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「神よ、刻を止めないでくれ！ それでも俺は明日が欲しい!!」
ルルーシュの渾身の“願い”という名のギアスを聞き届けたのか、神は己を殺そうとしていたシャルルとマリアンヌの存在を否定した。
全ての真実を知り、そして両親を否定したルルーシュ。
ルルーシュを庇ってロロは死に、ナナリーも第２次トウキョウ決戦において使用されたフレイヤによって死亡した。幼馴染でありルルーシュにとって最初の友人となった親友の枢木スザクは、全てを知った後も尚、ルルーシュを「ユフィの仇」と言い、C.C.によって排除された。C.C.はスザクの存在を認めなかった。彼女にとって何よりも大切なのは、彼女の唯一の共犯者、魔王たるルルーシュのみだったから。だから、C.C.はルルーシュが止めるのも聞かず、スザクをＣの世界に置き去りにした。
最早ルルーシュには何も無かった。そう、生きる希望も、目的も、全て失われてしまった。
そんなルルーシュを現世に引き留めたのは何だったのだろう。
C.C.との契約を交わした時の約束か、それとも己を探し求めて辿り着いた、ジェレミアのルルーシュに対する忠義に報いるためか。あるいはジェレミアの、「皇帝を弑した責任をお果たしください」との言葉だったのかもしれない。
シャルルを弑したことで全て済んだとルルーシュは考えていた。後のことは残った者がやればいいと。だが、ジェレミアはそれは無責任だと言ってのけたのだ。
シャルルを弑した責任をとって、ルルーシュが、ルルーシュの望んだ世界を創り上げていくことが、何よりの責任の取り方なのではないかと。そしてまた、シャルルが最期に告げたシュナイゼルの存在、それを無視してはならないと。
現在、シュナイゼルは製造されたフレイヤと共に行方を晦ましている。何を考えているのか分からない。いや、正確には理解したくない、という方が正しいのかもしれない。
シャルルは世界を昨日で終わりにしようとした。シュナイゼルのしようとしていることは、フレイヤによる恐怖の下の支配で、それは世界を今日という日で終わりにしようとしていることなのではないか。それは決してルルーシュが望んだ明日ではない。それがルルーシュを引きとめた決定打かもしれなかった。
それから数日後の深夜、ブリタニアの帝都ペンドラゴンにある壮大な宮殿の中、暗闇に紛れて、ルルーシュはC.C.、ジェレミア、そしてジェレミアがキャンセラーをかけたこととにより、ルルーシュに味方することを約束したアーニャと共に第１皇子オデュッセウスの離宮へと忍び込んだ。
皇帝、宰相、共に行方知れずという中、第１皇子であるオデュッセウスは、好むと好まざるとにかかわらず、政治の第一線にいた。彼は正直、皇帝の座などというのは己の器に余るものと考えていただけに、現在の状況は、彼にしてみれば非常に喜ばしくない状態だった。
オデュッセウスは自分の力量を心得ている。ゆえに、第２皇子であり宰相であるシュナイゼルが、皇位継承権第２位とはいえ、実質次期皇帝候補No.１と言われていることにも納得していた。不満はなかった。彼からすれば、優秀な異母弟であるシュナイゼルの方こそ、自分よりも皇帝の座に相応しいだろうと考えていたのだ。
それなのに、皇帝の不在はかねてから度々あったことではあったが、それでも宰相のシュナイゼルまでもが行方知れずというのは初めてのことであり、戸惑いは隠せず、けれど政を滞らせるわけにもいかず、不本意ながらオデュッセウスが皇帝の代理として第一線に立っている次第である。
そんなオデュッセウスを、夜の闇に紛れて訪ねてきたナイト・オブ・シックスをはじめとした四人の人物に、正直彼は驚いた。
一人は記憶が確かなら、かつて父シャルルの第５皇妃マリアンヌの元によく訪れていた少女。しかし不思議なことに、少女が姿を見せなくなってから10年以上経っているというのに、少女は一向に外見が変わっていなかった。
今一人は、顔の左半分を不思議な仮面で覆ってはいたが、辺境伯ゴットバルト卿のはずである。
そして残る一人。ブリタニア人には珍しい艶のある漆黒の髪、そしてロイヤル・パープルと呼ばれる、父シャルルによく似た深い紫電の瞳の少年。その面差しは、今は亡き第５皇妃マリアンヌに、そして朧気な記憶の中にある、幼い異母弟ルルーシュによく似ていた。
「君は、ルルーシュ、僕の異母弟のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアかい？」
「はい、異母兄上」
オデュッセウスの問いかけに、自分が彼の異母弟であることを認めたルルーシュは、夜分遅くに人に紛れるような無礼な訪いをしたことを詫びながら、事の次第を話した。
８年前の母マリアンヌ殺害の件、この８年の間、自分がしてきたこと、その状況、そして何よりも、神根島であった出来事── シャルル弑逆を含めて── の全てを。
「まさか、そんな事を父上が……」
聞いた当初のオデュッセウスは、さすがに信じられぬようだった。さもありなん、一体誰が神殺しなどということを考えるだろう。そもそも神とは殺せるものなのか、という疑問が第一にある。
その証拠の一つを、ということで、ルルーシュがオデュッセウスにギアスをかけ、キャンセラーであるジェレミアがそのギアスをキャンセルしてみせるということで、オデュッセウスに自分たちの言葉が真実であると知らしめた。
それからルルーシュは、行方を晦ませているシュナイゼルに関しての危惧と、自分が考えている世界の在り方を話した。
世界は優しく変えていける── かつてゼロであったルルーシュにそう告げたのは、今は亡きナナリーだった。しかし世界はそれほど甘いものではない。世界を変えるということは、生易しいことではない。現世の闇を知らないナナリーは甘い夢を見ていたのだ。だがルルーシュは違う。実際にその目で見、その手を血に塗らして生きてきた。その状況はそう簡単に変わるものではない。現に超合集国連合とブリタニアとて、シュナイゼルからの最後の報告で休戦がなったとはいえ、全てが終わったわけではないのだ。
そんな状況の中で、世界を、ブリタニアの在り方を変えていくには、下からのそれが望めない以上、上から強権を持って行うしかないというのがルルーシュの考えであり、オデュッセウスもそれに賛同した。
そしてその翌日から、まずはブリタニアを改革するための手段が、オデュッセウスを通して行われることとなった。
オデュッセウスはルルーシュに表立って立つようにと勧めたが、彼は表に出ることを今はまだ早いと拒んだ。それは、自分のいなくなった状況で、超合集国連合とその剣であり盾である外部機関、ゼロであるルルーシュを裏切った唯一の戦闘集団である黒の騎士団がどう出るか、それを見極めてからにしたいと言ったのだ。シュナイゼルに関しては、彼が動くとすれば、それはむしろルルーシュが表に出た後だろうということで、その点ではオデュッセウスの考えとも一致し、結果、ルルーシュの言うように、超合集国連合と黒の騎士団の今後の出方を確かめた上で、ということになった。
しかし、それでは間に合わないこともある。大量破壊兵器フレイヤである。
シュナイゼルはフレイヤを所持したまま行方を晦ませている。つまり、何時どのようにフレイヤを使用してくるか分からないということだ。おそらくそれはルルーシュが述べたように、彼が表に出てからではあろうが、それまで何も手をこまねいている必要はないし、その時間が惜しい。
フレイヤを創り上げたニーナ・アインシュタインは、第２次トウキョウ決戦でフレイヤが使用された後に行方を絶っている。おそらくはそのあまりの被害に、己のしたことに怖れを為したのだろう。だとすれば、ニーナは何を思い、何をしているだろうかと、それをルルーシュは考えた。
現在、各国がフレイヤに関する情報を手に入れようと躍起になっている。それはつまり、開発者であるニーナを手に入れようとしているということだ。そんな状況から逃れる方法を考えてみる。
そこで出た結論は、アッシュフォード学園だった。
奇しくも場所はフレイヤが投下されたトウキョウ租界。ましてやニーナにとって馴染みのある場所であり、また、彼女の幼馴染であるミレイ・アッシュフォード、同じ生徒会役員だったリヴァル・カルデモンドといった、親しい人間がいる。隠れるとなれば、アッシュフォード学園をおいて他にはあるまいとの結論に達したのだ。
ルルーシュはニーナの身柄を確保すべく、ジェレミアをアッシュフォード学園へと遣わした。まずはシャルルによってミレイやリヴァルにかけられたギアスを解くのが先決。それができて後、ニーナの居場所を確認し、彼女を説得してアンチ・フレイヤ・システムの構築を依頼するのが手順だろうと思われた所以である。
そうしてオデュッセウスが新しいブリタニアを築きあげるべく腰を上げたのと同時に、ジェレミアはエリア11のトウキョウ租界へと密かに向かうのだった。
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