Reformation 【4】




「そんな、それでは学園は……」
 ルルーシュとナナリーの二人の元皇族を守るための箱庭が、己の知らぬ間に箱庭どころか檻になっていたという事実は、ミレイに少なからぬショックを与えた。
「そして、バベルタワーでのテロで俺はC.C.と接触し、全てを思い出して、再びゼロとして()った。後はおまえたちが知っている通りだ。ああ、ゼロとしての俺が蓬莱島にいる間、ルルーシュとして学園にいたのは、俺に化けた咲世子だ。咲世子はミレイも知っての通り忍びだからな、その辺はお手のものだった」
「ナナリーちゃんは浚われた後、皇室に戻ったのね?」
 ニーナが確認するようにルルーシュに問いかけた。
「そうでなければ、ナナリーちゃんが皇族としてエリア11に総督として赴任してくるなんてことなかったもの」
「けど、それなら一体誰がナナリーちゃんを浚ったんだ? 目的はルルーシュを誘き寄せるためだったんだろうけど」
「それに誰がスザク君にルルーシュのことを教えたの?」
 三人それぞれの言葉、疑問にルルーシュは律儀に応えた。
「ナナリーを浚ったのも、スザクに俺のこと、俺のギアスのことを教えたのも、V.V.という人物だ。V.V.というのは、C.C.と同じくコードを所持する不老不死者で、その正体は、俺の父シャルルの双子の兄だ。V.V.の目的もC.C.の確保にあったんだが。
 父と、8年前に死んだ俺の母である皇妃マリアンヌとV.V.は同志だった」
「「「同志?」」」
 三人のハモった声にルルーシュは頷いた。
「三人は嘘のない世界を創るために、神を殺すという計画を立てていたんだ」
「神を殺す、って……」
 ミレイはそれしか言葉が続かなかったし、他の二人に至っては言葉もない。
「彼らの言う神とは、人の集合無意識。それをシャルルがギアス嚮団という組織を使って研究していた思考エレベーター、別名、アーカーシャの剣とも言っていたが、それで殺して、人の意識を一つに纏めようとしていたんだ」
「そんなことが、本当に可能だったんですか?」
「俺自身、本当にそんなことが可能なのかどうかよく分からないが、シャルルたちの話によれば、コードが二つ、つまりV.V.のコードとC.C.のコードが揃えば可能だったらしい。V.V.のコードはその時にはすでにシャルルに移され、V.V.は死んでいたが」
「V.V.って、不老不死じゃなかったのか?」
 先程の話から、当然の如く不思議に思ったのだろうリヴァルが口を挟んだ。
「コードを所持している間だけだ。コードが奪われてしまえば唯の人間に過ぎない。V.V.のコードは、俺が、ゼロとしてギアス嚮団を急襲した時に現れたシャルルによってV.V.から奪われ、V.V.ではなくシャルルが不老不死者となったんだ」
「皇帝が、不老不死」
「ちなみに俺の母マリアンヌを殺したのはV.V.。シャルルがあまりに母を愛したために、約束を違えてしまうのではないかと、シャルルの変化を恐れたV.V.の手によって為されたことだ。その時、母が持っていた人の精神を渡るギアスが発動して、躰は死んだが、精神は、その時アリエス宮に行儀見習いとしてあがっていたアーニャの中に移って生きながらえていた。アーニャがよく記憶が途切れると言っていたのは覚えているか?」
 ルルーシュの問いにミレイとリヴァルは頷いた。
「それは、母マリアンヌの精神が表に出ていた時のことだ。
 そうして俺はブリタニアに対抗する組織として、超合集国連合を()ち上げ、その決議を受けて日本奪還のために侵攻したんだが、トウキョウ租界でフレイヤを使用され、その結果、敵味方共に混乱した。そんな中、黒の騎士団の旗艦である斑鳩に外交特使としてシュナイゼルが訪れ、俺の、ゼロの正体と、彼の知る、彼の集めた、とはいえ全てを知っていたわけではなく、ある程度シュナイゼルに都合のよいようにでもあったようだが、ギアスに関する資料を提示して、幹部たちにゼロを、俺を裏切ることを唆した。ナナリーの死亡を受けて、俺はもう生きている理由もないと死ぬ覚悟をしていたんだが、ロロが命懸けでそんな俺を救ってくれた」
「じゃあ、ロロは……?」
 命懸けとの言葉に、リヴァルは遠慮がちに問いかけた。
「……死んだよ。ギアスを酷使し過ぎて。あの子の持っていたギアスは人の体感時間を止めるものだったが、その間、自分の心臓も止まるものだったんだ。それを酷使し過ぎて、心臓に負担をかけ過ぎて、俺を逃がす代わりに自分が死んでしまった……」
「ロロ、すっかりルルちゃんに懐いていたものね」
「ロロの奴、自分がどうなってもおまえを救いたかったんだな」
 ミレイとリヴァルは半ば納得したように頷いていた。この辺りはニーナの知るところではないので、彼女はひたすら聞き役に徹していた。
「神根島に辿り着いた俺は、そこで、正確にはCの世界と呼ばれる、現世とはまた一線を画した世界でシャルルと対峙した。そこにアーニャの中で精神のみ生きていた母も現れ、8年前の真相を、そして彼らの目的を話してくれた。
 だが、彼らの目的とするところは、俺には到底許すことのできないものだった。彼らが望んだ世界は、世界を昨日で止めること。そこに人の進化は、未来はない。俺は俺の持てる力の限りを使って、神と呼ばれる人の集合無意識にギアスをかけた、(とき)を止めないでくれと、明日が欲しいと」
「じゃあ、シャルル陛下を弑したっていうのは……?」
「俺の願いが神に届いたのだろう、神は己を殺そうとしているシャルルと母を否定し、その存在を抹消した」
「だから、陛下は死んだと?」
「そういうことだ」
 納得いったのかいかぬのか、それは分からぬまでも、状況は理解したらしい三人はそれぞれに頷いていた。
「ところで話は戻るけど」
「なんだ、リヴァル?」
「スザクはおまえがゼロだってこと、ギアスのことも含めて知って、皇帝に売ったわけだよな?」
「ああ。あいつには、俺の存在自体が間違ってるとまで言われたよ」
 苦笑を浮かべながらルルーシュは答えた。
「けど、俺たちに記憶改竄のギアスがかかってるのは、皇帝がそれをかけたのは、スザクは承知のことだったんだよな?」
「ああ」
「おまえの存在を間違ってるっていうことは、ギアスも否定したってことだよな?」
「そうだが? ギアスについては、無意識かもしれないが、認められないのは、許せないのはあくまで、俺の、だけだったのかもしれないがな。だからあいつにはおまえたちに対して加害者といっていいのかな、悪いことをしてるとか、そういう意識は無かったかもしれないとも思うよ」
「あいつがどう思ってたかはともかく、実際にあいつがしていたことは、あいつはおまえだけじゃなく、俺たちにも皇帝のギアスをかけて俺たちを騙してたってことだろ!?」
「そういうことになるわね」
「でもってゼロであるおまえを皇帝に売ってラウンズとなった後、学園に復学したのって、おまえを、いや、おまえだけじゃない、俺たちを見張るためだったってことじゃないのか!?」
「必然的にそういうことになるわね。彼自身、どこまで意識していたかは知らないけれど。彼が私たちを騙していたのは紛れもない事実だわ」
「そんなことをしていたスザク君に、ルルーシュ君の存在自体が間違ってたなんていう権利はないと思う」
 それまで聞き役に徹していたニーナがそう告げた。
「その通りだよ! あいつ、自分を何様だと思ってるんだ!? ラウンズってのはそんなに偉いのかよ!?」
「あいつの目的は、ワンになって日本を、エリア11を己の所領として貰い受けることだったようだ。これは本人が口にしてたことだから間違いない。それがあいつにとっては日本返還ということだったらしい」
「それって変じゃない?」
「そうスよね、会長。ワンの所領ってことは、あくまでブリタニアの属領であって、日本の返還じゃない。ナンバーズ出身のスザクがワンになるなんてありえないし、もし仮にそれが叶ったとしても、それはスザクがワンでいる間だけのことで、日本返還なんて程遠い事実だ。そんなことも理解してなかったんスかね」
 リヴァルの言葉に、スザクは理解していなかったのだろうと、ニーナもミレイも溜息を吐いた。ルルーシュは苦笑するしかない状態だ。
「そんなスザク君に、フレイヤを使えって、私、強要したのよね、ユーフェミア様の仇のゼロを殺すために」
 ポツリとニーナが呟いた。
「それがあんな莫大な被害を生むなんて、あんなにたくさんの人を殺すことになるなんて思いもせずに」
「ニーナ……」
「ニーナ、俺がそのゼロだ。君には俺を憎む権利がある。例えどんな理由、状況であれ、俺がユフィを殺したのは間違いのない事実だから。けれど、それでも頼みたい、アンチ・フレイヤ・システムの構築を」
 ルルーシュは真っ直ぐにニーナを見つめて説得に入った。
「シュナイゼル殿下は行方不明なのよね?」
「ああ。雲隠れしている、フレイヤを持ったまま」
「それって、シュナイゼル殿下は、何処かでフレイヤを使用するつもりだってことだよね?」
「俺はそう思っている。オデュッセウス異母兄上(あにうえ)も、たぶんそうだろうと仰っている」
「フレイヤは、あってはならないのよね?」
「あれはあまりにも非人道的な兵器だ。シャルルたちが為そうとしていた神殺しと同様に、存在してはならないと思う。シュナイゼルはフレイヤによって、恐怖によってこの世界を支配しようとしているのではないかと、俺はそう考えている。それはシャルルたちの望んだ世界が昨日で終わっているとしたら、シュナイゼルのそれは今日という日で終わりにするものだ。人間の、世界の進化を止めることだ。それは許されざる行為だと、俺は思う」
 俯き、少しの間、考え込んでいたニーナだったが、再び顔を上げた彼女は決意に満ちていた。
「私、やるわ。構想はだいたいだけどすでにできているの。アンチ・フレイヤ・システムの構築、やります。だから力を貸して、ルルーシュ君」
「ありがとう、ニーナ」
 ニーナの出した結論に、ルルーシュは心からの笑みを浮かべながら感謝の言葉を述べた。





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