ルルーシュが何時の間にか弟のロロと共に学園から姿を消したと思っていたら、シャルル皇帝を弑逆してブリタニアの第99代皇帝になっていて、“悪逆皇帝”と人々からと謗られ、遂にはゼロの剣の前に倒れた。
何故? どうして? ルルちゃんに“悪逆皇帝”なんて似合わない。そんなの嘘に決まってる、何かの間違いよ!
そう思いながらも昼間の光景が蘇り、ミレイはその夜は半分泣きながらベッドに入った。眠れそうにないと思いながら。
自室に一人。他には誰もいないはずなのに、閉めたはずの窓から風が入ってきて、そして人の気配にミレイは起き上がった。
そのミレイの前には一人のライトグリーンの髪と琥珀色の瞳の少女が立っていた。
「あなたは、誰?」
本来なら大声を上げて誰か人を呼ぶべきところだろうに、ミレイはそれをせずに、静かに少女に問いかけていた。
「私の名はC.C.。ルルーシュの唯一人の共犯者にして不老不死の魔女」
「ルルちゃんの……共犯、者……?」
少女の言葉を反芻しながら、ミレイは考える。
なら、この少女がいなければルルーシュは死なずに済んだのだろうか、“悪逆皇帝”などと謗られることはなかったのだろうかと。
それを察したかのように、少女は話を続ける。
「シャルルは昨日という止まった時間を望み、シュナイゼルは今日という日で時間を止めることを望み、ルルーシュだけが時間を止めることなく明日を望んだ。
どうだ、ミレイ・アッシュフォード。おまえならルルーシュの力となることができるか? 共に戦い、彼を守り、彼の未来を得ることができるか?」
「私にそんなことができると?」
「おまえだから聞いている」
「なら、やるわ。私はルルちゃんを守る、彼を守って、彼に明日という名の未来をあげる」
そうミレイが答えると、C.C.と名乗った魔女はその手を伸ばしてミレイの掌と合わせた。
その合わさった掌を通して全てが見えてくる。いなくなった妹、いるはずのない弟、奪われた記憶、そして彼の目指したもの── それら全てが、ミレイの中に流れ込んでくる。
ミレイの頬に、一筋の涙が零れた。
「ルルーシュ様」
半ば呆然と呟かれたその名に、魔女は満足したように笑うと、後はおまえ次第だ、とそう告げて、ミレイの前から姿を消した。
朝、目覚ましのアラームが煩く鳴っているのを、布団の中から腕を伸ばして止める。それからミレイは、うーん、と伸びをして、ベッドの上に起き上がった。
そうして目に入ってきた光景は、かつて見慣れた光景であり、そしてまた違うものでもあった。
「夢?」
頬に手をやると、涙を流した痕が残っていた。
「夢じゃ、なかった? なら……」
時間が、戻っている? 自分がアッシュフォード学園の会長で、ルルーシュが副会長を務めていたあの頃に。
自分の机の上の卓上カレンダーを確認しながら、ミレイはベッドから降りた。
同室の相方は、部活の朝練のために、すでに部屋にはいない。これはかつての日々と同じ。
「やり直してみせる。ルルーシュ様をあんなふうに死なせないためにも」
己を魔女と告げた少女が、何故自分を選んだのか、選ばれたのが果たして自分だけなのか、それはまだ分からないけれど、あのでき事こそを夢の中のことにするために、今は己のできることから始めよう。
ミレイはそう思い、自分自身に誓った。
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