Thank you. And Good-bye. 【2】




 ミレイ・アッシュフォード。
 ルーベンの孫娘にして、母が殺される前は、ヴィ家の後見貴族の娘ということもあって、俺の婚約者候補の筆頭だった。エリアとされた日本にルーベンと共にやってきてくれた。アッシュフォード学園を── 俺たちのこともあって── 箱庭と呼び、俺の前では、いや、他の者の前でも口にしたことはなかったが、シャルルによる記憶改竄のギアスをかけられるまでは、“箱庭の番人”と自称していたことを俺は知っている。アッシュフォード一族の中では、ルーベンとミレイだけが真剣に俺たち兄妹のことを思い、考えてくれていた、そう信じることのできる存在だった。
 そして俺たちのことを考えてのことだろう、少しでも俺たちが楽しく過ごせるようにと、高等部になりその生徒会長になってからは、学園理事長であるルーベンの孫娘ということも手伝って、様々なイベントを催した。あるいは、俺たちのために、との思考と、イベントを繰り返し、それを他の生徒たちも十分に楽しんでいることを受けて、彼女の本来の性格に拍車をかけたのかもしれないが、中には本当にとんでもないものもあり、いつしか影では“お祭り娘”との名で呼ばれるようになっていた。そしてミレイの催すイベント── お祭り── に一番苦労させられていたのは、誰でもない、副会長という立場になっていた俺だった。俺たちが楽しく過ごせるように、と考えて始められたことを考えると、本末転倒になっていたような気がする。とはいえ、全く楽しくなかったということはない、笑って楽しく過ごせたものもなくはなかった。
 記憶改竄がなされた後も、基本的に彼女の態度は変わらなかった。ただ、ナナリーの代わりに、その立場にロロが立っただけで。
 ミレイがいなかったら、学園生活は相当味気ないものとなっていたかもしれない。俺を心身共に救ってくれたミレイに、深い感謝を。

 俺とミレイがいる生徒会のメンバーということでいえば、まずリヴァル・カルデモンド。
 リヴァルは新聞部との掛け持ちで、学園では一番顔が広いと言える存在だったかもしれない。そして俺にとっては、俺の出自など、決して真実を話すことのできる相手ではなかったが── リヴァルに限らず、誰にも言えることではなかったが── 俺にとっては悪友と言っていい大切な友人だった。リヴァルの伝手と言っていいのだろうか、賭けチェスに手を出すことも多々あり、結構いい稼ぎになって、ナナリーの治療費や、学生を終えてからの生活を考えた場合の費用にと、結構な額を貯蓄することができた。貯蓄はそれ以外にも色々と影で手を出してはいたが。リヴァルにも、というより、ブラック・リベリオンの後、アッシュフォード一族と学園に残った生徒会のメンバーには皆、シャルルによる記憶改竄がされていたが、ナナリーとロロの件以外では特に何も変わらず、俺にとって大切な悪友であり続けた。ブラック・リベリオンの後も、第2次トウキョウ決戦の後も、俺がブリタニアの皇帝として立ち、アッシュフォード学園で行われた超合集国連合との会談のために訪れた時も、俺を本気で心配してくれていた、按じてくれていた。感謝している。

 シャーリー・フェネット。
 恋愛ごとには正直俺は鈍い。皆にも言われていることだが、俺自身にも多少は自覚はある。それでも、シャーリーが俺に好意を寄せてくれていたのは分かっていた。だが黒の騎士団として活動したナリタの戦闘の際、シャーリーの父親を巻き込んで死なせてしまった。そしてシャーリーは偶然にも俺がゼロであることを知って苦悩していた。そのことを知った俺は、ギアスを用いてシャーリーに俺のことを忘れさせた。それが他人ごっこの始まり。
 シャーリーにもシャルルによる記憶改竄が行われて、それによって俺がかけたギアスは、解除されたわけではなかったが、他人ごっこは終わっていた。彼女にとっては、俺は彼女が好意を寄せる、同じ生徒会に属するメンバーに戻っていた。だが、ギアス嚮団から放たれた刺客、と言っていいのだろう、ジェレミアによってギアスを解除され、全てを思い出したシャーリーは、俺の弟役となっていたロロに、「一緒にナナリーを」と告げることでロロを不安にさせ、それがロロに自分を殺させる引き金となった。俺が死なせてしまったも同然だ。けれど、事切れる直前まで、俺のことを好きだと、生まれ変わってもまた好きになると、そう繰り返していた。
 俺のために死なせてしまったシャーリー。父親を、そして遂には彼女自身の命を、俺のために失わせてしまった。何度詫びても詫びのしようがない。全ては俺の不徳の致すところだ。だがこんな俺を、父親の仇のゼロであると分かりながらも、最期まで俺を想ってくれていた彼女に、深い感謝を。

 ニーナ・アインシュタイン。
 彼女はカワグチ湖の事件をきっかけに、俺の異母妹(いもうと)であるユーフェミアに敬愛を抱くようになっていた。まるで、ニーナにとってユーフェミアは女神だとでも言うように崇拝するようになっていた。そしてそんなユーフェミアを殺したゼロを憎み、それがきっかけでフレイヤという大量破壊兵器を生み出した。それがどれほどの物なのか、理解しきらぬままに。だが目の前で起きた惨劇に、悲劇に、彼女は己の為したことに気付き、苦悩していた。フレイヤがトウキョウ租界で使用された第2次トウキョウ決戦の後、フレイヤの開発者としてブリタニアはもとより、他の多くの国々から身柄を探されていたが、アッシュフォード学園でミレイやリヴァルによって匿われていた。それを知った皇帝となっていた俺は、超合集国連合との会談を利用して、ニーナの身柄を押さえた。いや、連合との会談の真の目的の半分以上は、ニーナの身柄を確保することにあったと言ってよかったかもしれない。そして全てを話し、トウキョウ租界のこともあっただろうが、続いてペンドラゴンにもフレイヤが投下され、億に上らんとする人々が虐殺され、世界一といっていいブリタニア帝国の帝都が消滅し、巨大なクレーターにショックを受け、俺を憎みながらも、それでも、フレイヤを無効化させるためのアンチ・フレイヤ・システムの開発に協力してくれた。それは、彼女にしてみれば、ユーフェミアの仇である俺が、ゼロ・レクイエムという計画の全てを話したことも一つの要因となっていたかもしれないが、対フレイヤについて協力し、ひいてはゼロ・レクイエムに協力してくれたことを、深く感謝している。

 ジェレミア・ゴットバルト。
“閃光”の異名をとっていた母を敬愛していたという。そしてその母が殺された日が、ジェレミアの初任務の日であり、その場所はヴィ家のアリエス離宮だった。つまり、最初の任務で守るべき、敬愛する皇妃を守ることができず、しかも、日本に送り出されたその皇妃の遺児二人を日本人に殺された。それはジェレミアにとってどれほどの後悔を抱かせ、日本人に対して憎しみを募らせたことだろう。だからジェレミアは純血派を組織したのだ。
 そんな中で確実に地位を得ていったにも関わらず、エリア11総督である第3皇子クロヴィスを殺され、その犯人として捉えたスザクを奪われた、俺によって。しかもあらぬ濡れ衣をきせられて。そのため、ジェレミアはゼロとなった俺を憎み、付け狙った。しかし不幸なことに、ナリタの戦いで重傷を負い、その躰を実験体とされた。改造されたのだ。そうしてブラック・リベリオンの時、浚われたナナリーを救うべく戦線を離脱して神根島に向かった俺がC.C.と共に騎乗していた、ブリタニアから奪ったKMFガウェインをKGFで追ってきた。そんな彼を、C.C.は俺が降りたガウェインをぶつけることでもろともに海底深く沈んだ。そんなジェレミアを拾い上げたのがギアス嚮団。その嚮団で更なる改造を受け、ギアス・キャンセラーという力を与えられ、俺に対する刺客としてエリア11に送り込まれた。しかしその先で、俺がゼロとなった理由を知ると、ジェレミアはブリタニアを裏切り、敬愛していた皇妃マリアンヌの遺児である俺に、俺がゼロとなった原因を知り、膝を屈して黒の騎士団に身を投じた。その時から、ジェレミアは俺に忠実な存在となった。
 そして今この時も、ゼロ・レクイエムの協力者の中でただ一人、悪逆皇帝の忠実な騎士としてパレードの先頭に立っている。この後、終生に渡って批難の言葉を受け続けることになるであろうことを覚悟の上で。ゼロとしての俺によって汚名をきせられていながら、ゼロが俺だったというそれだけで、宗旨を変えたのだ。俺の望むことなら、自分の身がどうなるかなど考えもせずに。本来なら、そう、ゼロの正体が俺でさえなければ、ジェレミアはゼロを憎み、そして追い続けたであろうに。
 ジェレミアの己の身を投げ打ってまでの俺に対する忠誠に、忠義に、感謝を。

 篠崎咲世子。
 元はルーベンが身体障害を負ったナナリーのための世話係として手配した名誉ブリタニア人。出自を辿れば、篠崎流という忍びの家系の当主。元をただせばブリタニアから日本を取り戻すことを目的として、黒の騎士団に入った女性。もっともそれは、ディートハルトが彼女を利用しようと密かにはかったことが大元の理由ではあったが。それでも、咲世子自身の目的は、少なくとも最初は日本を取り戻すことにあったはずだ。しかしどういう心境の変化があったのか、7年にも渡って俺たちの傍にあって世話をしてくれていたことも要因の一つだったと言えるだろうか。俺がゼロだと知ってからは、俺に仕えると、そう言い放ってどこまでも忠実に俺に従ってくれた。己の元々の目的すらも捨てて。俺に対する忠誠心は、ジェレミアと双璧だと言っても過言ではないだろう。計画の関係で、今の咲世子は俺を裏切り傍を離れたことになっており、現在は牢の中にその身をおいているが。
 そんな、どこまでも自分を捨ててまで俺に従ってくれた彼女にも、ジェレミアと同様に深い感謝を。

 ロイド・アスプルンドとセシル・クルーミー。
 かつてはシュナイゼルが組織した特別派遣嚮同技術部── 通称、特派── の主任とその副官。
 特派が、つまりはロイドが開発したKMFランスロットのデヴァイサーに適合率の関係からスザクを選んだ変わり者の科学者たち。マッド・サイエンテストと言ってもいいのか。スザクがラウンズとなって以降は、キャメロットと名を変え、ナイト・オブ・セブンのための組織となっていた。そしてそのスザクとの関係から、俺が皇帝位となって以降、計画の協力者として、特にフレイヤの無効化の研究に、ニーナと共に力を貸してくれた。付き合いとしては短いものだったが、そしてミッション・アパティアレティア実行により、ニーナや咲世子と共に俺を裏切るという行動をとらせたが、協力に感謝している。





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