Reformation 【2】




 その日から、ルルーシュの影ながらのサポートもあってか、オデュッセウスの各種決済に対しての処理能力は格段と上がっていた。
 何があったのか分からぬまでも、まるで一皮むけたようだ、というのが周囲の意見である。そしてその日の夜遅く、ルルーシュの携帯に1本の連絡が入った。アッシュフォード学園に赴いたジェレミアからだった。



「はい、それでMs.アインシュタインに会うことは叶ったのですが、今一つこちらの言うことを信じていただくことができず、それでご連絡をとらせていただいた次第です」
 アッシュフォード学園の、辛うじてフレイヤ被害から免れたクラブハウス内にある生徒会室から、ジェレミアは本国にいるルルーシュに連絡を取ってきていた。
「はい、それでは」
 携帯に向かってそう答えると、ジェレミアはおもむろにその携帯をニーナに手渡した。
「ルルーシュ様だ。是非君と直にお話をされたいと」
「ルルーシュ君が?」
 ニーナは恐る恐るといった態で、ジェレミアの差し出した携帯に手を伸ばした。
「……もしもし……」
『ニーナか?』
 その声は、確かに聞き覚えのある、懐かしいというにはいささか早いかもしれないが、ニーナの知るルルーシュ・ランペルージの声だった。
「ルルーシュ君、本当にルルーシュ君なの?」
『ああ、俺だ。詳しいことは今は言えない。けれど、君にはどうしてもアンチ・フレイヤ・システムを構築して欲しい。そのために本国に来てもらえないだろうか。君が本国に着いたら、その時に全てを話そう。もしそれでどうしても俺に協力することができないとなったらそれは致し方ない。けれど、せめて話をさせてくれ。俺はあいにくと今は本国を離れることができない。君に来てもらうしかないんだ。どうだろう、ムシのいい話だという自覚はあるが、ジェレミアと共に本国に来てもらうわけにはいかないだろうか?』
「ルルーシュ君は、フレイヤを利用しようとしているんじゃないのね?」
『あれはこの世には存在してはならないものだ。それを無効化するためのものを俺は求めている』
「それができるのが私だと?」
『君はフレイヤの生みの親だ。君にできなければ、他の誰にもできないだろうと思っている』
「ルルーシュ君、私……」
 言葉に詰まってしまったニーナに代わり、傍らにいたミレイがニーナから携帯を取り上げた。
「ルルーシュ様」
『ミレイか?』
「はい、ご無事でいらっしゃるのですね?」
『ああ、心配をかけてすまない。今はオデュッセウス異母兄上(あにうえ) の離宮にいる。詳しいことは言えないが……』
 言葉を濁すルルーシュに、ミレイはニーナに変わって返事をした。
「私もご一緒でよろしければ、ニーナを連れてペンドラゴンに参ります」
『ミレイ!?』
「ご無事なお姿を確認したいのです。せめてそれだけでもお許しください。ニーナのことは私が責任をもって本国へ連れてまいります」
『……分かった、よろしく頼む』
「あ、俺も、俺も行きたい!」
 ミレイの脇から、リヴァルが携帯に向かって叫んだ。その声に思わず苦笑を漏らすルルーシュの声が聞こえ、ミレイは安堵した。ああ、そんなところは変わっておられないと。
『分かった、リヴァルも一緒でいい。とにかく、本国に来てくれ』
「畏まりました」
 そう最後に告げて、ミレイは携帯をジェレミアに返した。
「ミレイちゃん……」
 ニーナがミレイに声をかけた。それは当然だろう。自分は本国には行くとは言っていないのに、勝手にミレイがニーナを本国に連れて行くと答えていたのだから。
「ニーナ、あなたは責任を取らなきゃいけない。トウキョウ租界で3,500万もの死傷者を出し、巨大なクレーターを生み出してしまった責任を。その方法をルルーシュ様は求めていらっしゃる。ならばあなたは本国に行って、アンチ・フレイヤ・システムを構築するのに協力すべきよ。それがあなたの責任の取り方だと、私は思うわ」
「……」
 ミレイのその言葉に、ニーナは小さく、けれど確かに頷いた。
「ミレイちゃんの言う通りだね。私はユーフェミア様のためと言いながら、ユーフェミア様は平和を望んでいらっしゃったのに、そのユーフェミア様が望んでおられたのとは真逆の、大量虐殺を働いてしまった。その責任は取らなきゃいけないよね」
「そうよ。ルルーシュ様の詳しい事情というのは、本国に行って本人から聞かなきゃ分からないけど。此処にいるゴットバルト卿は話してはくれないようだし。その内容によってはどうなるか分からないけど、でも、あなたはあなたのできる方法で責任を取りなさい」
 ジェレミアを一瞬見やりながら、ミレイはニーナへの説得を続けた。
「うん、私、ルルーシュ君の所へ行くわ」
「俺も行くからな! でなきゃ、行って本人に聞かなきゃ納得いかないことが多すぎる」
 ルルーシュの悪友を自認するリヴァルにとっては、ルルーシュが何故行方を絶ち、今本国の、それも第1皇子オデュッセウスの離宮になどいるのか、それにジェレミアのキャンセラーで取り戻した記憶の中、妹のナナリーと、この1年の間、弟としてルルーシュの傍にいたロロのこととか、聞いて確かめたいことは幾つもあった。
「ニーナ一人から私を含めて三人になりましたけど、よろしいでしょうか、ゴットバルト卿」
 ジェレミアはミレイの言葉に頷いた。
 携帯でのルルーシュとミレイの遣り取りから、ルルーシュはミレイたちの同行を認めたと判断したためだ。加えて、ニーナを本国に連れ帰るためにも、ミレイたちの助力は欠かせまいと判断したこともある。
 そうしてジェレミアは、ニーナの他にミレイとリヴァル、三人を連れてブリタニア本国へ、ルルーシュの待つペンドラゴンへと急ぎ向かうのだった。



 ブリタニアの帝都ペンドラゴン、その中にある第1皇子オデュッセウスの離宮に辿り着いたジェレミア達を出迎えたのは、侍従の一人だった。
「ルルーシュ殿下はオデュッセウス殿下と共に宰相府に出かけられていらっしゃいます。お戻りは夜になるかと。それまでは、お部屋をご用意させていただきましたので、そちらでお休みになっていてほしいとのお言葉でございます」
 その言葉に、三人は離宮内の一室に案内され、ジェレミアは帰国の報告を兼ねて宰相府に向かった。
 ブリタニアに戻るまでの間、ジェレミアはニーナたちに何も話さなかった。話すのはルルーシュの役目と徹してのことだろう。もちろん、ジェレミア自身も含めて、四人を乗せた高速艇の操縦に携わっていたこともあったが。
 だがその中で、ミレイが知ることを二人に聞かせていた。
 ルルーシュの名前が本当はルルーシュ・ランペルージではなく、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、ブリタニアの第11皇子であること、8年前、アッシュフォード家が後見となっていた彼の母であるマリアンヌ皇妃が殺害され、弱者となったルルーシュと妹のナナリーは、皇室から放逐されるように、当時すでに関係が悪化し、何時開戦してもおかしくないような緊張状態のあった日本に人質よろしく送られたこと、その後のブリタニアの日本侵攻に紛れて、アッシュフォードが二人を庇護し、戦後のどさくさに紛れて偽のランペルージという偽りのIDを作ったこと。ルルーシュとナナリー、この二人はブリタニアの皇室においては弱者でしかなく、皇室に戻る気は、少なくともルルーシュにはなかったために、アッシュフォードで庇護していたことなどである。
 ルルーシュが皇子であったことに、ニーナとリヴァルは素直に驚いていた。
 しかしミレイにも分からないことがある。今はジェレミアのキャンセラーによって思い出してはいるが、1年前のシャルル皇帝による記憶の改竄、教職員や生徒たちの入れ替わり、そして何よりも、ナナリー一人が皇室に戻っていなくなり、ロロという偽りの弟の存在が現れた。それらについてジェレミアは多少は知っているようだが、何も話してくれそうにない。結局、ルルーシュを待つより他にはないのだと、三人は与えられた部屋で各々に休憩を取っていた。そんな中でもニーナだけは、持ってきたノートパソコンと向かい合っていたが。





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