翌日は、ナナリーとシュナイゼル陣営の番だった。
最初に呼ばれたのは、ブリタニアの第99代皇帝を僭称したナナリーである。
「被告、ナナリー・ヴィ・ブリタニア、前へ」
ナナリーは刑務官の一人に車椅子を押されて被告席に着いた。
「被告はシャルル皇帝治世下においてエリア11、現在の日本州の総督に任ぜられ、第2次トウキョウ決戦においては、日本を取り戻そうとする黒の騎士団との戦争に突入しました。その際には大量破壊兵器フレイヤ弾頭を市街地で使用することにも躊躇いを見せず、結果、トウキョウ租界には巨大なクレーターが造られ、3,500万余の死傷者が出ました。そのほとんどはトウキョウ租界に住むブリタニアの民間人、つまり非戦闘員です。そして自分は死を偽装して混乱するトウキョウ租界を、エリア11を見捨て、シュナイゼル宰相たちと共にカンボジアに身を隠し、ルルーシュ陛下がアッシュフォード学園を訪れ、ブリタニアの帝都ペンドラゴンの警備が手薄になったのを見越したかのように、帝都に対してフレイヤ弾頭を投下し、1億余の人命を奪い、己こそが皇帝であると僭称し、超合集国連合の外部機関である黒の騎士団をも巻き込んで天空要塞ダモクレスをもってルルーシュ陛下とフジ決戦に望みました。そして戦争状態の中においても、味方である黒の騎士団をも巻き込むのを承知でフレイヤ弾頭を使用し続けました。結果としてはフレイヤ弾頭を無効化したルルーシュ陛下によって、拘束されました」
検察官は、途中でナナリーが「え?」というような不思議そうな顔をしたのは気にせず、被告人への質問に入った。
「さて、まず最初に尋ねたいのですが、あなたはエリア11の総督になるにあたり、何を学ばれましたか? あなたは日本開戦の折りには人質として日本におり、その後死亡したものと思われていて、あなたが皇室に復帰したのは僅か1年余り前。エリア11の市井に身を置いていた間に帝王学を学ばれたとは到底思えません。それが皇室に戻って僅か1年程で、総督という要職に就いた。どれほどの勉強をされました?」
「え、えと、普通に、家庭教師が付いて勉強していました。年齢的に極一般的な内容だったと思います」
「では、為政者として必要な帝王学については、特に学ばれていなかったと判断してよろしいですか?」
「……私が学んだ中にそれに該当するものがあったかどうか、分かりません」
「成程。つまり為政者として必要な事柄の一つも学びもせずに、分かりもせずに、エリア11の総督になることを望み、その望みを果たされたというわけですね。
何故、エリア11の総督になることを望んだのですか?」
「一つにはブラック・リベリオンの際に行方不明になったお兄さまを捜したかったからです。その当時はお兄さまがゼロだったなんて知りませんでしたから。そしてそれ以上に、ユフィお異母姉さまができずに終えてしまった“行政特区日本”を、私が代わりに為し遂げたいという思いがありました。お異母姉さまがやろうとしたこと、差別などなく、皆が平等に幸せになれる場所を作りたかったんです」
「ふむ。つまり、あくまであなたの私的な感情、理由から、ですか。これはエリア11の民にとってはたまったものではありませんね」 「どうしてですか!? 確かにきっかけは私的なものかもしれませんが、私は総督として一生懸命エリアの民のために尽くしました」
「ですが色々と情報を集めたところ、あなたはエリアの行政に関してはほとんど官僚に丸投げで、亡くなったユーフェミア副総督が為し遂げられなかった“行政特区日本”にしても、あなたは宣言をしただけで、実際にそれを実現させるべく動いたのは配下の方々のみだったと聞いています。特区だけではなく、一事が万事その有り様だったと聞いています。それの一体どこが、民のために身を尽くしたことになるのか、是非お聞きしたいですね」
「私は当時は目が見えませんでした。ですから、私にできることは限られていて、それ以外のことを配下の者に任せるのは当然の行為です」
「あなたの言い方だと、できる限りの事はしていた、と受け止められますが、こちらの得た情報では、あなたは大枠、というよりもやりたいことだけを指示しただけで、後は全て配下に任せきりだったという話ですが。加えて、あなたがナンバーズに対して少しでもよくないと判断された案件については、代替案を示すこともなく、ただやみくもに反対、否定だけをしていたと」
そう言われてナナリーは顔を赤らめながらも反論した。
「仕方ないではありませんか! 私は目が見えなかったのですから」
「それが初めから分かっていて、それなのに自分から総督位を望んだ。それが間違いだったと申し上げているんですが、こちらの意を汲み取ってはいただけなかったようですね。
では次に、第2次トウキョウ決戦において、あなたはフレイヤ弾頭の使用を許可した、それも市街地で、多くの非戦闘員がいる場所であるにもかかわらず。これに違いはありませんね」
「戦闘に関しては、シュナイゼルお異母兄さまが指揮を執っておられて、私は関与させてもらえませんでした」
「では仮にもこの地の総督でありながら、戦闘状況を何も知らなかったということですか?」
「はい」
「目が見えない以上、戦闘指揮を他の者に任せるのはともかく、状況について何も知らなかったというのは、総督としてはあるまじき状態だとは考えなかったんですか」
「シュナイゼルお異母兄さまが戦闘のことは自分に任せておきなさいと言われたんです。だからその通りにしたまでです。それのどこがいけないというんですか!?」
「総督として、少なくとも状況の把握だけは務めるべきだったと申し上げているんですよ。総督という地位にある以上、それは子供の遊びではありません。あなたにはやはり総督となるべき資格、能力も責任も欠如していたとしか言えないようですね」
「私は……!」
ナナリーが尚も何かを言い募ろうとするのを無視して、検察官は次の事項に移った。
「フレイヤ弾頭を使用した際、あなたは自らの死を偽装し、身を隠しましたね。何故ですか?」
「死を偽装なんてしていません。気が付いたらアヴァロンにいて、シュナイゼルお異母兄さまにゆっくり休んでいるように言われただけです」
「あなたの死亡はエリア全土に放送されました。なのにあなたは何も確認せず、ただただ異母兄であるシュナイゼル宰相の言うがままだったというわけですか。あなたの主体性はどこにあるのです?」
自分の主体性を問われて、ナナリーは答えに詰まった。他の場合はともかく、少なくともあの第2次トウキョウ決戦においては全てをシュナイゼル任せにしていたのは間違いなかったのだから。
検察官はナナリーの様子など気にかけることもなく、次に進んでいた。
「その後、シュナイゼル宰相によって黒の騎士団との休戦条約が結ばれた後、あなたがたは揃ってカンボジアに身を隠しましたね。何故ですか?」
「政情不安だから、暫く様子を見ていた方がいいというシュナイゼルお異母兄さまの言葉で」
「政情不安というのは、シャルル皇帝が行方不明になったことですね?」
「そうです」
「そうして身を潜めている間に、ルルーシュ陛下が即位された。ルルーシュ陛下がシャルル皇帝を弑逆したことを告白し玉座に就いた時点でも、あなたがたはまだ身を顰めたままだった。何故ですか?」
「お父さまを弑して玉座に就くなど、許されることではありません。ましてやギアスなどという力で、皇族はじめ皆の意思を捻じ曲げて自分を支持させるなど。でも、そのお兄さまに対抗するには準備が足りなかったからです」
「ギアスというのは、昨日の裁判で被告人皇神楽耶が言っていた、ルルーシュ陛下が持つという不思議な力の事ですか?」
「そうです」
「その証拠は何かお持ちですか?」
「シュナイゼルお異母兄さまが詳しく知っています」
「成程。そして準備が整ったのが、ルルーシュ陛下がアッシュフォード学園に赴かれ帝都を留守にされた時、ということですか。随分と都合のいいことですね。
そしてあなたはシュナイゼル宰相に、あなたこそが第99代皇帝に相応しいとして担がれ、帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を投下することを許した。そうですね?」
「そうです」 「ペンドラゴンには1億からの市民がいたにもかかわらず、あのような大量破壊兵器を投下することについて躊躇いはなかったんですか?」
「ペンドラゴンの市民は避難させたと、シュナイゼルお異母兄さまが仰っていました。あくまで行政と軍権の混乱を招くのが目的だと」
「ここでもシュナイゼルお異母兄さまが、ですか。あなたには本当に呆れるほど主体性がないのですね。
ペンドラゴンではフレイヤ弾頭が投下された時、1億からの市民が通常の生活を送っていました。誰も避難などしていなかったのですよ」
「そんなはずありません! シュナイゼルお異母兄さまは確かに避難させたと」
「それをあなたは確認したのですか?」
「しました、シュナイゼルお異母兄さまに」
「それでは到底確認したとは言えませんね。ペンドラゴンの住民は、一人残らずフレイヤ弾頭の犠牲になりました、これが紛れもない事実です」
「そ、そんなはず……」
繰り返される検察官の言葉に、ナナリーは顔色を蒼褪めさせた。
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