Reformation 【9】




 ルルーシュとシュナイゼルたちとの遣り取りの後48時間後、思っていた通りではあったが、シュナイゼルたちはペンドラゴンに出頭しては来なかった。
 エリア11には、この合間に第7皇子のクレメントが総督として着任している。黒の騎士団の抵抗はあったが、それは想定の範囲内のことであり、またそれも思っていたよりも強いものではなかった。何より、エース機である紅蓮が出ていない。これは、黒の騎士団はシュナイゼルたちに付いたと見るべきかとルルーシュは考えた。



 そんな頃、シャルルのラウンズであった者たちがペンドラゴンにある宮殿を訪れ、ルルーシュへの謁見を願い出ていた。ただし、その中にワンのビスマルク・ヴァルトシュタインの姿はなかったが。
 その連絡を受けたルルーシュは、鷹揚に頷くと謁見の許可を出した。ジェレミアはあまりにも危険ですと反対したが、ルルーシュは「おまえがいれば何も心配することはないだろう」と笑ってその進言を退けた。
 やって来たのは、ビスマルクとすでに死亡しているルキアーノ、そしてC.C.がCの世界に置き去りにしたスザク以外の、残りのラウンズ全員だった。
 ジェレミアとアーニャを連れて彼らの待つ謁見の間に入ったルルーシュを、彼らは膝をついて出迎えた。ちなみに、これはさすがにジェレミアの意見を取り入れて、彼らから武器の類は取り上げさせてある。
 ジェレミアとアーニャを従えて玉座に腰を降ろしたルルーシュは、一同を見渡してから告げた。
「して、今日まで姿を見せなかったそなたたちが今になって姿を現したのは、一体どういう了見からだ?」
 誰にともなく尋ねる。それに応えたのは、トゥエルブのモニカだった。
「我ら一同、シャルル陛下が行方を絶たれて以来、ずっとブリタニアの動向を見守って参りました。そしてルルーシュ様がシャルル陛下を弑逆されて第99代皇帝となられたのを受け、一同で協議致しました」
「で、その結果は?」
「シャルル陛下の元でのブリタニアの国是は力が全て。シャルル陛下はルルーシュ陛下の力の前に敗れたのです。ならば、力のある者に従うが当然のことと。ましてや宰相であったシュナイゼル殿下は、こともあろうに自国の帝都にフレイヤを投下しようとまでしたのです。そうであれば、ルルーシュ陛下がシュナイゼル殿下と矛を交えるはまず間違いないこと。ならば、我らはブリタニアの騎士として、陛下に仕え、逆賊からブリタニアを守ることこそが肝要と判断致しました」
「つまり、私に対して恭順するということでいいのかな?」
「御意」
「で、姿の見えないビスマルクはどうした?」
「あの方は、シャルル陛下の後を追われました」
「……そうか」
 ルルーシュは一つ大きく頷いた。
「シュナイゼルたちの陣営には、おそらく黒の騎士団も加わっているはず。卿らの働きを期待する」
「「「「イエス、ユア・マジェスティ」」」」
 ルルーシュは鷹揚に頷くと、謁見の間を後にした。ジェレミアがそんなルルーシュに問いかける。
「それほど簡単に彼らを信用してよろしいのですか? 彼らは仮にもシャルル陛下のラウンズだった者たちですぞ」
「おまえの懸念は分かるが、大丈夫だろう。もし仮に彼らが俺に背くとすれば、このような凝った真似はせずに正面からかかってくるはずだ。それをせずに恭順の意を示した。騎士として恭順の意を示したということは、それだけの覚悟があってのこと。ここは信用して心配あるまい。
 それに、実際のところ、シュナイゼルたちとの戦いのことを考えれば少しでも戦力があった方が望ましい。フレイヤに対してはアンチ・フレイヤ・システムがあるが、戦いはフレイヤだけではない。彼らについたであろう黒の騎士団の戦力も考慮に入れなければならない。つまり、ラクシャータやロイドたちが改造に改造を重ねまくったあの紅蓮も出てくるということだ。生半可な相手ではない。
 ジェレミアもアーニャも、そのつもりで彼らと連携の上で作戦にあたるように」
「「イエス、ユア・マジェスティ」」
「それでいい」
 ルルーシュは軽く笑みを浮かべて、二人を連れたまま執務室に向かった。やるべきことはたくさんあるのだ。
 ブリタニア国内のことは、オデュッセウスがいてくれる。オデュッセウスは優秀過ぎるシュナイゼルの影に隠れていただけで、決して凡庸なわけではなかった。為政者としてはほどほどに有能だ。それに他の皇族たちも、中には確かにギアスで支配下に置いた者もいるが、大半の者は、シャルルの元、力が全てという、我が子らにも相争わせるという状況に疲れ切っていた。そのためにそんなシャルルを倒したルルーシュを受け入れた部分が大きい。そんな彼らに対して、ルルーシュは皇族特権の全てを奪うのは躊躇われ、以前よりも緩やかなものにするに留めた。
 貴族たちについては、シュナイゼルのエル家、コーネリアのリ家の後見についていた者たちに対しては、48時間を過ぎた後、苛烈に対処したが、その中でもルルーシュに恭順の意を示した家に対しては軽い処罰で済ませた。
 問題はCの世界に閉じ込めたままのスザクだな、とルルーシュは思った。



 ある日、C.C.に言ってスザクを己の元に連れてこさせた。
 ルルーシュの前に姿を見せたスザクは、すっかり面窶れしていた。C.C.の言葉によれば、Cの世界では時間は関係ないはずなのだがな、とルルーシュはおかしなところで疑問を感じた。
「久し振りだな、スザク。といっても、おまえにとってはほんの少しの前のことかもしれないが」
「……そんなことはない、十分過ぎるくらいの時間があったよ」
「それは、考える時間が、ということか?」
「ああ」
「まあそれはいい。とりあえず、この間にあったことをかいつまんで説明しよう」
 今浦島になっているスザクに対して、シャルル消滅以後のブリタニアを含む世界の状況について、ルルーシュは、言った通りにかいつまんで説明した。
「ナナリーが生きて!?」
「ああ。それもシュナイゼルについて、今では俺の敵だ」
「そんな。あんなに君のことを思っていたナナリーが……」
 信じられないというスザクに、「だがそれが事実だ」と、ルルーシュは短く答えた。
「それで、君はこれからシュナイゼル殿下らと戦って、それでどうするつもりなんだい?」
「そのことで、C.C.に言っておまえをCの世界から呼び戻したんだ」
 ルルーシュとスザクの他には誰もいない皇帝執務室で、二人はそれから暫くの間、今後のことについて話し合いの時を持った。
 それはお互いに隠し事のない、全てを明らかにされた状態でのもので、ある意味、8年前の互いに何も隠さずに友人となった頃のことを思い起こさせるものでもあった。



 そして、その時は来た。
 天空要塞ダモクレスを擁し、黒の騎士団を味方につけたシュナイゼル陣営と、ルルーシュ率いるブリタニア正規軍との正面対決である。
 ブリタニア軍はニーナの開発したアンチ・フレイヤ・システムを搭載したルルーシュの乗るアヴァロンを陣営奥の中心に、鶴翼の陣を敷いて、迫りくるダモクレスとシュナイゼルの私兵、そして黒の騎士団を迎え撃つ態勢に入った。





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