「なあルルーシュ、もう一度話戻すようで悪いけど、シャーリーの件、あれ、ホントに自殺だったのか? スザクが関係してるんじゃないのか?」
「リヴァル?」
ミレイが訝しげにリヴァルの名を呼んだ。一体何を言い出すのかと。
「だってそうだろ、さっきの話から察するに、スザクの奴は、俺たちを見張ってもいたんだろ? シャーリーも記憶を弄られてたんだよな。もしそれが何かの拍子に記憶を思い出したりしたとかして、それで……」
最後の方はさすがに言いづらそうに口籠ったリヴァルだったが、ミレイとニーナはリヴァルが何を言いたかったのかを察したようだった。三人してルルーシュを見やる。
そこに口を挟んだのは、それまでルルーシュの後ろで黙って四人の遣り取りを見ていたジェレミアだった。
「フェネット嬢は私のキャンセラーによって記憶を取り戻し、そのために処理、つまり殺されました」
「あなたのキャンセラーで? 一体何故そんなことを?」
「それに本当に記憶を取り戻したために殺されたのかよ!」
「嘘……」
「私はナリタ戦役で敗れたところをバトレー将軍によって拾われ、改造手術を施されました。そしてブラック・リベリオンの際、この時点だはまだそうとは知らず、ゼロであったルルーシュ様を付け狙い、ガウェインと共に神根島の海中に没したのです。そこをV.V.に拾われ、ギアス嚮団によって更なる改造を受け、ギアス・キャンセラーの能力を授けられました。そんな私にくだされた命令が、ゼロの、ルルーシュ様の暗殺でした。
エリア11に来た私は、租界の中でキャンセラーを発動させました。ルルーシュ様のギアスにかけられている者をギアスから解放するためでした。フェネット嬢はたまたまその有効範囲内にいたために、シャルル陛下のかけた記憶改竄のギアスが解かれ、全てを思い出されてしまったのです。そしてそれを知られたために、機情の抱える暗殺者により殺されたのです」
ジェレミアの話に、ミレイとニーナは思わず口元を抑えた。
「なんだよ、それ! そんな話があるかよ! そっちが勝手に記憶改竄なんてしておいて、それを思い出したからって! そんなに、そんなにルルーシュがゼロだったってことを隠さなきゃならなかったのかよ!」
リヴァルは余りの怒りにその心頭をぶちまけていた。
その一方で、ルルーシュは、ジェレミアがシャーリーを手にかけたのがロロであったことを告げずにいてくれたことに感謝した。しかし同時に、シャーリーの死に対しても、ルルーシュは自分に責任があると思っていた。
「シャーリーも、俺のしてきたことの犠牲者だ。俺がゼロになってなかったら……」
「いいえ、いいえ、ルルーシュ様、そもそも8年前のマリアンヌ様殺害がなかったら、ルルーシュ様とナナリー様が日本に送られたりするようなことがなかったら起こらなかったことです。全ては亡くなられた陛下の意思に起因するものです。ルルーシュ様がそこまで責任を負われることはありません!」
「……私、皇族って、その存在だけで憧れてた。でも実際には、そんな憧れるような世界じゃなかったんだね。私が見てたのは華やかな表面だけだった。皆が皆、ユーフェミア様のようじゃなかったんだね」
「ニーナ」
ミレイが気遣うように、ニーナの名を呼んだ。
「彼女は、ユフィはコーネリア異母姉上に守られて、皇室の闇を知らずに育った。だからこそのあの優しさ、天真爛漫さだったのだろうが、同時に、あまりにも無知だった、知らなさすぎた。皇室の闇も知っていたなら、行政特区などという甘い考えは抱かなかっただろう」
「そういう意味では、ユーフェミア様を殺したのは、直接手にかけたのはゼロだけど、シャルル皇帝陛下という存在が、その陛下の意思の元にある国是が、ブリタニアという国家がユーフェミア様を殺したのね。そしてルルーシュ君は、今、そんなブリタニアを内から変えようとしている。そうなんだよね?」
「ああ、ブリタニアは変わらねばならない、そう思っている。弱肉強食などという理論は間違っている。弱者が生きられない世界、認められない世界などあってはならない。強者が弱者を思いやる世界、それこそが、ブリタニアが長く掲げてきた騎士道精神の本来の在り方だと思っている」
ルルーシュの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
「さっきも言ったけど、私、できる限りのことをする。なんとしてもフレイヤを無効化するシステムを築きあげる」
「私もできる限りのフォローをするわ」
「お、俺も! 俺のできることなんてたかが知れてるっていうか、何も無いかもしれねぇけど、それでもルルーシュ、おまえがくじけそうになったら、ハッパかけてやるくらいはできるからな」
「私は、ルルーシュ様がゼロになられた理由を伺った時に忠誠を誓いました。その時の心に変わりはありません。何処までもルルーシュ様についてまいる所存でございます」
「皆、済まない、ありがとう」
そう言って、ルルーシュは頭を下げた。
そうしてその夜はすっかり遅くなってしまったが、それぞれにあてがわれた部屋で寝みを取り、ニーナは翌日から、早速アンチ・フレイヤ・システムの構築に取りかかるべく研究所に移った。
しかしさすがにニーナ一人の手には余るだろうと、丁度、本国に帰還してきていたキャメロット隊のロイドとその副官セシルが補佐に就いた。
報道人としての仕事を持つ身のミレイは、躰を休めるために翌日一日をそのままオデュッセウスの離宮で過ごすと、仕事があるからと早々にエリア11に戻った。エリア11は、トウキョウ租界は未だフレイヤの混乱の中にあるため、ルルーシュの要請でジェレミアがミレイをアッシュフォード学園まで送り届けることとなった。
そしてリヴァルは、特に何もすることなく、結局彼自身が言った通り、ルルーシュにハッパをかける役目を果たそうと、そのままペンドラゴンに、オデュッセウスの離宮に残った。
そうして日が経ち、オデュッセウスはルルーシュの草案を元にブリタニアを変革すべくルルーシュと共に動いていたが、ルルーシュの存在を知る皇族は、未だオデュッセウスの他にはいない状況だ。
そんな中で、オデュッセウスがルルーシュに話を持ちかけてきた。曰く、第7皇子のクレメントを加えないか、と。
クレメントは表面的には確かに国是の弱肉強食を唱えているが、心の底からそれを信奉しているかと言えば必ずしもそうではない。ただ力のある者と無い者とをしっかりと区別しているだけで、決して弱者を蔑にしているわけではない。そして一人でも多い賛同者があるに越したことはない。まずはクレメントを説得し、それからまた更に賛同してくれそうな者たちを説得していった方がいい。その方が事を進めやすくなると。
ルルーシュとしてはいざとなればギアスがあるのだからと消極的ではあったが、異母兄の言うことも道理であり、賛同した。 ルルーシュの賛同を得たオデュッセウスは、早速宰相府にクレメントを呼び出し、ルルーシュとも引き合わせ、父皇帝の死と、それにまつわる神根島でルルーシュが知り得た事実を説明した。当初は驚きの方が大きかったクレメントではあったが、やがてオデュッセウスの進言に、確かに彼らの言う通りであると、ルルーシュ側につくこととなり、ついで説得しやすそうな皇族を挙げていった。
その中で一番に上がったのが第1皇女のギネヴィアであったことは、ルルーシュだけではなく、オデュッセウスをも驚かせた。
「あのギネヴィアがかい?」
「はい、私の知る限りでは、多分一番ですよ」
そう自信ありげに答えるクレメントに、それならと次のターゲットを第1皇女ギネヴィアにしたオデュッセウスとルルーシュだった。しかしその一方で、クレメントの進言により、如何にしても反対しそうな人物の炙り出しも行われ、彼らに対してはルルーシュのギアスが用いられる運びとなった。全てはやがてくるであろう対シュナイゼルのことを考えての、ブリタニアを一枚岩にするための多数派工作であった。
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