トウキョウ租界に戻ってきたスザクは、時間を見計らってアッシュフォード学園のクラブハウスにルルーシュとナナリーを訪ねた。
何時ものようにテラスにあるテーブルを囲んで、ルルーシュの淹れた紅茶を飲む。その間、スザクはどう話をしたものか、ずっと悩んでいた。
「浮かない顔だな。何かあったのか?」
スザクは普段と変わらないつもりでいたのに、やはり表情に出ていたらしいと思った。元々、心に思っていることを隠すのが苦手なスザクだ。そして片やルルーシュはそれに── 隠すのも読むのも── 長けている。僅かの不調も見逃さない。
「スザクさん?」
ナナリーに促すように名前を呼ばれて、スザクは重い口を開いた。
「……うん、実は、学校を辞めることになって」
「辞める? 何故ですか?」
スザクが学校に通えるようにしたのはユーフェミア皇女のはずで、それを考えればそう簡単に辞めるとは思えない。
「辞めるっていうか、ロイドさんが会長さんに話を通して、通信教育みたいな形で勉強できるようにするって言ってくれてるんだ。だけど、今までみたいに通うことはできなくなるから」
「ユーフェミアの騎士になったことで、何処かから横槍が入ったのか?」
「何で分かるの、ルルーシュ?」
「そのくらい少し考えれば分かるさ。大方、皇女の騎士が何時もお傍にいないで学校に通ってるとは何事か、てなところだろう」
ルルーシュの言葉を受けて、スザクは呆然とした。
「スザク?」
「ホントによく分かるね、確かにその通りだよ」
「ついでにいえば、出所は枢密院だろう。皇族の行状にあれこれ言えるのはあそこくらいだからな」
「さすがだね、そこまで分かるなんて」
スザクは溜息を吐きながら応えた。
「おまえやユーフェミアが知らな過ぎるんだよ。国の政治機構くらい、少しは勉強しとけ」
「うん、そうするよ」
それから少し雑談を交わした後、スザクは帰っていった。
「次、何時来れるか分からないけど、また来るから」
「ああ、待っててやるよ」
「お気を付けて」
「じゃあ」
そう短いやり取りをして、スザクは帰っていった。
「ユフィお異母姉さまもスザクさんも、愚かですね」
「仕方ないさ。ユフィは世間知らずで、スザクは馬鹿だ。国の根幹すら知らずに、何が中から変えられるものやら」
スザクの姿が見えなくなってから交わされた二人の会話である。
「一時はスザクをおまえの騎士に、とも考えていたんだが」
「結構ですわ。誓いを忘れた騎士なんて不要です。私たちのスザクさんは、あの夏だけのことだったんですから。それに何より、今の私には咲世子さんがいますもの」
そんな兄妹の後ろに、何時の間にやら咲世子が静かに佇んでいた。
── The End
|