエリア11から飛ぶようにしてやってきたジェレミア・ゴットバルトもいた── が次々と平らげていった。
 また対外的には、シャルル時代にエリア── 植民地── となった国に対して、順を追いながら解放していくことを約束し、まずはナンバーズ制度を廃して差別を禁止した。穏健融和路線を取り、諸外国からは歓迎された。特にEUは、EDCとして自分たちの国へのブリタニアの攻撃を避けてくれた人物であっただけに、信用もおけるとして大歓迎だった。
 ルルーシュの構想としては、いずれブリタニアを立憲君主制にし、また、世界的にはEUのようにもっと世界規模で話し合いの場を設ける場を創り出すことも視野に入れている。
 ルルーシュは以前にはできなかったことを進めることが、逆行という機会を与えてくれた神、いや、魔女C.C.への恩返しの一つと考えていた。C.C.の一番の望みを叶えてやれないのは心苦しかったが。
 それを見越したようにC.C.はルルーシュの傍らで告げる。
「おまえが笑って生きていてくれれば、私も笑える。それで十分だ」
「立場柄、いつも笑っていられはしないが?」
「それでもだ。それでも、おまえがこうして生きてくれていることが何より嬉しい」
 そう言って、C.C.は笑った。

── The End




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