Reformation 【10】




 太平洋上、アヴァロンを後方にしたブリタニア正規軍と、シュナイゼルの率いるダモクレス陣営が真正面から睨み合っている。
「相手は魚鱗の陣、しかも先頭は黒の騎士団か。シュナイゼル、最後まで黒の騎士団を利用するつもりだな。しかしそれに気付かず利用される方も利用される方だ。
 よし、このままゆっくり全軍前進、敵の先陣をまずは誘き寄せて片付ける」
 ルルーシュが指示を下し、アヴァロンのオペレーターを務めるセシルがそれを全軍に伝えた。
 ブリタニア軍はゆっくりと前進し、敵との間合いを詰めていく。それに煽られるようにして、敵ダモクレス陣営の先鋒を務めていたカレンをはじめとする黒の騎士団が勢いを増して動き出す。
 そのままブリタニア軍は黒の騎士団を陣形の中に取り込み、ルルーシュに恭順を誓ったシャルルのラウンズであったモニカたちがこれに当たった。
 1機、また1機と黒の騎士団のKMFが落されていく中、エース機の紅蓮と藤堂の斬月はさすがにそう簡単に落とされてはくれない。それどころか、逆にブリタニア軍に確実に被害を与えている。
 藤堂の斬月には、モニカたちラウンズの機体が数機で当たった。
 その一方で、カレンの操る紅蓮には、紅蓮同様のワンオフ機であるランスロットがこれにあたり、1対1の対決となっていた。
「あんた、スザクッ!? あんた、何時の間にルルーシュについてたの!?」
「何時だっていいだろう! 今僕がやるべきことは君を倒すことだけだ!」
「あんたやルルーシュのいいようにはさせない! あんたは私が倒してあげる!!」
「できるものならやってみるがいい。僕の方こそ、今度こそ君を倒す!」
 オープンチャンネルで会話を交わしながらも、互いに一歩も引かず譲らず、攻撃を仕掛け合う。その様はほぼ互角といってよかった。
 しかしどちらかといえば、カレンの方が頭に血が上っている。そして、何時の間にか、藤堂をはじめとする周囲の味方のKMFはほとんどが打ち取られ、残るのはカレンの紅蓮のみとなっていた。
 ブリタニア軍の艦艇は、すでに斑鳩をはじめとする黒の騎士団の艦艇に対して攻撃を開始している。
 斑鳩内の扇は、シュナイゼルに援軍を、と考え、だが敵の中にただ1機残っているカレンの紅蓮を思うと、それを切り出しにくかった。
 シュナイゼルの私兵は他のブリタニア軍を相手にしており、それを援軍に回してもらえるような状態ではない。つまり今の状態で援軍を、となると、その手はフレイヤしかなくなり、その場合、敵陣に残されたカレンをも巻き込む形となってしまう。兵法も碌に知らず、ただ闇雲に敵陣に突っ込んで行ったツケが回ってきた格好だ。
 扇はこんな時ゼロだったら、と考えかけて、慌てて否定するように首を横に振った。自分は一体何を考えているのかと。せめて星刻がいたなら、と扇は思わずにはいられなかった。
 あのアッシュフォードでの会談の後、黒の騎士団は超合集国連合最高評議会から責められ、幹部たちは正式な処分なり再編成が決まるまでの間ということで、謹慎処分を食らう羽目になった。もちろん総司令である星刻もだ。そんな中、日本人幹部たちは、同じ日本人に声をかけ、後退していた蓬莱島から斑鳩をはじめとした艦艇やKMFなどの武器を奪い、脱走してシュナイゼルに合流したのである。
 シュナイゼルならば悪いようにはしない、日本を返すと約束してくれた人間なのだからと、その思いだけで、よらば大樹の陰ということもあったのだろうが、扇たちはシュナイゼルの陣営に組した。
 だが結局は、態よく利用されている状態であり、斑鳩をはじめとした数隻の艦艇も損傷を負い、真面に機能している船はほとんど無い。
 そんな中、紅蓮のエナジーフィラーが底を尽きかけていた。輻射波動も最早撃つ余裕がなかった。
「なんでよ、なんであんたなんかにっ!! ルルーシュなんかのいいようにされる世の中なんて、間違ってるのに、なんであんたは分かんないのよ!」
「じゃあ君はシュナイゼルがいい世の中にしてくれるとでも信じているのか! 自国の帝都に、億からの民がいる帝都にフレイヤを投下しようとする人間が真面だと信じているのか!?」
 これが最後というように、ランスロットのスラッシュハーケンが紅蓮を襲い、カレンは最早撃つ手はなしと、海に向かって落下していく紅蓮から脱出した。



「みじめなものだね、黒の騎士団は。所詮、ルルーシュが、ゼロがいなければ烏合の衆に過ぎなかったということか。もう少し()ってくれると思っていたんだが、期待し過ぎたようだね」
 ダモクレスのコントロールルームで、シュナイゼルは副官であるカノンに告げた。
「けれどこれで遠慮なくフレイヤが撃てるね」
「ですが大丈夫でしょうか。あちらにはアンチ・フレイヤ・システムが」
 それが気がかりというようにカノンがシュナイゼルに声をかけた。
「必ずしも百発百中という訳にはいかないだろう。要は一発当たればいいんだよ、ルルーシュのいるアヴァロンを巻き込んで」
 確かにシュナイゼルの言う通りである。フレイヤは爆発すれば一気に周囲を巻き込みその全てを消滅させることができるのだから。



「ダモクレス、ブレイズルミナスの一部が解除されます!」
「フレイヤを撃ってくるつもりだな。アンチ・フレイヤ・システムの用意を!」
「イエス、ユア・マジェスティ! フレイヤ・エリミネーター、照準合わせ! 敵フレイヤ発射と同時にシステム作動!」
「同時に発射口めがけて攻撃を集中、ブレイズルミナスを打ち破れ」
 ダモクレスがフレイヤを発射するために解除する発射口に対して、そのためにその部分のブレイズルミナスが解除されているうちに発射口を攻撃、それによって、ダモクレスへの進入路を確保するのが目的であり、それにはジェレミアをはじめとしたラウンズたちが当たった。何より正確な攻撃を求められる以上、機体の性能と操縦者の技能が試される。
 やがてダモクレスからフレイヤが発射された。それと同時に、アヴァロンに搭載されていたアンチ・フレイヤ・システムであるフレイヤ・エリミネーターが作動し、それを横にジェレミアたちが一斉にブレイズルミナスの解除されたダモクレスの発射口目がけて攻撃をしかける。数機のワンオフ機による一斉の攻撃に、ブレイズルミナスが解除された発射口はひとたまりもなく、周辺にあったブレイズルミナスの発生装置をも破壊し、KMFがダモクレスに侵入するのが可能なだけの穴を開けることに成功していた。
「各機、ダモクレスに突入! シュナイゼルの身柄を押さえよ。シュナイゼルは脱出艇のあるフロアに向かうはずだ」
『『『イエス、ユア・マジェスティ』』』
 多くの声が同時に響き渡った。
 ダモクレス内に侵入を果たしたラウンズたちやブリタニアの精鋭部隊は、次々とダモクレス内を鎮圧し、あらかじめ入手していたダモクレスの設計図から、アーニャをはじめとするラウンズたちは脱出艇の置かれているフロアを目指した。



「シュナイゼル殿下……」
「やってくれたね、ルルーシュ。まさか父上のラウンズたちまで、何時の間にか味方につけていたとは思わなかったよ。しかも、これまでのゼロとしての戦い方からすれば、ルルーシュ自ら出てくるものと考えていたのだが、その計算も狂ってしまった。最後にはこのダモクレスをルルーシュの棺にしてやろうとも思っていたが、それも無駄に終わったね。けれどただでは済まさないよ。今此処でダモクレス内にあるフレイヤが爆発すれば、アヴァロンにも被害は及ぶだろう。その前に此処から一刻も早く離れる」
 立ち上がり、脱出艇のあるフロアに向かおうとするシュナイゼルに、カノンがどうしたものかと声をかけた。
「コーネリア殿下とナナリー殿下は如何なさるのですか?」
「もう用はないよ」
「それではこのままお見捨てに……」
「ルルーシュに対して何らかの切り札になればと思ってナナリーを生かしておいたが、結局は何の役にも立たなかったしね。逆賊として処刑されるよりは、此処で死んだ方が彼女たちも楽だろう」
 そう冷たく切り捨てるシュナイゼルに、カノンは黙って従うだけだった。
 しかし二人が脱出艇のあるフロアに辿り着いた時には、すでにそこはモニカたちによって制圧されており、シュナイゼルは脱出することは叶わなかった。
「フレイヤに仕掛けられた時限装置も解除させていただきましたし、先程別働隊から、庭園におられたコーネリア殿下とナナリー殿下の身柄も抑えたと報告が入っています。ここまでです、シュナイゼル殿下」





【INDEX】 【BACK】 【NEXT】