皇女の騎士 【4】 |
その日、枢木スザクはアッシュフォード学園のクラブハウスにあるホールで、ナナリーの企画立案による生徒会主催の騎士叙任、及び少佐昇進の祝賀会に出席していた。出席している生徒たちは、次々とスザクを取り囲んで祝いを述べている。自分たちの学園から、同級生から、クラスから、皇族の騎士が任命されたことに喜びと誇りを抱いている。 だが純血派を名乗る生徒は、誰一人として出席していない。彼らにしてみれば、いくら名誉とはいえナンバーズ、イレブンが皇族の騎士となるなど、とても認められるものではない。もちろん、そのようなことを直接口にすることは皇族に対する不敬となるために、皆、心の中でそう思っているに過ぎないが。 しかしそれは学園の外、特に由緒ある貴族ともなればもっと顕著で、言葉にせずとも、皇族というだけでお飾りの副総督がナンバーズを騎士としたことに、ユーフェミアに対してはもちろんだが、副総督たる実妹のユーフェミアに何も言えずにいる総督であり実姉であるコーネリアに対しても、反発心を強めていた。 こうしてユーフェミアの知らぬところで、彼女は知らぬまま、気付かぬままに、政敵を作っていたのである。それが総督たる彼女の姉、コーネリアにも波及することも知らずに。 祝賀会もたけなわ、扉が開いて生徒会メンバーの一人であるニーナと、もう一人、学園では見かけない長身の男性が入ってきた。 男性を知っている生徒会長のミレイが、続いてスザクが慌てて二人の元に駆け寄った。 その男性が伯爵であり、ミレイの婚約者であると知った生徒会メンバーの一人であるリヴァルは、ミレイに少なからず想いを寄せていただけに大層なショックを受けていた。 「軍務ですか、ロイドさん?」 「そう。お客様をお迎えに、ランスロットとユーフェミア皇女殿下もご一緒にね」 そうしてスザクはナナリーに「ごめんね」と謝りながら祝賀会場を後にして去っていった。これがルルーシュとナナリー、兄妹二人の、かつて誓いを立ててくれたスザクに対する訣別の儀式だったとも知らずに。 船が目的地── 式根島── に着く前に、話があるとロイドはスザクを自分の部屋に呼び出した。 「本当はもっと早くに分かってたらしいんだけど、何せ連絡が入ったのが今朝でねぇ」 ロイドはスザクにソファを勧め、自分もその向かい側に腰を降ろした。 「何かあったんですか?」 「うーん、実は君の所属についてなんだけどねぇ」 「ロイドさん、はっきり言ってください」 「二人の皇族に仕えるっていうのはぁ、やっぱりまずいってことでねぇ、だからつまりぃ、君はこの特派から除籍、もちろんランスロットのパーツも今日限り、でもって軍は退役、皇女殿下の騎士に専念するようにぃ、とのお達しなんだよぉ。ってことで、特派としての君の任務は今日が最後ぉ」 「何でですか? セシルさんからロイドさんが話を付けたって……」 スザクは身を乗り出すようにしてロイドを問い詰めた。 「うん、僕は宰相閣下と話を付けたんだけどぉ、何でも枢密院からクレームが入ったとかでねぇ」 「枢…密院? 何ですか、その枢密、院って?」 「あれ、知らない? 駄目だよぉ、自分の所属する国の機関はきちんと把握しとかないと」 ロイドは知らないと首を傾げるスザクに、諭すように言葉を綴る。 「枢密院は、皇帝陛下直属の諮問機関なんだけど、それ以外に、皇族や貴族、軍の将官たちの行状なんかの調査もしてるとこでねぇ。そこからクレームが入ったんだよ」 「特派のことは分かりましたけど、軍は何故です? 騎士は軍属じゃまずいんですか?」 「だって君の主のユーフェミア殿下は軍とは関係ないじゃない。だからだよ」 「……そんな……」 呆然とするスザクに、ロイドは更に続ける。 「あと学校の方もね、辞めるようにって。でも高校中退ってのもあんまり外聞よくないからぁ、通信教育かなんかで高校卒業の資格とるしかないね。その辺はあとでミレイ君と相談してあげるから」 「……学校のことまで、その、枢密院とやらが言ってるんですか?」 「そ。選任騎士が主の傍にいないで学校に通っているのはまずいってことでねぇ。聞いたところによると、猊下が今回の件では随分とお怒りらしくてねぇ」 「猊下?」 「枢密院のトップ、枢機卿猊下。さすがの宰相閣下も、皇帝ちゃんを除いて唯一頭の上がらない方ぁ。そういうことだから、今回の任務が終わったら特派にある荷物の整理してね。あと、学校の方も挨拶に行っといで。それくらいは構わないと思うから」 話は終わったとばかりに、ロイドはソファから立ち上がり扉に向かった。 「あ、そうだ。軍は退役だけど、少佐待遇はそのまんまだから。だから尉官にまでは命令できる立場だよ。でないと、万一何かあった時に困るからねぇ」 ロイドはドアを開けると最後に、「目的地の港に着くまでに気持ちの整理しときなよ、枢木卿」と、そう告げてそのまま去っていった。 後に残されたスザクは、情報が多過ぎたこともあり、唯呆然としているだけだった。 |