パンドラの匣 【3】




 そして事情聴取の中、スザクの名前が出た時に、二人の表情が歪んだ。そこで最後に、二人に対してスザクに関する話を改めて聞き出すことにしたのだが、そこで二人は言いにくそうに、けれどはっきりと嫌悪感を含めて話をした。
 それは書き込みの中にもあったことだが、はっきり否定する内容だった。スザクは、皇族である元第3皇女のユーフェミアの“お願い”により編入してきた名誉ブリタニア人であった。そのため、他の生徒たちから様々な苛めにあっていたのだ。それが止んだのは、ルルーシュの「スザクは俺の幼馴染の友人だ」との言葉があったからである。その言葉ゆえに、ミレイたちはスザクを生徒会に受け入れたのだ。ルルーシュの友人ということで、他の生徒たちの態度も、単に苛めが無くなっただけではなく、明らかに良い方向に変化した。にもかかわらず、それは彼がユーフェミアに騎士に任命されて以降、より顕著になったことであったが、ユーフェミアを崇拝し、女神の如く崇め、彼女の言うこと、行うことは何も間違っていない、彼女だけが自分を認めてくれた、というものであり、また、「ルールには従わなくてはならない。だからテロリストのゼロは間違っているんだ」で終わっていたというものであり、それは彼が生徒会室に顔を出すたびに行われていたことで、皆、いい加減にしてほしいと思っており、とはいえ皇女に関することでもあれば、そんなスザクに対して何かを言うこともできず、ただただ必死に聞き流していたということであった。かつ、皇女であったユーフェミアを、彼女にそう言われたからということだが、平然と「ユフィ」と呼んでいたということだった。
 ミレイもリヴァルも、怒りと悲しみを隠さなかった。
「スザク君がユーフェミアをどう思っていたか、それは彼の自由だから別にどうでもかまわない。でもそれを私たちにまで押し付けるようなことはしてほしくなかったし、それに、そちらのサイトの内容は私も見させていただいていますけど、本当にルルちゃんが書き込まれていたようなことが理由でこの学園に隠れ住んでいたのだとしたら、あんな政策だなんてとてもじゃないけど言えないい加減なものにルルちゃんたちが参加なんかできるはずがない! しかもスザク君はルルちゃんの出自を知っていたのでしょう!? なら、彼がそんな目立つようなこと、イレブンのための政策である行政特区に、ブリタニア人であるルルちゃんたちがどうして参加できるだなんて思うの!? 少しでも真面に考えれば、あの政策がいかに愚策か、そしてイレブンにとってもリスクしかないこと、すぐ分かるはずよ! それを何も考えずに、自分が崇拝するユーフェミアの言うことだからと、ルルちゃんたちに参加を呼びかけていたのよ! それにユーフェミアは確かにスザク君をお願いという命令で学園に編入させたけど、それだけだわ。彼が学園で無事に過ごすことができるようになったのは、ルルちゃんが彼を自分の友人だと皆の前で言ったからでしかないわ。なのに、ユーフェミアだけが自分を認めてくれた、だなんて、一体どの口が言うのっ!? ルルちゃんは何時だって彼が少しでも学園で過ごしやすいようにと心を砕いていたというのに、そしてルルちゃんの言葉があったから私たちは彼を受け入れたというのに、それを全く認めていない! 全てユーフェミアのおかげで、私たちが彼に対してしたきたことは何の意味もなかったってことじゃない!! 私はまだいいわ。でもルルっちゃんは……っ!! ルルちゃんや私たちがしたことは当然のことで、何の意味もなかったっとでも言うのっ!?
 それに、本人がそう呼ぶように言ったからって、本来なら騎士である以上、常に主である皇女の傍にいるべきなのに、それをせずに平然と学園に通い続けて、しかも騎士でありながら主を愛称で、しかも敬語なしで普通に話してたなんて、とても主従のあり方じゃない!! ただのおままごとの主従よ!! その上、あの皇女は学園祭であんなことをして、学園祭を台無しにしてくれたのよ!! イレブンのため、なんて言いながら、実際にはあの皇女の言うようなものができようはずがない! 無事に特区ができたとしても、それは特区にに入れなかったイレブンがそれまで以上の酷い扱い受けるようになるだけだわ。しかもそのためにブリタニア人を蔑ろにしたも同然なのよ! それの一体どこが副総督だというのっ!? 一体何処の国の皇族で、一体誰のお金で贅沢三昧の、彼女にしてみれば当然のものなんでしょうけど、生活をできると、何をしても許されると思ってたの!? だからあの皇女は“お飾り”と言われてたのよ! 何も知らない、為政者としての能力なんて欠片も持ち合わせていない、自分の考えだけが正しいと、周囲のことなど何も考えずにただ実行するだけ。いえ、その実行だって、口にするだけで自分ではロクに何の役目も果たしてなかった。
 そしてスザク君のことはユーフェミアの時だけのことじゃない。ブラック・リベリオンのあと、ゼロを捕縛したことで、私たちには詳しい経緯は分からないけど、とにかく皇帝のラウンズに取り立てられた。それは私たちには関係ないことだから別にかまわないけど、ラウンズになって、そして代理総督だったカラレスが黒の騎士団に、ゼロによって倒された後、新しい総督として赴任してきた第6皇女、サイトの書き込みが本当ならルルちゃんの本当の妹ということだけど、その補佐という立場にありながら、ユーフェミアの騎士だった時と同じように、この学園に通学してた。そう、復学してみたのよ! それも、私たちにはその認識はなかったけど、私たちの記憶をおかしくしておきながら! たとえそれをしたのが彼じゃなくても、少なくともその状況は知っていたはずよ!! なのに何も知らないように、何もしていないように平然と!! どうしてそんなことができるの!? 人としての神経を疑うわ!」
「……それだけじゃないです」それまで黙ってミレイの心からの叫びのような言葉を聴き続けていたリヴァルがその口を開いた。「これは、理事長と会長、そして俺しか知らないことですけど、エリア11、今の日本にあったアッシュフォード学園の施設を解体する時に分かったことですけど、ありえないものが見つかったんです。第2次トウキョウ決戦で、その時に使用されたフレイヤの関係で学園も被害は出てたけど、それでも中心地だった政庁からは離れてたんで、そんなに酷い状況ではなくて、むしろ被害者を助けるための救護所になってたんです。それはさておき、ルルーシュたちが暮らしていたクラブハウスを中心に学園内のいたる所から、隠しカメラや盗聴器が多数見つかったんです。クラブハウスには、あろうことかバスルームにまで設置されてました。そして学園の地下には、何かの司令室のような、幾つものスクリーンが設置された部屋まで作られていたんです。これって、これまでの話と状況判断からですけど、ルルーシュを監視するためのものとしか思えない。ましてや俺の記憶には無いけど、ルルーシュの本当の妹で、現在のブリタニアの代表であるナナリーだけが皇族に戻って、ルルーシュはそのあたりの記憶を変えられた状態で学園に戻されたってことでしょ。それにロロが使ってた部屋には何もなかった。つまりロロも、本当はルルーシュの監視役だったとも言えるんじゃないですか? そのあたりのこと、ラウンズだったスザクが知らないはずがない。むしろ、ルルーシュ監視の責任者の立場にあったんじゃないですか? だから総督補佐という立場にありながら、何も知らない顔で学園に復学してきた。俺たちを騙して。それにスザクやロロだけじゃない。今の日本代表の夫人、ブリタニア人で元軍人ってことですけど、彼女、ブラック・リベリオンの後、体育教師として学園にいたんですよ。ブラック・リベリオンの後、俺たち生徒会のメンバーを除けば教職員も含めて全員入れ替わっていることを考えれば、他にもそんな立場の人間がいたかもしれないってことですよ。そうなると、シャーリーの死亡原因だって怪しい。自殺ってことになってるけど、スザクがルルーシュをシャーリーの殺害犯人として調べるように指示してたって言うなら、もしかしたら、本当にシャーリーは殺されたのかもしれない。でも、絶対にルルーシュが犯人だなんてありえない。むしろ、その指示を出したスザクが、シャーリーが何かの弾みで本当の記憶を取り戻して、だから殺したって考えたほうが納得がいく。あくまで推測にすぎないけど。
 それと、スザクじゃなくてナナリー代表のことだけど、俺はこの国の代表とはとてもじゃないけど認められない。だってそうだろう? あの娘は、エリア11の総督だった時、トウキョウ租界でフレイヤが使用されて、3,500万以上の死傷者が出て、政庁を中心にして巨大なクレーターができた後、てっきり政庁の中にいて死亡したんだと思ってた。あんな後なのに、姿現さなくて、何の声明も発せられなかったんだから、皆そう思ってたはずだ。なのに実際には生きてた、宰相だったシュナイゼルに助けられて。でも総督でありながら、為政者として責任を持つべきエリア11に、トウキョウ租界に対して何もしなかった。俺たちを見捨てたんだ。
 っていうか、最初から問題大有りの総督就任だよ、あの幼女皇女は! 身体障害抱えてるからだろうけど、「自分には何もできない」ってそう言った。本人の意思だったそうだけど、なら総督になんかなるなって話だよ。でも、まだそこまでだったらいいよ。能力のある官僚とかいればどうにかなると思うから。それに躰のこと考えたら、どう見たって事実だし。っていっても、俺に言わせりゃ、いや、他の人だって思う人いたんじゃないかと思うけど、それでも本当にやる気があったんだったら、その能力があったんだったら、できることもあったと思うけどさ。でも、何もしなかった。ああ、イレブンのためになることは、スザクがいたおかげもあったろうけど、少しされたみたいだった。でも肝心のブリタニア人のためには何もしてくれなかった。けど、それはともかく、何もできないと、そう言ったばかりのその口で、僅か1年前に虐殺という事件で失敗した“行政特区”を再建するって、そして最初にその愚策を出したユーフェミアとまた同じように、ゼロと黒の騎士団に対して協力を呼びかけたんだ。たった1年前にあんな形で失敗したものを、何も考えることなく、そのまま同じ形で再建するって。それって、またイレブンを、日本人を優先して、ブリタニア人に重税を課すってことだろ!? それのどこが皆に優しい政策なんだよ! 誰のためにもなりゃしない! 本人の気持ちだけで、イレブンのことも、総督として一番に考えなきゃいけないブリタニア人のことも、誰のことも、何も考えてない! つまり何も分かってないってことじゃないか! それの一体どこがエリアの総督だって!? その上、今は国の代表!? 冗談じゃない! 国民を馬鹿にするなって話だよ!!
 それと、ペンドラゴンにフレイヤを投下したの、今はルルーシュだってことになってるけど、これ、絶対におかしい。だって、フレイヤを開発したのは、当時、帝国宰相だったシュナイゼルの持つ組織、インヴォーグ、っていったっけ、そこだろう? だから第2次トウキョウ決戦ではブリタニア側で使用された。で、ペンドラゴン投下時はというと、これまた、シュナイゼル側しか保有してないんだよ、普通に考えて。シュナイゼルは当時作成済みのフレイヤを持ったまま、行方を晦ました。その一方、フレイヤの作成情報に関しては、その開発の中心だったニーナが、トウキョウ租界での余りの悲惨な結果を前にして、全て消去したって、これは本人から聞いた。だからシュナイゼルが所有していたのとは別の、新しいフレイヤが作成されたとは思えない。不可能だ。だって、作成するための情報が一切無いことになってるんだから。
 それを考えれば、どうしたってルルーシュがペンドラゴンにフレイヤを投下するなんてこと、できっこないんだ。その時にはルルーシュの手元にはどう考えてもフレイヤは無かったはずなんだから。
 これは俺がルルーシュの悪友だから言ってるんじゃない。あいつの性格考えてもそう思うけどさ、状況から判断すると、どうしてもそうなるんだ。だから、ペンドラゴンにフレイヤを投下したのは、結果的に、シュナイゼルと、そのシュナイゼルに皇帝として担ぎ上げられたナナリーとしか考えられない」
 リヴァルの言葉を聞いていたミレイが再び口を開いた。





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