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シュナイゼル率いる天空要塞ダモクレスにいる旧皇族派との戦いは、ルルーシュ率いるブリタニア正規軍が勝利した。ルルーシュの説得により、ニーナが開発したアンチ・フレイヤ・エリミネーターが無事に効果をあげたのだ。とはいえ、完成までの時間稼ぎのために多くの兵士を次々と発射されるフレイヤに向けて特攻させて時間稼ぎを行うこととなり、結果、多数の犠牲者を出すことになってしまったが。
一時は、シュナイゼルが星刻をうまく誘導したことによる黒の騎士団のＫＭＦの動きや、スザクの騎乗するランスロットが黒の騎士団のエースパイロットであるカレンの騎乗する、捕らわれた最中に行われたロイドらによる改造によって紅蓮に破れ、ブリタニア軍が押される場面もあったが、フレイヤを無効化したことにより、ルルーシュたちはダモクレスに入り込み、予定通り、脱出しようとしていたシュナイゼルらの身柄を押さえ、コンピューターを含むブリッジを押さえて、残っていたフレイヤの自爆装置を解除し、ダモクレスは太陽に向けられた。やがて遠い時間の果てに、ダモクレスは太陽に焼き尽くされるだろう、中のフレイヤと共に。
ルルーシュはC.C.と共に空中庭園に赴き、そこにいる一人きりでいるナナリーと久しぶりに出会った。その時、ナナリーはどうにかしてかられていたシャルルのギアスを解除し、その瞳を開いていた、フレイヤの発射装置であるダモクレスの鍵を手にして。
それを見て、フレイヤを発射していたのはほかならぬナナリーだったことを悟ったルルーシュは、しかし、やはりそうだったか、といった感じで、彼にとってはある程度の予想範囲のことではあった。そして他に同行していた兵士に命じて抵抗するナナリーからダモクレスの鍵を取り上げ、その身柄を取り押さえた。といっても、足が不自由で、車椅子無しでは動けないことに変わりはないため、さしたる苦労はなかったが。そしてその間、ナナリーは「鬼、悪魔、あなたなんか信じるんじゃなかった！」などとルルーシュを罵り続けていたが、ルルーシュは何も聞こえていないかのようにひたすら無視し続け、C.C.もそれに倣った。兵士たちはそんな皇帝のその様子に、自分たちもそうするべきだろうと、ナナリーの発言を無視したまま、ルルーシュから命じられるままに動いていた。ナナリーはそれもまたルルーシュのギアスによるものと判断していたようだが。
C.C.はルルーシュの思いを察してはいたが、それでも念を押すように確かめるために声をかけた。
「本当にいいのか？ 誰よりも大切な妹だったはずだろうに」
「……C.C.、俺の妹のナナリーは、トウキョウ租界で使用されたフレイヤによって、その光の中に消えたんだよ。此処にいるのは、……ナナリーの亡霊だ……」
目が見えなかったことにより聴覚の発達しているナナリーは、小さな声での二人のその遣り取りを、ルルーシュの感情の篭っていないその声をしっかりと聞き取っていた。そして愕然とし、表情は呆然としたものになっていた。７年もの間、自身のことをおいて必死に世話をしてくれていたルルーシュに対して様々な罵りの言葉を投げつけていたことも忘れ、自分は兄から見捨てられたのだということを理解したのだ。自分が何をしてもルルーシュから見捨てられることなどないと、そう傲慢にも高をくくっていたナナリーは、信じられないというように、ショックからか泣き叫ぶこともできず、いや、忘れたかのように、ただ首を振り続け静かに涙を流した。「……どう、して……？」と他の者には聞き取れるかどうかの小さな呟きを繰り返しながら。自分がルルーシュに対して為した言動を忘れたかのようなその有り様は、あまりにも身勝手なことである。ルルーシュにとって自分は慈しい実の妹だから、たとえ何をしたとしても決して見捨てられることなどないと思い込んでいたのだろうか。兄であるルルーシュが自分の面倒を見るのは当然のことだと、自分でも全く気付かぬまま、そう無意識のうちに思っていたかつてのように。
フジ決戦と呼ばれるようになった、正当性も意義もないままに黒の騎士団までも参戦していたシュナイゼルらとの戦いの中で、ルルーシュは己の唯一の騎士たるナイト・オブ・ゼロの枢木スザクを失った。というのは実は表向きであり、スザクはカレンとの戦いでは確かに破れはしたが、本当のところはほぼ互角に近く、破れて戦死したかのように見せているだけで、負傷は負ったが生存している。現在はブリタニアの帝都ペンドラゴンの消滅により、先に再建なったトウキョウ租界の政庁内の立ち入り禁止区域にて、療養を兼ねながら、当初の予定通り数名の家庭教師に囲まれて必死に勉強している。内容的には主に政治や経済、兵法、そしてスザクには欠如していると思われる、特に上流階級のマナー等一般常識などである。つまりゼロとして必要な知識を身に付けさせられているところだ。そんな状況の中、スザクに外の情報は一切入ってこない。勉強に専念しろとルルーシュが止めさせたのだ。カレンとの戦いの後、即座に救出したためにスザクにその後の戦場の様子は、その時は彼が気を失っていたこともあって全く知られていない。また、スザクの治療をしている医療関係者や家庭教師たちなど、僅かにスザクと接触する者に対しては、外のことについては決して教えないように、ルルーシュは厳命している。もし尋ねられても、「予定通り進んでいて何ら問題はない」と答えるようにと。ゆえにスザクはすでに終わったフジ決戦も、そして現状も、全て予定通りであって何ら変更はないのだと信じきっている。
しかし、実情は予定とは大きく変わってきている。
帝都ペンドラゴンの、フレイヤ投下による消失後のナナリーとの遣り取りの後、ルルーシュは計画通りに自分が死んだ後のことを考えた時、とても後に遺る者たちに事後を託すこと、優しい、希望のある明日を託すことはできないと、何度も思考錯誤した末に結論づけた。とはいえ、その結論が出るまでは、スザクへの対応は自分が悩んでいることが分からないように、そしてまた予定を変えることを決めた時に反発が予想されることから、すぐに彼に気付かれることのないように、元々の予定通りであったが。
その一方で、ルルーシュの悩みに気付いたC.C.を中心として、ゼロ･レクイエム── より厳密に言えばルルーシュがゼロとなったスザクに殺されること── に反対する者たちは、なんとか計画を阻止しようと、変更させようと、そのためにはどうしたらいいかと協議を続けていた。
そしてルルーシュの結論が出た頃合を見計らって、C.C.たちは皆してルルーシュのいる仮の皇帝執務室を訪れた。その中にはゼロを恨んでやまずにいるニーナの姿もあった。
最初、C.Cたちが揃ってやってきたことに、その理由が分からず小首を傾げたルルーシュはC.Cに問いかけた。
「皆揃って、一体どうしたというんだ？ 何か問題でも起きたか？」
「おまえの結論が出たようなのでな、今後のことで改めて話をしにきた」
「……分かっていたのか……」
ルルーシュは何を、とは問わなかったが、C.C.は何をさして言っているのか即座に理解した。
「私はおまえの共犯者だぞ。おまえのことなら誰よりも一番良く知っている。いや、分かる、と言うべきか。ナナリーとの遣り取りのすぐ後から、おまえが計画の変更について悩んでいたことなど、すぐに分かったさ」
そうか、分かってしまっていたかと、ルルーシュは口にはしなかったが、苦笑することで応えた。
「で、肝心の理由は？」
ルルーシュは最初の問いに戻った。
「ゼロ･レクイエム、変更することに決めたのだろう？」
C.C.はまず確認するように問う。
「……ああ」ルルーシュは柳眉を顰め、どこか心苦しそうに応じた。「現状では、俺が死んでも、どれ程考えても、俺が望んだようにはならない。そうとしか思えない。だからシュナイゼルにギアスをかけることもしなかった」
「それはつまり、“悪逆皇帝”として死ぬことは止めた、という理解であっているのだな？」
「……ああ、そうだ。だから、“悪逆”と言われるようなことは何もしてこなかっただろう？ もともと実際にはたいしたことをする予定はなかったが、考えた末、当初の計画では、データ上、色々と手を入れておくはずだったが、それもしなかった……。で、おまえたちはどうする？」
今度は逆にルルーシュの方から問いかけた。何故ならそこには、ゼロであったルルーシュを恨んでいるニーナもいたのだから。言いながら、ルルーシュはその視線をニーナに向けた。
「私たちは皆、ゼロ･レクイエムに、正確に言えば、おまえがゼロとなったスザクに殺されることに反対の立場だ」
先に答えたのはC.C.であり、その間、ニーナは顔を俯けていたが、思い切ったように顔を上げてルルーシュをしっかと見つめた。
「……私、何も知らなかった、考えなかった。ただユーフェミア様を殺したゼロが憎くて、どうしても許せなくて、だからシュナイゼル殿下に言われるまま、フレイヤを創ってしまった。何の関係もない人を巻き込んで、あれほどの被害を出すものだなんて考えもせずに……。フレイヤの開発者ということで、色々な国の人から追われたわ。そんな私を匿ってくれたのは、ミレイちゃんとリヴァルだった。私が何をしたのか知っても、迷惑をかけたのに、一切責めたりせずに。きっと心の底ではなんてことをしたんだと、随分と怒ってた、呆れてたと思うけど、でも直接それを口にされたことは全くなくて、ただ心配してくれた。それも本心だったと思う。
何かできないか、そう考えて、フレイヤを無効化するための研究はしていたけど、でも、たぶん遺族に責められたら、きっと私は耐えられなくて、死を選んでいたと思う、間違いなく。でも、ルルーシュ君、あなたは言ってくれた。やってしまったことを無かったことにすることはできない。けれど死ぬことで罪を償うというのは、本人に、つまり私自身にとって一番簡単な方法で、逃げにすぎない、遺族の悲しみや辛さには何も応えたことにならならいって。だから私は、あなたに言われたせいもあるけど、必死にアンチ･フレイヤ･エリミネーターの研究をして、何とか創り上げたわ。そして無事に成功した。
正直、私は今でもゼロが、ゼロであったルルーシュ君が憎い。この思いは一生消えないと思う。きっとずっと憎み続けると思う。でも、あなたが一度はユーフェミア様の手を取ろうとしたこと、でもイレギュラーが起きてできなかったこと、そもそもその原因となったユーフェミア様が行ったことの幾つかのことの是非、そしてあなたがそんなユーフェミア様を撃ったこと、どうしてそうなったのか、そうせざるを得なかったのか、教えてもらったわ。ユーフェミア様が死に至った本当の原因も含めて全て。だから、少なくともきっかけをつくったルルーシュ君を許すことはできないけど、でも完全ではないと思うけど、あなたのこと、ある程度は理解できた、と思う。……それに、そのことであなたがどんなに悲しみ苦しみ、後悔し続けているかも……。
だから思ったの。死を選ぶのは逃げだと、死ぬことだけが償いじゃないって私に言ったあなたが、どんな理由をつけたとしても死を選ぶことは許せない。生きているからこそできることがある。私がアンチ･フレイヤ･エリミネーターを創ったように、あなたが、ユーフェミア様が望んでいた世界を創っていくべきなんじゃないか、それがあなたにとっての償いになるんじゃないかって。そして、むしろ罰せられるべきはスザク君だって思った。もちろん死刑とかじゃなくて。だって、彼が主を乗り換えるという方法で、そしてユーフェミア様の名を口にして、ユーフェミア様が望んでいたこととは全く違うことをして、スザク君こそが、私もだけど、ユーフェミア様を貶め、ユーフェミア様を、そして誰よりもスザク君のことを考えていたと、私でもそう思ったルルーシュ君を裏切り、ミレイちゃんたちまでも利用していたのは間違いのない事実でしょう？ たとえそれが命令を受けてのことであったとしても、話に聞く限り、彼がそのことについて何の良心の呵責も、後悔も感じていたようには思えない。それも許せない。
だからルルーシュ君、あなたは生きて、あなたにしかできない方法で、世界のために償って。私も命ある限り、あまりにも多くの犠牲者を出してしまったフレイヤの開発者としての責任を取り続けて、贖って生きていこうと思う。そしてスザク君には、彼が犯したことに相応しい罰を与えてほしい。これが今の私の本当の気持ち」
必死になって自分の思いを語るニーナの言葉を、口を挟むことなくずっと黙って聞いていたルルーシュは、深い溜息を一つ吐き出した。
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