「次の被告、シュナイゼル・エル・ブリタニア、前へ」
ある意味、この一連の裁判の中で最も大物の登場である。
「被告は、シャルル皇帝治世下において宰相という要職にありました。そして黒の騎士団がエリア11に攻め寄せてくると、自ら指揮を執りこれを迎え撃ちましたが、ここで大量破壊兵器フレイヤ弾頭を使用し、混乱した黒の騎士団に外交使節として赴き、黒の騎士団の幹部とのみ応対し、休戦と共にゼロを裏切ること、その身柄を引き渡すことを要求しました。結果、ゼロは黒の騎士団に裏切られて殺されかけ、旗艦“斑鳩”からの逃亡を余儀なくされました。
ゼロ、すなわち現在のルルーシュ陛下は黒の騎士団という手足をもぎ取られながらも、シャルル皇帝と対峙してこれを弑逆、自ら帝位に就かれました。
その後、ドラスティックな改革を進められ、さらに超合集国連合に加盟すべく申し入れ、アッシュフォード学園を訪れますが、カンボジアに身を潜めていた被告は、その隙を狙いすましたかのように、ナナリー被告には住民は避難させたと偽りを述べ、帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を投下、1億余りの市民を虐殺しました。史上最高最悪の大虐殺です。 そして黒の騎士団との密約の元、彼らを味方に引き入れ、ナナリー・ヴィ・ブリタニアこそ第99代皇帝に相応しいと担ぎあげ、天空要塞ダモクレスをもってルルーシュ陛下と敵対し、ここでもフレイヤ弾頭を用い、多くの死傷者を出しました。
以上の事で、何か違っている事はありますか?」
「ありませんね」
シュナイゼルはあくまでも平常心で簡潔に答えた。
「ところで、これまでの裁判で何度か出てきた、ギアス、とは何でしょう。ナナリー被告もあなたが詳しいと言っていましたが」
「ギアス、ですか。父シャルル皇帝は、もう何年も前から政を俗事と言い切り、全てを私に任せて、ある研究にのめり込んでいました。その手足となっていたのがギアス嚮団です。そこでは不老不死の研究や暗殺者の育成、そして、ギアスという不思議な超能力のようなものを研究させていたようです。実際のところ、そのギアスという力が存在しているのかどうかは知りません。ただ、研究していた者たちは信じていたようですが。
私はそれをルルーシュが、ゼロが持っていると黒の騎士団に匂わせてみただけです。そうしたら面白いようにこちらの意図通りにかかってくれました」
「ではルルーシュ陛下がギアスという力を持っているという証拠は?」
「状況証拠を積み上げて、本当に持っているかのように見せただけです。実際のところは知りません。一言申し上げておくなら、私自身は超能力などというものは信じてはいません」
被告人席にいるナナリーや黒の騎士団幹部たちがざわめきだす、俺たちは騙されていたのかと。
ナナリーはそれだけではなく、それ以前に、ペンドラゴンの住民を避難させたというのが本当に嘘だったのだと改めて思い知らされてショックを受けていたところに、更なる仕打ちのように、ギアスなどという力は無いと否定されたようなシュナイゼルの言葉に、半ば恐慌状態に陥った。
ならば自分は兄に対して一体何をしたのかと。兄を否定し、悪魔とまで罵った自分は。
自分がダモクレス内で兄と対峙した時のことを思い出し、その顔色は真っ蒼だった。
母が亡くなってからたった一人で自分を守ってくれた人を、どれほどまでに罵ったのだ、自分はと。それでなくとも、先の裁判の最後に、兄がゼロになったきっかけは自分の言葉だったと知らされたばかりのナナリーは、無意識のうちに涙を流していた。
ごめんなさい、お兄さま、ごめんなさい、お兄さま── 心の中でその言葉を繰り返す。
シュナイゼルは検察官の陳述をあっさりと認め、そのため、彼の裁判は早々に終了した。
残るはコーネリア・リ・ブリタニアだが、ルルーシュ側がダモクレスを制した時には、彼女はその内にはおらず、現在も行方知れずとなっており、現在指名手配中の身である。
一通り、A級戦犯の裁判が終わり、後は判決を待つのみである。
裁判長が告げる。
「判決は10日後、○月×日、午前10時からとします。本日は以上」
裁判長をはじめとした裁判官が控室に引き上げていく中、被告人席では、シュナイゼル以外のほとんどの者が力を失ったように肩を落としていた。
誰もが信じていたギアスを、その情報を齎した本人が否定したのだ。当然のことだろう。
シュナイゼルとしては自分がルルーシュに敗れた以上、無用の混乱は避けるに越したことはないと否定してみせただけなのだが、シュナイゼルの心の内を理解できる者は、この場には誰一人いなかった。
○月×日、午前10時── 。
被告人たちが一列に並ぶ中、裁判長たちが入室してきた。
中央に立つ裁判長がファイルを開き、判決を読み上げる。
「判決を申し渡します。
皇神楽耶、被告はすでに合衆国日本の代表を退き、また、超合集国連合最高評議会議長の要職も失っていることから、社会的制裁はすでに受けていると判断。後は皇コンツェルンの解体と、これからの生活のことを考慮し、一部を残して財産を没収。
扇要、藤堂鏡志朗は死刑。
紅月カレン、ジノ・ヴァインベルグ、他の元黒の騎士団幹部は終身刑。
ナナリー・ヴィ・ブリタニア、及びシュナイゼル・エル・ブリタニアの両名は死刑。
抗告は10日以内にするように。以上です」
一人ずつの裁判ではなく、レベル別になってはいたが、関係者を集めて纏めて行ったために人数が多かったこともあり、判決結果だけを告げる形となった。そして裁判長たちが去った後、顔を上げていたのはシュナイゼルだけだった。ちなみに詳細については、後に判事の補佐官役の者から個別に伝えられている。とはいえ、判決内容のショックからか、それをきちんと聞いていたのは極一部の者だけだったようだが。
シュナイゼルにはルルーシュに敗れた時から全て織り込み済みのことだった。
自分が勝てばフレイヤ弾頭に頭を押さえられた恐怖による平和が来ただろう。だが実際に勝ったのはルルーシュで、誰よりも明日を望むあの異母弟なら、完全ではなくとも、現在よりもずっと平和で平等な世界を築いていくことだろう。明日の見えない、今日という日しか見ない自分が治めるよりは、おそらくルルーシュの治める世界の方が、その道程は厳しくともよりよい世界になるのだろうとシュナイゼルはそう思い、そしてまた全てから解放されて、さばさばとした気持ちだった。他の者はいざ知らず、シュナイゼルは後に思い残すことは何も無かった。
判決を知らされたルルーシュ皇帝は、妹ナナリーの死刑判決に、ただ「そうか」、と一言答えただけで、その日は政務も放り、私室に籠ったままだったという。
── The End
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