再 生 【2】




 エリア11に総督として就任してきたナナリーヴィ・ブリタニアは、その就任演説の中で、自分は目も見えず、足も動かず、何もできないと公言し、しかしその一方で、僅か1年前に失敗に終わった、当時の副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアの提唱した“行政特区日本”を再建すると宣言した。
 その宣言に驚いたのはイレブンだけではない。事前に何も知らされていなかったスザクや文官のローマイヤたち官僚、軍人たちも同様だ。
「ユフィお異母姉(ねえ)さまのなさろうとしていたこと、間違っていませんよね?」
 だから私がしようとしていることも間違いではないでしょう?
 ナナリーはそうスザクに尋ねる。スザクは、「間違ってはいないよ」と答えるのみだ。ユーフェミアのやろうとしていたことは決して間違いなどではない。間違っていたのはゼロ、ルルーシュだ。
 ラウンズであるスザクの肯定の言葉に、ナナリーは納得する。ユーフェミアの騎士としてその傍にあったスザクの言葉に、自分がやろうとしていることは決して間違ったことではないのだと納得し、それ以外のローマイヤたち文官、そして何よりも当のイレブン、日本人たちがどう考えているかを考慮することなく、自分の、いや、今は亡き大好きだった異母姉(あね)の政策を進めようとする。
 そんな中、黒の騎士団の総指令であるゼロは、特区政策を受け入れた。ただし、己の国外退去を条件に。
 その条件に、スザクたちは驚きながらも受け入れた。ゼロ一人の国外退去で“行政特区日本”を軌道に乗せることができるなら安いものだというのが、スザク以外の意見だった。スザク個人に関していえば、憤懣やるかたなく、納得などしていないのだが、ナナリーの政策を実行させるためには致し方なしと思ってのことだ。
 しかしそれはゼロの奇策だった。
 式典当日、集まった100万もの日本人の前、スクリーンに映し出されたゼロが合図すると同時にスモークがたかれ、それが消えた時、そこにいたのはゼロたちだった。ゼロは国外退去。すなわち、そこにいる100万のゼロは全て国外退去ということだ。ゼロは己を記号と化すことで、その場にいる全ての日本人をゼロとして、合法的に国外退去へと持っていったのだ。会場内にいるスザクに、エリア11に残るイレブンを守れと言い残して。
 100万人のゼロに扮した日本人たちは、自分たちの、借り物とはいえ、ブリタニアの干渉のない自分たちだけの土地を、国を手に入れた。そのことに湧き上がる人々を脇に見ながら、ゼロは中華連邦の動きを注視していた。
 中華連邦の大宦官たちとブリタニアの宰相シュナイゼルとの間で、中華連邦の象徴たる天子と、ブリタニアの第1皇子オデュッセウスの婚姻の話が纏まったのである。そのまま話が進めば、中華連邦はブリタニアの支配下となり、中華連邦から蓬莱島を借り受けている合衆国日本は、再びブリタニアの手の内に落ちてしまう。それはなんとしても避けなければならない。ゼロは星刻らのクーデターに乗じて天子を奪い去った。
 後はKMFでの中華連邦と黒の騎士団との戦いだった。ブリタニアも参戦してはいたが、あくまで中華連邦と黒の騎士団の問題であるとして、高見の見物を決め込んでいた。スザクは納得していなかったが。そして追い詰められる黒の騎士団。しかし、ゼロは時を待っていただけだ。中華連邦の民が蜂起する時を。かつてのブラック・リベリオンの時のように、いや、それ以上に。
 結果、中華連邦はその一部をブリタニアに割譲されただけで済み、合衆国日本と中華連邦改め合衆国中華を中心に、ゼロは対ブリタニアに対して、世界を巻き込んだ。超合集国連合の誕生である。
 それに伴い、黒の騎士団は日本の一テロリストグループから一大軍事組織となったのだが、問題は元々の黒の騎士団、すなわち日本人たちにあった。特に旧扇グループ、つまり当初から団員としてあった幹部たちにその傾向が強いところがあったのだが、彼らは自分たちがテロリストから軍隊になったのだという認識に欠けていた。それが後の不幸を呼ぶのだが、今の時点ではルルーシュすらもそれに気付いてはいなかった。
 それらの事柄の最中、ルルーシュはKMFでエリア11と蓬莱島とを行き来していた。
 ちなみにルルーシュが蓬莱島にいる間は、学園では忍びである篠崎咲世子がルルーシュになりすましていた。
 そんなある日、ギアス嚮団からルルーシュに対して一人の刺客が送られた。その人物の名はジェレミア・ゴットバルト。ギアス嚮団によって改造され、ギアス・キャンセラー能力を持つに至った半機械人間である。
 だが彼がエリア11を訪れルルーシュに会おうとしたのは、嚮団の意図とは別のところにあった。
 嚮団の示す通り、ルルーシュ・ランペルージがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであるならば、彼は己がかつて守りきることのできなかった皇妃マリアンヌの遺児ということになり、それはつまり、彼は祖国に対して反旗を翻していることになる。何故(なにゆえ)にそのようなことになっているのか、ジェレミアはそれを何としても確かめたかった。それが己の忠義を捧げる相手を決めることにもなると判断してのことだ。
 ジェレミアは誰が何と言おうと、騎士であった。ただ主を持たぬ騎士。ゆえに、ルルーシュの答え如何によっては、ルルーシュを己の忠義の対象と、主とみなす可能性も否定してはいなかった。
 そして出会ったルルーシュの答えは、ジェレミアを充分に納得させるものであり、ジェレミアはルルーシュに忠誠を誓うのだった。
 その頃、ジェレミアの放ったキャンセラーの範囲内にいたシャーリーが、改竄されていた記憶の全てを思い出していた。つまり、現エリア11総督のナナリーはかつてのナナリー・ランペルージ、ルルーシュの妹であること、そしてルルーシュがゼロであることを。それらを思い出したシャーリーはロロと出会った。
 ロロは恐れた。シャーリーによって全てが暴かれてしまうのを。そして何よりも、自分の居場所が奪われることを。自分はルルーシュの弟で、それ以外の何者でもないと、それを失うことを良しとせず、ロロはシャーリーを撃った。記憶を取り戻した者を処理する。それがロロの元々の役目。自分はその役目を果たしただけだと、無理矢理己を納得させて、瀕死のシャーリーを残してその場を去った。



 中華連邦の天子は何も知らなかった。大宦官たちによってそう育てられていたのだから致し方ないのかもしれない。しかし天子の知らなさ加減は、どこかしらナナリーにも通じるものを感じるところがあって、ルルーシュは仮面の下、顔を歪めた。
 知らないという点では、ユーフェミアも同じと言えたかもしれないと思った。ユーフェミアはコーネリアに守られ過ぎて、皇室の闇を知らずに育ち、あまりにも純粋無垢で、挙句、国是に逆らった“行政特区日本”などというものをぶち上げた。少し考えれば、その特区のデメリットを、穴を見抜けただろうに、彼女にはそれだけの能力がなかった。それと同じものを再建しようとしているナナリーにも同じことが言える。彼女たちはあまりにも無知で、にもかかわらず、それに見合わぬ地位にいる。



 超合集国連合決議第壱號は日本奪還。
 二手に別れ、一方はキュウシュウ方面軍たる星刻率いる本隊であり、もう一方は黒の騎士団のCEOとなったゼロの率いるトウキョウ方面軍である。
 トウキョウ租界ではかねてルルーシュが用意していたゲフィオン・ディスターバーにより、第5世代以前のKMFは活動を停止させられ、黒の騎士団は優勢に事を運んでいた。
 そしてその戦いの最中、ブリタニア軍に捕らわれの身となっていた紅月カレンを救い出し、また、ブリタニアによって改造に改造を加えられた紅蓮に搭乗したカレンは、縦横無尽に戦った。
 その中で、ランスロットを駆るスザクとの戦いにもなり、一時はカレンの操る紅蓮が優勢に立った。が、その中でかつてスザクにかけられたルルーシュによる“生きろ”のギアスによって、スザクはランスロットに搭載されたブリタニアの新兵器、すなわち大量破壊兵器であるフレイヤを投下した。それもトウキョウ租界の中心、政庁に向けて。
 それはあまりにも圧倒的だった。敵も味方もなく、一方的に、政庁を中心として一瞬のうちに巨大なクレーターを生み出し、数多(あまた)の死傷者を出した。
 敵も味方も呆然とする中、それでも黒の騎士団は統合幕僚長となった藤堂の指示の下、無事だったKMFに乗った団員たちはそれぞれに艦に戻っていった。ルルーシュは政庁と共に消え去ったナナリーに気をとられ動揺しきりだったが、ジェレミアによって斑鳩へと戻らされた。
 斑鳩の自室に戻ったルルーシュは、ロロに当り散らした。何故、偽物の弟のお前が生きていて、本物の妹のナナリーが死なねばならなかったのかと。おまえなどただ利用してやるだけのつもりだったのにと。けれどルルーシュはまだ己の本心に気が付いていない。心の中のどこかでナナリーがいなくなったことに対して安堵している自分がいることを。あるいはただ認めたくなかっただけなのかもしれないが。





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