再 生 【8】




「ねえ、ルル、本当に良かったの? あのナナちゃん、本物のナナちゃんだったんでしょう?」
 そうルルーシュに問いかけたのは、トウキョウ租界でテロ騒ぎの際に、ロロに撃たれて瀕死の重傷を負いながらも奇跡的に生き延びたシャーリーだった。
「俺の妹のナナリーは、第2次トウキョウ決戦で死んだんだよ。総督でありながら民を見捨てて自分一人だけ生き延びるような、そんな妹は、俺にはいない。だから、いいんだ」
 思い切ったかのように言い切るルルーシュに、シャーリーはそれ以上は言えなかった。誰よりも辛い思いをしてるのはルルーシュ本人なのであろうから。
 ナナリーはダモクレス戦の後、唯一人、処刑された。それも公開処刑だった。公開処刑になったのは、処刑しましたといいながら、実は生きていました、になるのではないかとの民衆の疑惑を晴らすためのものだった。それほどに、トウキョウ租界、そしてペンドラゴンで使用されたフレイヤに対する恐怖、それを使用した人間に対する怒りが強かったと言える。
 ちなみに今、彼らはペンドラゴンに代わって新たにブリタニアの帝都となった旧都であったヴラニクスに建造なったばかりの新宮殿、その中にある皇帝の執務室の隣に設けられた居間で、一休憩を取っていた。
 ペンドラゴンの消滅でやらねばならぬことが山積みの状態なのだが、だからといって根を詰め過ぎるのは良くないと、シャーリーがロロと諮り、ルルーシュに無理矢理お茶の時間だといって休憩を取らせている状態だ。
 一体何時の間にロロとそんな状態になったのだと、かねてから不思議に思っていたルルーシュに、シャーリーはそれを聞かれた時に笑って答えた。
「もちろん、ロロが私に謝ってくれて仲直りしたからよ」
「それだけで、か?」
「だって、ロロが私を殺そうとした理由、分かったら責められなくなっちゃったんだもの。
 ロロにとってはルルはたった一人の大切なお兄さんで、私が記憶を取り戻してナナちゃんのことを言い出したから、自分の居場所がなくなるって、取られるって思ってしまったんだって、そう正直に話してくれたの。
 それに、ルルが黒の騎士団の裏切りにあった時に、ルルを命懸けで助けてくれたのはロロでしょう? 自分の命の危険を顧みずに、ロロはルルを助けてくれた。だからこうして今、お茶の時間も取れるんだもの。ロロには感謝してるのよ」
 黒の騎士団の裏切りにより斑鳩から脱した際、追っ手を撒く為にロロはギアスを行使し過ぎた。心臓に負担をかけ過ぎ、死にかけたのだ。あのまま死んでもおかしくない状態だった。あの状態で医者に見せたなら、今生きているのが奇跡だと言っただろう。それほどに酷い状態だったのだ。
 死んでいてもおかしくなかった二人。その二人が今、仲良くお茶をしている状態。それが、命を懸けてルルーシュを守り、ルルーシュを愛した者たちへの神からの贈り物だった。自分の命を懸けてルルーシュを守ったロロのことを思うと、ルルーシュは自らが“悪逆皇帝”となって死に、後にナナリーが望んだ“優しい世界”を残すという手段を取ることが躊躇われた。というよりも必死に止められたと言うべきか。誰よりもルルーシュを愛した二人の命が、ルルーシュを現世に留めたと言ったらいいのだろうか。
 C.C.は相変わらずマイペースを貫きながら、彼女が魔王と呼ぶルルーシュの傍にいる。ジェレミアとアーニャは共に騎士としてルルーシュに仕えてくれている。ロイドはもうあのダモクレス戦以降は戦争には必要ないだろうKMFを、本来の開発目的であった医療用に用いるための研究にセシルと共に勤しみ、ニーナは万一のことを考えてアンチ・フレイヤ・エリミネーターの更なる開発に余念がない。咲世子はルルーシュの下に戻り、以前、アッシュフォードにいた頃のように仕えてくれている。今では宮殿の女官長の任にある。そしてシュナイゼルは表に出ることなく、ルルーシュの影の参謀に徹している、副官のカノンと共に。
 ちなみに超合衆国連合は、その後一端解散となった。理由は合衆国日本の代表であり、最高評議会議長であった皇神楽耶と、超合集国連合の外部機関である黒の騎士団の、その母体となった日本人幹部を中心とした者たちの暴走、及びフレイヤを擁したダモクレス陣営への参加によって、信用を失ったのが原因である。
 しかし世界規模での話し合いの場は必要であるとのブリタニア皇帝たるルルーシュの言葉により、連合に加盟していなかった国々も含めて新たな組織が創り出されようとしている。その際には、何かと問題を持っていた人口比率条項も改められるだろう。人口比率条項は公平なようでいて小さな国にとっては不公平この上なく、多くの国々にとって大きな不満の種であったので、それが解消されるのは歓迎されることだろう。
 また、ブリタニアの植民地(エリア)であった国々も、ブリタニアからの援助の元、復興し始めており、半世紀も経つ頃には、いや、四半世紀も経つ頃には全てのエリアが解放され、新たな世界規模の組織に加盟していることだろう。
“優しい世界”を望んでいたナナリーは、「もっと優しい方法で世界は変えていける」と言っていたナナリーは、フレイヤによって数多(あまた)の人を虐殺するという真逆の罪を犯し、その罪に相応しい罰を受けた。ルルーシュに与えられた罰は、その愛する妹の死という現実だった。だがそれでも、ルルーシュ自身は生き延びた。





 そうしてルルーシュに愛されながらその価値に値しなかった者には死が与えられ、ルルーシュを愛しながら死んでしまった者たちの命を救うことで、人の無意識の集合体である神は、何度試しても駄目だった愛し子の死を漸く食い止めることに成功したのだった。

── The End




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