再 生 【6】




 ブリタニア軍の主力となるのはジェレミアのサザーランド・ジークとアーニャのモルドレッド、C.C.のランスロット・アルビオン、そしてロロのランスロット・フロンティアの4機になる。
 シュナイゼル側についたシャルルのラウンズたちのことを考えれば、戦力としてはいささか心もとないが、機体はいずれもロイドたちによって改造を施されており、以前以上の力を発揮するだろう。
 問題のアンチ・フレイヤ・システムたるアンチ・フレイヤ・エリミネーターは、ルルーシュの専用機である蜃気楼に搭載されることになっている。すでにダモクレスを視界にとらえた今も尚、その研究の最後の詰めが行われている。
 C.C.がランスロットに、となった時にはルルーシュも驚いたが、C.C.は枢木にできて自分にできないことはない、というように、案ずるよりも生むがやすしというべきか、見事に乗りこなしていた。といっても、ロイドに言わせれば、やはりスザクには劣っているとのことだが。
 ルルーシュはオープンチャンネルを開かせると、演説を行った。
「我がブリタニアの勇敢なる兵士たちよ! 自ら母国の帝都ペンドラゴンをフレイヤによって一瞬のうちに滅ぼした逆賊シュナイゼルは、その忌まわしき兵器を駆使して世界を支配しようとしている。それは許されざる行為である。そのような輩に我らが敗れるわけにはいかない。この戦いこそが、ブリタニアの、そして世界の趨勢を決める戦いとなる。我らが怒りを示せ! 我らブリタニアの誇りを掲げよ! そして打ち砕くのだ! 敵を、シュナイゼルを!! 天空要塞ダモクレスを!! 恐れることは何もない! 未来は我が名と共にあり!!」
 朗々と、そして力強く響くその声に、戦場の興奮は昂ぶっていく。そして大きな歓声が響き渡る。
「「「「オール・ハイル・ルルーシュ!!」」」」
 正に全てはこの一戦にあり、この戦いに敗れれば、後に待っているのはフレイヤによる恐怖の支配だ。それだけは避けなければならない。
 だが、それが分かっていない者もいる。黒の騎士団の日本人幹部を中心としたメンバーだ。
 アッシュフォード学園における会談の手落ちを責められた彼らは、何を思ってか、斑鳩をはじめとした艦艇やKMFなどの兵器を持ち出してシュナイゼルに組したのである。その中にはカレンの騎乗する紅蓮の姿もあった。
「あいつら、何を考えている」
 その機影を確認して、思わず口に出してしまったルルーシュだった。
 はっきり言って、黒の騎士団でやっかいなのは、何よりもカレンの紅蓮と藤堂の斬月だ。千葉も多少はやっかいだが、それだけで、後は烏合の衆といっていい。ブリタニア軍が全力でかかればどうとでもなる。問題の紅蓮と斬月には、必然的にC.C.とロロのランスロットが当たることとなった。
 カレンはランスロットにはスザクが乗っていると思っていたのだろう、オープンチャンネルで叫んできた。
「スザク── っ!!」
「生憎だがスザクはいない、ランスロットは今は私の愛機だ」
 何の気負いもなさ気にC.C.が答えた。
「何ですってっ! じゃあスザクはっ!?」
「とうにあの世にいっている。ビスマルクに返り討ちにあってな」
「ならアンタが相手よ、C.C.! この世をルルーシュの思い通りにさせるわけにはいかないんだから!!」
「ふん、何も知らん輩がやかましいことだ」
「何を知らないっていうのよ!」
 オープンチャンネルで会話を交わしながらも互いに技を繰り出し合っている。
 正直、ここまでC.C.がランスロットを乗りこなせるとはルルーシュも、そしてロイドも予想外だった。もちろん、C.C.がランスロットに騎乗することが決まった際に、彼女用に調整はしていたが。それでもカレンの駆る紅蓮と互角に戦えるとは思っていなかったので、そこは嬉しい誤算といえよう。
 カレンは血が頭に上りやすい、激しやすいタイプだ。それに対してC.C.は常にマイペースといっていい。それが逆に功を奏している。カレンの繰り出す手は単調に、怒りに任せたものとなり、次に来る手を読みやすくさせている。
「憐れだな、カレン。結局おまえはルルーシュのことを何も理解できなかった。いや、しようとしなかった。これがその結果だ」
 C.C.のその言葉と共に、ランスロットから最後の一撃が紅蓮に向けて放たれた。
「そんな馬鹿なっ、私がC.C.にやられるなんて……っ」
 信じられないと目を見開きながら、カレンの騎乗する紅蓮は海に落下していった。
 藤堂の斬月はロロの前にすでに敗れていた。ロロはルルーシュから禁じられていたギアスを使用して藤堂を仕留めたのだ。それが一番早く、確実だったからということもある。多用しなければ大丈夫、そうロロは己に言い聞かせ、本当に必要だと思われる時にしか使わないことを決めて、ジェレミアやアーニャが対しているシャルルのラウンズたちとの戦いの中に飛び込んでいった。
 ビスマルクのギアスは、キャンセラーであるジェレミアの前には何の役にも立たず、何故ギアスが効かないのかとそれを不思議に思う間もなく、サザーランド・ジークの圧倒的な火力の前に倒れていった。
「馬鹿な、この私が敗れるなど……。陛下、マリアンヌ様……」
 すでに今は亡き人の名を呼びながら、ビスマルクはギャラハッドから脱出することなく共に散っていった。
 他のラウンズたちの機体も、四方八方から次々と繰り出される攻撃に耐えきれずに敗れていった。それは古き時代の終焉とも言えた。そう、騎士の時代は終わりを迎えたのかもしれない。少なくとも、大量破壊兵器であるフレイヤの前では、如何なKMFも意味をなさない。
 ラウンズたちが敗れるに至って、遂にダモクレスからフレイヤが発射された。
 それに立ち向かっていくのは、死を覚悟した特装師団である。彼らはフレイヤによって身内を殺された者たちであり、自ら特攻に志願した者たちであった。アヴァロンで研究開発中のアンチ・フレイヤ・エリミネーターが完成するまでの時間稼ぎと承知の上で、彼らはフレイヤに特攻をかけていった。
 そのフレイヤの閃光を受けて、斑鳩も損傷していた。
「なんだよ、なんで俺たちまで」
「シュナイゼルは俺たちの味方じゃなかったのか!」
 シュナイゼルの掌で転がされるだけ転がされて、黒の騎士団の日本人たちは脱出もままならぬまま斑鳩ごと海に没した。どれだけの者が助かるかは神のみぞ知る、である。
 そうしていつしかその戦場にあるのは、アヴァロンを中心としたブリタニアの精鋭部隊とダモクレスのみとなっていた。
 そんな中、ロイドがルルーシュのいる艦橋へとやってきた。
「フレイヤの恐怖に支配される世界ねぇ。そんな強制された平穏が、果たして平和と呼べるのかなぁ?」
 ロイドのその言葉を受けて、ルルーシュが立ち上がった。
「出る」
 その一言を受けて、アヴァロンが臨戦態勢に入る。
「いいんですかぁ?」
「おまえが此処に来たということは、目途が立ったということだろう?」
 皇帝が自ら出撃するのだ。たった一度の、テストもしていないアンチ・フレイヤ・エリミネーターに全てを懸けて、一発勝負に出ようというのである。艦橋内がこれまで以上の緊張に包まれた。
 しかしルルーシュ自身には気負うところはない。勝つか負けるか、全てはこれからの一撃にかかっている。それが成功すればルルーシュたちの勝利であり、失敗すれば敗れる、それだけのことだ。
 蜃気楼のある格納庫に向かう途中、ルルーシュはニーナと合流した。
「理論上では、シミュレーション上では成功しているわ。でも実際のところは、やってみないと。何といっても時間との勝負だから……」
 そう、全ては時間の問題なのである。フレイヤは刻々とその組成を変える。それを計算して入力し、入力されたそれをフレイヤにぶつける。19秒とコンマ04秒しかない。それを果たしてできるのか。
「やるしかない。君が全精力を傾けて創り上げてくれたシステムだ。何としても成功させてみせる」
 最後にニーナに笑みを向けてから、ルルーシュは格納庫へと入っていった。ニーナは祈るようにその後ろ姿を見送るのみだった。
「蜃気楼、出ました」
 艦橋に、オペレーターを務めるセシルの声が響き渡った。





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