「そしてフジ決戦を迎えるわけですが、ここで、本来皇位継承争いである内戦に、超合集国連合の外部機関である黒の騎士団があなたがたの味方となっていますね。何故ですか?」
「私には分かりません。シュナイゼルお異母兄さまが黒の騎士団と休戦条約を結んだ折りに、何らかの遣り取りがあった結果だと思います」
「あなたがたの敵であるルルーシュ陛下の旗艦アヴァロンには超合集国連合の議員たちが拘束されており、そこに黒の騎士団がかかわれば、議員たちの身に危険が及ぶ可能性もあったはずです。にもかかわらず、黒の騎士団はあなたがたの味方となり、ルルーシュ陛下の陣営とあえて矛を交えた。不思議に思いませんでしたか?」
「それは超合集国連合と黒の騎士団の内部事情です。私の関知するところではありません」
「随分と薄情ですね。仮にもあなたの味方となり、あなたを皇帝の座に就けるために戦ってくれている者たちに対して。あなたがそのような状態では、あなたのために戦って死んでいった黒の騎士団の団員たちは浮かばれませんね」
「っ! 黒の騎士団の人たちは黒の騎士団の人たちで、ゼロであったお兄さまを許せない、倒さなければならないという意思がありました。必ずしも私のためだけに戦っていたわけではありません。全てを私のせいにされるのは迷惑です」
「随分と傲慢でいらっしゃる。なるほど、それがあなたが1年余りの時間で身に付けた為政者としての在り方ですか」
検察官は嘲笑を込めて述べた。
「私を侮辱するつもりですか!?」
「侮辱? とんでもない、褒めているんですよ。流石はシャルル皇帝治世下でエリア総督を務めただけの方だとね」
侮辱と言うなら、今の発言の方が侮辱と言うに相応しいだろう。シャルル皇帝治世下の皇族は傲慢不遜だと言っているのだ、検察官は。
「あなたがたはルルーシュ陛下と戦った。それはつまりルルーシュ陛下の治世に反対の立場だったということになりますね」
「もちろんです、兄は許されるべきではありません」
「それはルルーシュ陛下が行ったドラスティックな改革、皇族特権の廃止、貴族などの特権階級の廃止、財閥の解体、ナンバーズ制度の廃止、後々のエリア解放政策に悉く反対し、シャルル皇帝治世下のような、弱肉強食、覇権主義、植民地主義が正しいと、そうであるべきであるということですね?」
「! ち、違います! 私が兄が許されるべきでないというのは、ゼロとして大勢の人を殺し、お父さまを弑し、人の意思を歪めて操っていることです」
ナナリーは検察官の言葉を慌てて否定した。しかし一度声に出され耳に入ってしまったものは変えられない。検察官の言葉で、ナナリーたちの陣営はシャルル皇帝の時と同じように、覇権主義であり、植民地主義であると傍聴人には認定されてしまった。そしてそれに対して、「やっぱり」などという声がぼそぼそと聞こえる。
かつて盲目であったことから、通常の人よりも耳のいいナナリーは、それらの様子を背後に聞いて、自分は何かとんでもない失敗をしてしまったと思った。だが、その失敗が具体的に何を指すのかまでは理解できていない。 「裁判長、今までの遣り取りをお聞きいただきお分かりいただけたかと思いますが、被告は、到底エリアの総督などという要職を務められるような状態にないにもかかわらず、総督の地位を望み、総督となればなったで、全てを官僚に丸投げし、真面目に総督としての職務を果たしていたとは言えません。それどころか、“行政特区日本”の式典の際には黒の騎士団と共に100万ものエリアの民に海外亡命を許してしまうという失態を犯しています。
第2次トウキョウ決戦では、総督としての役目を放棄し、全てをシュナイゼル宰相任せにし、挙句、フレイヤ弾頭を使用し、自分は死を偽装してシュナイゼル宰相たちと共にカンボジアに身を隠し、ルルーシュ陛下が帝都を留守にするのを狙ったかのように帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を投下し、住民1億余を大量殺戮、更に本来なら関係のない黒の騎士団をも巻き込んでの皇位継承争いを起こして、無用に多数の死者を出しています。このフジ決戦においても被告はフレイヤ弾頭を使用し、内戦であるから当然とはいえ、自国の大勢の兵士の命を奪っています。
その結果、被告が目的としたのは、自分が皇帝となって、ルルーシュ陛下がゼロとして行おうとしていたことを黒の騎士団の裏切りによって外から目指した変革が行えなくなり、あえて父親であるシャルル皇帝を弑逆し、自ら皇帝となって内から成し遂げてくださった改革を水泡に帰そうとしたのです。
自分の分を弁えず、大勢の人を犠牲にしても厚顔無恥でいられる被告に対して十分な刑罰を願います」
そこで漸く弁護人が挙手をした。
「弁護人」
「えー、被告はまだ15歳という若さであり、為政者としてはまだまだ未熟であったことは認めます。ですが、“行政特区日本”を行おうとしたことでもお分かりいただけるように、被告はことさら覇権主義、植民地主義であったわけではなく、エリアの民に対しても、それまでの歴代総督に比較すれば随分と穏健的でありました。第2次トウキョウ決戦もフジ決戦も、主導したのはシュナイゼル宰相であり、被告は何も知らず担がれていたにすぎません。確かに無知は時として罪となりますが、被告の若さと未熟さを考慮し、これからの長い人生の中で償いを行うことを許していただきたい」
「異議あり」
「検察官」
「為政者として未熟でありながら、総督という地位を望み、皇帝を僭称したことがそもそも誤りだと申し上げているのです。そしてこれからの人生で償いをというには、被告の起こした罪はあまりにも大き過ぎ、被害者の意識を考えるならば、生半可な刑罰では到底納得しないであろうことは明らかです」
ナナリーの頭の中では、何故、どうして、という言葉が繰り返されていた。
自分は間違ったことなんかしていない。お兄さまはゼロで、多くの人を殺し、お父さまを弑し、ギアスという力で皆を操って帝国を我が物としたのに。私やシュナイゼルお異母兄さまはそれに反旗を翻しただけで、覇権主義や植民地主義なわけではない。なのに何故、お兄さまに逆らったからって私が覇権主義者に、植民地主義者になるの。私が未熟だからって、どうしてそれだけで総督になったことが罪だと言われなければならないの。私は私なりに一生懸命やっていたのに、どうしてそれを否定されなければならないの。
ナナリーの頭の中は、混乱の極みといってよかった。
「もう一つ、被告にお教えしておきましょう。
ルルーシュ陛下がゼロとなったきっかけは、あなたの一言だったのですよ」
「え? 私の?」
検察官の言葉に、ナナリーは頭を上げて検察官を見た。
「そう、あなたの、「優しい世界になりますように」、その一言がきっかけだったのですよ。
皇室から身を隠してアッシュフォード家に匿われている状態から、何時暗殺されるか、売られるか分からない状態から抜け出すために、そのために、ルルーシュ陛下はゼロとなったのですよ」
検察官から告げられたその内容に、ナナリーはただ呆然とした。
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