リヴァルは悩んでいた。
だがどれほど考え込んでも一人では答えが出そうになくて、悩んだ挙句に唯一人答えを持っていると思われる生徒会長のミレイに相談することにした。
「会長」
「何かなー、リヴァル」
「その、是非相談に乗ってもらいたいことがあるんすけど」
いつにない真剣な表情のリヴァルの様子に、ミレイは、
「じゃあ奥に行きましょうか」
現在生徒会室にいるのは、偶々ミレイとリヴァルの二人だけだが、いつ誰が入ってくるかもしれない。ならば、とミレイは隣室の生徒会長室を示した。
会長室に入っても、リヴァルはなかなか口を開かなかった。どう言って切り出したものか、そこでまた悩んでしまったのだ。
黙ってそんなリヴァルの様子を見ていたミレイだったが、もしや、と思って自分の方から口を開いた。
「リヴァル、相談事の内容っていうのは、もしかしてルルちゃんのことだったりするのかしら?」
ミレイの言葉に俯いていたリヴァルは、顔を上げて目を丸くしていた。
「どうして分かったんすか?」
「多分、私と同じだろうと思ったからよ」
「同じ、って、じゃ、じゃあ、あの夢は……」
「C.C.っていう不老不死の魔女、と名乗った少女の見せた夢、いいえ、未来」
言いながら、ミレイは首を振った。
「それも違うわね。過去にあったこと。正確には過去とは違うのかもしれないけれど。私たちは一度それを経験し、遣り直しをさせて貰うためのチャンスを貰った、私はそう思ってる」
「じゃあ、ルルーシュが皇族っていうのは……」
「事実よ。ルルーシュの本当の名前は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、第11皇子殿下。ナナちゃんは、その実妹で第6皇女殿下。ブリタニアの日本侵攻の折りに亡くなったとされている悲劇の皇族の二人。
アッシュフォード家は、お二人の母君であるマリアンヌ皇妃の後見をしていたのだけど、アリエスの悲劇と呼ばれる事件でマリアンヌ様が殺され爵位を剥奪されて没落した。でもせめて遺されたお二人のお子様だけでもと、いち早くエリア11となったこの地に来て、お二人を庇護して、ランペルージという偽りのIDを作り、守るための箱庭としてこの学園を創った」
ミレイは冷静にリヴァルに事実を告げた。
呆然としながらそれを聞いていたリヴァルは、焦りを見せた。
「じゃあ、俺は、俺たちはこれからどうすればいいんすか? どうすれば、ルルーシュがあんな死に方をするのを防げるんすか?」
「それは」
ミレイは言葉を続けるのを躊躇った。何故なら、その答えはミレイにもまだ見い出せていないからだ。
「それは正直私にも分からないわ。ただ、とりあえずは一つ一つ懸案事項、といっていいのかしらね、それを取り除いていくこと。ルルーシュ様の進まれる道を以前とは変えていくこと、それくらいしか思い付かないの。
それに、この記憶を持つのが私とリヴァルの他にいるかどうか、それによっても選択肢は変わってくる」
「会長……」
「リヴァル、とりあえず何かするように、魔女に言われたりしなかった?」
「え? あ、えーと……」
リヴァルは必死に思い出す。そして、ああ、というように両手を打った、
「とりあえず、テロリストの毒ガス奪取から離れろって」
「心当たりはある?」
「えっ、と……、一度、代打ちの帰りに、トラックと事故を起こしかけたことがあって、あのトラック、何だか、今思い出せば焦って逃げているような雰囲気だったから、多分、それじゃないかと。その後に、シンジュクの掃討作戦みたいなの発令されてたし」
「それは何時?」
「記憶に間違いがなければ、明日……」
ミレイは顎に右手を当てて考え込んだ。
「代打ちそのものは、避けられないわよね?」
「絶対とは言えないけど、多分無理っすよ」
「じゃあ、交通規制がかかったとかなんとかルルちゃんに言って、帰り道を変えて。それくらいならできるでしょう?」
「それくらいなら」
「とりあえず、思い付くことを一つ一つ片付けていきましょう。今はそれしかないわ」
「は、はい」
リヴァルは、完全ではないものの、相談できる相手がいて、それなりの道を示してもらえたことにホッとしたように返事をした。
「それから、このことは、今のところ私たち二人だけの秘密よ、いいわね?」
「分かってます!」
悪友にあんな嫌な死に方をさせないで済ませるためだ、否やのあろうはずがない。加えて秘密を共有しているのが、自分が好意を持っているミレイだけという嬉しさも、不謹慎だなと思いながらもリヴァルの頭の隅を掠めていった。
翌日の代打ちの帰り、リヴァルはミレイから言われたように、いつもとは違う道を選んだ。
「リヴァル、道が違わないか?」
「ああ、おまえが代打ちやってる間に、マスターから交通規制が出たらしい、って話を聞いたから」
なんとか誤魔化せたろうか、と思いつつ、昨夜練習した言葉を告げる。
「そうか」
空を軍のヘリが数機飛んでいくのが見えた。
「あれかな。ってことは、テロにでも関係して何かあったのかもな」
ルルーシュは自分たちとは反対方向に飛び去っていくヘリを見ながらそう呟いた。
その言葉を聞いて、リヴァルはなんとか誤魔化せたみたいだと一安心しながら、バイクを学園に向けて走らせた。
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