再 生 【4】




 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝となったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、次々とドラスティックな改革を行っていった。皇族や貴族たちの既得権益の廃止、財閥の解体、そしてナンバーズ制度の廃止などである。
 帝都ペンドラゴンにいた皇族や貴族の多くは、ルルーシュが即位宣言した際にかけたギアスの支配下にあり、反対する勢力は、その場にいなかった地方貴族たちがほとんどで、彼らに対してはジェレミアをはじめとする騎士たちが征伐にあたった。
 そうして国内を平定した後のルルーシュの視線の先にあるのは、諸外国、世界である。未だ実行に移されてはいないが、ルルーシュはエリアをその復興状況を確かめながら順次解放していく旨を世界に約束している。
 そんな中、ルルーシュは超合集国連合に会談を申し入れた。
 申し入れに際してルルーシュが指定したのはその開催場所、すなわち、トウキョウ租界にあるアッシュフォード学園、それだけである。
 世に“賢帝”と呼ばれる彼が何を目的として超合集国連合に会談を申し入れてきたのか、それが超合衆国連合に物議をかもした。
 ことに合衆国日本の反発は強かった。何故なら、黒の騎士団幹部である扇事務総長の言葉が正しければ、日本はすでに解放されているはずであるにもかかわらず、相変わらずブリタニア軍は駐留し続けている。しかも神楽耶は扇たちからゼロであったルルーシュが持っているとされるギアスについての話も聞いている。そんな、人の意思を捻じ曲げて自分の思い通りに操るような力を持った人間が最高評議会の場に現れたらどのようなことになるか。実際、TV放映されたルルーシュの即位シーンはあまりにも不自然だった。おそらくあの時、そのギアスなる力が使われたのだろうと推測される。それを考えれば尚のこと、ルルーシュとの会談など早々に受け入れることはできない。
 しかし世界の動きを考えれば、ここでルルーシュを跳ね除けるのは狭量と取られ、得策ではない。ならば、幸いにもルルーシュの方から場所を指定してきている以上、ギアス対策を講じた上で会うならばさして問題はないだろうと思われ、その後、護衛の件などで数度の遣り取りの後、最初の申し入れから僅か2週間ほどで臨時最高評議会開催の運びとなった。
 ルルーシュがアッシュフォードでの会談を要望したのにはわけがある。それは何かといえばフレイヤ対策である。
 宰相シュナイゼルは、製造されたフレイヤを持ったまま行方を晦ましている。それはフレイヤが何時何処で使われるか分からないということであり、彼の第一の目標はブリタニアの皇帝となった自分の存在であろうと思われたからだ。ならば一刻も早くフレイヤへの対処を考えなければならない。それには本国に帰還したロイドたちの言葉もあったが、フレイヤを開発したニーナの協力を得るのが一番確実であり、現在行方の知れないニーナがいる処を考えるならば、馴染みのあるアッシュフォード学園しかないと判断したためで、実のところ、ルルーシュにとって超合集国連合との会談というのは建前でしかなかった。もっとも、建前といっても何も話すことがないわけではなく、現在中立状態となっているエリア11、すなわち日本の問題、とりわけフレイヤ被災者の問題があった。



 臨時最高評議会の会場であるアッシュフォード学園に到着したルルーシュを出迎えたのは、あろうことか、超合衆国連合の外部組織に過ぎない黒の騎士団の、それも実働部隊の第一人者である紅月カレンただ一人であった。
 仮にも一国の君主を出迎える人事ではないな、そう思いながらも、ルルーシュは心の内はどうあれ、大国ブリタニアの君主として侮られることのないように対応した。何処かにカメラが仕込まれているかもしれない以上、下手な行動は取れないと思ってのことだが、それを言ううなら、先に超合集国連合のこの出迎えの対応に対して文句をつけてもいい状態ではある。
「黒の騎士団の紅月隊長ですね。わざわざの出迎え、ありがとうございます」
「……会場までご案内します」
 そう言ってカレンは先を歩き出した。
 何か言いたげではあるが、流石にSPを二人連れている状態のルルーシュに何かを切り出せる状況ではないと判断したのか、ただ黙々と歩いている。しかしやはり耐え切れなくなったのか、カレンはいきなり振り向くとルルーシュに対して切り出した。
「ルルーシュ、私、あなたには感謝してる。あなたがいなければ、私たちはシンジュクゲットーで死んでいた。黒の騎士団もなかった。私は嬉しかった。ゼロに必要とされたことも、光栄で、誇らしくて。でも、ゼロがルルーシュだと分かって、わけが分からなくなって、それでもブリタニアと戦うあなたを見て、私はっ!
 それなのにブリタニア皇帝なんかになって、ねえ、今度は何をやりたいの? ねえ、どうしてよ。力が欲しいだけ? 地位がお望み? それとも、これもゲームなの?
 ルルーシュ、あなた、私のことどう思ってるの? どうして、あんなこと、言ったの! どうして、「生きろ」なんて言ったのよ!?」
 自分の思いの丈をぶつけてくるカレンに、ルルーシュは心の中で頭を抱えた。カレンには今がどういう時か、どういう場所か分かっていないのかと。
 そしてカレンは思わずといった感じで、両腕をルルーシュに向けて伸ばしてくる。それをルルーシュの後ろに控えていたSP二名が前に出ることで防いだ。
 カレンの腕はルルーシュに届かなかった、そしてルルーシュは黙ったままで、カレンに対して何も答えようとしない。
 カレンは顔を歪ませ、ルルーシュに向けて伸ばされた腕はだらりと両脇に下がっている。
「そう、そこまであなたは……。さよならルルーシュ。会場はこの先の体育館です」
 そう告げるのが精一杯の様子で、唇を噛みしめると、カレンは走り去った。
 それを黙って見送りながら、ルルーシュは歩を進め、会場となっている体育館の入口に約束通り二人のSPを待機させると、一人で中に入っていった。
 学園に着いたところでリヴァルを見つけ、そしてそのリヴァルの傍らにニーナを見つけたルルーシュは、傍にいた者に二人を抑えるように指示を下していた。特に少女の方を。
 つまり目的の大半はすでに終えていたのだ。これから先は、ルルーシュにとってはおまけでしかない。とはいえ、そこまで言ってはフレイヤの被災者に対してあまりにも酷だな、と思い返しはしたが。
 会場の中央、まるで裁判所の被告席のような所に、ルルーシュのための席があった。
「超合集国連合最高評議会へようこそ、“悪逆皇帝”ルルーシュ」
 一段と高い場所に立つ最高評議会議長皇神楽耶のその声に、多くの議員たちから小さな声や舌打ちが聞こえたが、ルルーシュはあえてそれを無視した。
 そしてルルーシュが何かを言おうとした途端、天井から何かがルルーシュ目がけて降りてきた。
 その前に神楽耶が何かのスイッチを押すところが見えたから、それによって降りてきたものだろうとルルーシュは察したが、自分を取り囲むその壁のような檻に、ただ呆気にとられた。
 神楽耶は何を考えているのか。これが一国の君主に対する態度かと、ルルーシュは呆れを通り越していた。
「これはどういうことです、議長!」
「あなたは何を考えておられる」
「相手は仮にも一国の君主ですぞ、それをこのような真似をして」
「それでもあなたは一国の代表ですか!」
 議員たちが口々に神楽耶を責めているところを聞いてみるに、どうやらこれは合衆国日本代表であり、最高評議会議長である神楽耶と、おそらくは黒の騎士団幹部たちによる暴走だろうと納得するルルーシュだった。
「どうやら、話し合いにはならないようですね、皇議長」
 檻の中からルルーシュは静かにそう告げた。
「このような態度を取られるということは、最初からあなたがたには私と話し合うつもりはないということなのでしょう。私は本国へ戻りましょう。その代わり、トウキョウ租界に住むフレイヤ被災者に対しては、あなたがたに全ての責任を取っていただく! もちろん、イレブン、ブリタニア人にかかわりなく全ての被災者に対して。私と話し合うつもりが無いということはそういうことだと、あなたがたが全責任を負うおつもりだと取らせていただきます」
 ルルーシュのその言葉に煽られたかのように、通信が入った。
「おまえに言われるまでもない! 日本は俺たちのものだ! ブリキは出ていきやがれってんだ!」
「日本を、超合集国連合を貴様の思い通りにはさせん!」
 黒の騎士団の日本人幹部による罵倒に、連合の議員たちは顔色を変えた。
「議長! 黒の騎士団も何を考えているんです!?」
「黒の騎士団の諸君の行動は、議員の一人としては許しがたい、納得しかねる!」
「我が国も容認できない! このような暴挙を許しては、話し合いによる場などとうてい望めない」
 口々に述べられる各国議員からの批難に、さすがに神楽耶も黒の騎士団の幹部たちも慌てだした。
「これにはきちんとしたわけがあってのことです! 確かに黒の騎士団幹部の発言は度を越していた部分もあったかと思いますが……」
「そのわけとは何です!」
「納得のいく説明を願いたいものですな、できるものなら」
「そ、それは……」
 ギアスなどというわけの分からぬ力のことを説明などできず、神楽耶は口籠る。
「説明など結構。この檻をどけていただきましょう、私はこのまま帰国します!」
 檻の中からのルルーシュの声とほぼ同時に、1機のKMFが体育館の天井を突き破って飛来した。
「陛下への侮辱は許さない」
 アーニャのモルドレッドだった。
「陛下、無事?」
 アーニャは檻を壊してルルーシュを救い上げた。
「ああ、無事だ。このまま本国へ帰還する。連合との話し合いは無しになった」
「分かった」
 二人の遣り取りを聞いていた神楽耶と中華の天子以外の各国の代表である議員たちは慌てた。
「お、お待ちを! 今回の件は我々全員の承知するところのものではありません」
「是非今一度話し合いの機会を!」
 モルドレッドの手の上に立つルルーシュは、それらの声に振り向いて答えた。
「ならば、一週間後に改めてご連絡差し上げよう、その時はこちらの用意した場所で」
「それで結構です」
「この度の非礼はお詫び申し上げます。どうぞ寛大なご処置を」
 その遣り取りの間に、カレンは学園内に潜ませてあった紅蓮で出撃したが、逆に議員たちに責められる羽目になった。
「君は一体此処を何処だと思っているのかね!」
「最高評議会の議場にKMFを潜ませておくなど、黒の騎士団は何を考えている」
「黒の騎士団はあくまで超合衆国連合の外部組織のはず! それが何時から連合を、最高評議会を無視するようになったのか!!」
「ですが、現に敵のKMFが……!」
「それも元をただせば、議長や君たち黒の騎士団幹部の暴走のせいだろう」
 それらの遣り取りを後方に聞きながら、ルルーシュはモルドレッドの両手に抱かれるようにして会場を去っていった。





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