皇女の騎士 【2】




『枢木スザク、汝、騎士の誓約を立て、……』
 何人かの者が群がって見ているTVには、第3皇女にしてエリア11副総督であるユーフェミアの枢木スザクに対する騎士叙任式がLIVEで中継されている映像が映し出されている。
「名誉とはいえ、イレブンが騎士とはなぁ」
「何か取り入りでもしたんじゃないのか?」
「しかも少佐だってぇ?」
 叙任式会場にいる者たちも、中継を見ている者たちも、それぞれに勝手な憶測、中にはスキャンダル的なことまで並べ立てている。



「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、汝、枢木スザクを騎士と認めます」
 式典が終わり、スザクはユーフェミアの傍らに立つと、来賓たちの方へ向き直った。
 しかし誰も何の反応もない。否、言葉として出されていないだけで、皆、心の中ではこの騎士を拒否している。認めたくないのだ、ナンバーズ上がりの騎士など。
 誰も拍手しない中、スザクの上司であるロイド・アスプルンド伯がパンパンと拍手し、それに続きダールトン将軍が行ったため、つられるように、心ならずも出席者たちは次々と拍手を行った。
 それらの様子をTVで見ていたルルーシュは、昔の誓いを忘れ、ユーフェミアに膝を折って騎士の誓約を立てたスザクを頭の中から切り捨てた。できるならスザクを妹ナナリーの騎士にと考えていたが、彼はもう自分たち兄妹を守ると誓ってくれたスザクとは違うのだと。





『で、シュナイゼルは何と?』
 枢密院の最奥にある枢機卿の執務室で、現在の枢密院議長であるシュトライト伯は、大きな執務机を挟んで、その奥、壁に付けられた大きなスクリーンに映る者と話していた。相手はまだ少年といっていい年頃である。
「はい、昨日のお話では、特別派遣嚮導技術部に所属のまま、必要に応じてユーフェミア皇女に貸し与えるという方向で考えていると」
『貸し与え、だと?』
 スクリーンに映る少年の眉が顰められ、濃い紫の瞳がきつさを増した。
「はい。枢木スザクはあくまでナンバーズ上がりの軍人、政務の補佐は無理でしょう。それ以前にユーフェミア皇女ご自身、政務にはほとんど、というより、全くタッチしておられません。果たして政治向きのことを何処までご存じかも……」
『それではつまり、実質は枢木は唯のSPのようなもの、ということか?』
「御意。シュナイゼル殿下も現状から考えて、枢木が常に皇女の傍に控えることは無いと判断され、貸し与えるという形になさろうとしているのではないかと推察致します」
『皇族の騎士がナンバーズ上がりの名誉というのも問題だというのに、ユーフェミアは何を考えている!?』
 トントンと指で机を叩く音がした。シュトライトはただ黙って、何かを考えているであろう主の次の言葉を待っている。
『騎士がナンバーズ上がりだというのは、まあいい。とりあえず、名誉とはいえブリタニア人だしな。すでに叙任式も終わっているのだし。だが許せるのはそこまでだ。どのような形式をとるにせよ、二人の皇族に仕えるなどというのは前代未聞、許可はできない。騎士とは主ただ一人に仕える者のことだ』
「皇女が枢木を騎士だと表明した場におりました者の話では、皇女は会見では碌な応答もできず、会場では大賞作品を選ぶこともなかなか決断がつかない有り様であったとか。そして枢木は、そうと知れる前は応援されていたのに、イレブンと分かった途端に応援していた者たちの態度が変わったと。大方、陰でお飾りと言われている自分と比較して、同病相哀れむ、といったところだったのでしょう」
『他に聞いている者がいないとはいえ、おまえも随分なことを言うな』
「普段の猊下ほどではないと思いますが」
 そう言って、シュトライトは苦笑を零している主同様に、小さく苦笑を洩らした。
『ふっ。シュナイゼルにはしかと言っておけ。ああ、それとコーネリアにも、妹の教育をもっと真面目にしろとな。騎士が主の傍にいないで学校に通っているなど、普通なら恥以外のなにものでもないぞ。選任騎士が高校中退というのもそれはそれで恥だがな』
 二人の間で小さな笑いが起きたが、ややあって、シュトライトが、
「畏まりました。全ては猊下の御心のままに」
 と頭を下げると、少ししてプチッと小さな音がした。5つ数えてからシュトライトが頭を上げると、スクリーンはすでに白くなっていて、それまでそこに映っていた彼の主たる枢機卿の姿は消えていた。





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