再 生 【7】




「自ら出てくるとはね、万策尽きたというところかな?」
 シュナイゼルはアヴァロンから発進した蜃気楼を確認してそう呟いた。
「しかし、如何に蜃気楼の絶対加護領域をもってしてもフレイヤには通用しないよ」
 誰に聞かせるともなくそう呟いて、それから空中庭園にいるナナリーに通信を繋げた。
「ナナリー、これでお終いだ。君がルルーシュの罪を。できるね?」
『はい、お兄さまの罪は私が……』
 ルルーシュは自分を否定した、妹ではないと。しかし間違いなく自分はあの人の妹だ。だから妹として、兄の為してきた罪を背負うのだとの、ナナリーなりの悲壮感から、彼女はフレイヤの発射スイッチを押した。
 ブレイズルミナスの解除された発射口からフレイヤが発射される。
 蜃気楼の隣には、C.C.の騎乗するランスロットの姿があった。ルルーシュはすでに誰に邪魔をされることもなく、計算し入力を終える。
「C.C.!」
 魔王ルルーシュの叫びに魔女が応えた。
 アンチ・フレイヤ・エリミネーターは、計算通りに、一瞬のうちにフレイヤの力を無効化したのである。フレイヤは見事に消失した。そしてその隙をついて、アーニャのモルドレッドから、より強力に改造されたハドロン砲がダモクレスのフレイヤ発射口に向けて放たれる。それはブレイズルミナスの発生装置をも破壊し、ダモクレスへの進入路を確保したことになる。
「!? まさか、そんな玩具を持っていたとはね」
 さすがにフレイヤを無効化されるなどとは思っていなかったシュナイゼルも、ここにきて僅かに顔色を変えた。
 制御室の座っていた椅子から立ち上がったシュナイゼルは、副官のカノンを伴って、脱出艇のあるフロアに向かった。
「よろしいのですか、殿下?」
「何がだい?」
「コーネリア殿下とナナリー殿下です」
「ルルーシュへの置き土産としては十分だろう」
 口元に笑みを浮かべながら、シュナイゼルはそう言い切った。
 ダモクレスもフレイヤも、また新たに作ればいい。これだけのもの、喉から手が出るほどに欲しがる者は後を絶つまい。金銭的にそれを叶えうる者は限られるが。自分たちは脱出し、このダモクレスはルルーシュにくれてやろう、彼の棺として。すでにフレイヤの時限装置は動き出している。ダモクレスに乗り込んでくるルルーシュにとって、いい置き土産だろう。そう思いながら、シュナイゼルは歩を進める。
 そしてシュナイゼルの後ろに控えるカノンは、もう何も気にかけることをしないことにした。シュナイゼルにとっては、自分たちについて来た黒の騎士団も、コーネリアとナナリーの二人も、所詮はただの駒に過ぎないのだと理解して。ならばその駒に要らぬ情けをかける必要はない。



 脱出艇に乗り込んだシュナイゼルを待っていたのは、スクリーン一杯に映るルルーシュの顔だった。
 それを見て、読まれていたか、と一瞬でシュナイゼルは悟った。
『待っていたよ、シュナイゼル』
 その声に、シュナイゼルは諦めたかのように鷹揚に席の一つに腰を降ろした。
「そうか。チェックメイトをかけられたのは私か。教えて欲しいな。何故私の策が分かったんだい?」
『策ではない。俺が読んだのはあなたの本質だ』
「本質?」
「そう、本質。あなたには勝つ気がないという」
 スクリーン越しではない後ろから聞こえてきた生のその声に、シュナイゼルは思わず振り返った。
「ルルーシュ……」
「俺からあなたへのプレゼントはこれですよ。“我に仕えよ”」
 紫電の瞳から紅に変わった瞳で、ルルーシュはシュナイゼルにギアスをかけた。
「殿下!」
 カノンは脱出艇に乗り組んでいた乗組員によって抑えられた。乗組員はすでにルルーシュのギアスの支配下にあったのだ。
 全てはルルーシュの読み通りだった。チェスでは常にシュナイゼルに後れを取っていたルルーシュだったが、最後の大一番で見事にチェックメイトをかけたのはルルーシュの方だった。
 ルルーシュはフレイヤの時限装置の件をシュナイゼルから聞き出すと、部下に命じてその装置を解除させた。その一方で、他の部下たちをナナリーとコーネリアのいる空中庭園へと向かわせる。
「ご自分で行かれないのですか?」
 ギアスの支配下にあるシュナイゼルが、ルルーシュの行動を不思議に思い。そう尋ねた。妹を誰よりも愛していたルルーシュならば、自ら赴くのではないかと思っていたのだ。
「言ったはず。私の妹のナナリーは、第2次トウキョウ決戦でフレイヤ弾頭によって死んだと。偽物の妹にわざわざ会う必要などない」
「あのナナリーは本物ですよ。フレイヤ投下の前に私が救い出したんです」
「……総督という地位にありながらその責任を果たすことをしないような者は、俺の妹ではない。総督であることを捨てた時に、ナナリーは死んだんですよ、異母兄上(あにうえ)
 その後、ダモクレスはフレイヤを積んだまま、太陽に向けてその軌道を変えさせられた。何時か太陽に辿り着き、いや、その前に、太陽から放射される熱によって、フレイヤごと消滅するだろう。それにはだいぶ時間がかかるだろうが。



 空中庭園でルルーシュの部下たちによって捕らわれたコーネリアとナナリーを待っていたのは、ルルーシュのギアスに支配されたシュナイゼルだった。
「異母兄上」
「シュナイゼルお異母兄(にい)さま!」
「皇帝陛下からの処分を伝える。コーネリア、君は皇籍剥奪の上、終身刑に。ナナリーは皇族の身分詐称の上、帝都ペンドラゴンに対してフレイヤを投下することを認可し、それによって数多(あまた)の民を虐殺した罪により処刑とのことだ」
「ナナリーを処刑!?」
「身分詐称って、わ、私はそんなことしてません! その上処刑だなんてどうして!?」
 コーネリアは自分の終身刑はともかく、ルルーシュが実の妹であるナナリーに対して処刑の判断を下したことがどうしても腑に落ちなかった。
「何故です、異母兄上!? 何故ルルーシュは妹であるナナリーだけを処刑などと!」
「陛下は、妹のナナリーは第2次トウキョウ決戦で死んだと、此処にいるナナリーは偽物であると言い切られた。トウキョウ租界、そしてペンドラゴンで死亡した民のことを考えれば、誰かしか処刑されねば事は済まない。その点で、身分を詐称し、自らを皇帝と名乗りを上げたナナリーを選んだということなのだろうね」
「そんな馬鹿な! ルルーシュも一度直接ナナリーに会えば、本物のナナリーだと分かるはずです!」
「コーネリア、ルルーシュは全て承知の上でそう決断を下したのだよ」
「承知の上でって、私が本当の妹だと知っての上でってことですか、お異母兄さま……?」
「そういうことになるね」
「そんな……」
 それ以上、コーネリアもナナリーも言葉がなかった。
 実の妹と承知の上でナナリーに対して処刑を命ずるとは、そこまで兄は血も涙もない人間に成り果ててしまったのか。あの優しかった兄はもうどこにもいないのかと、ナナリーを絶望が襲った。





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