愚か者たち 【19】




 ルルーシュ率いるアヴァロンを旗艦としたブリタニア軍が、シュナイゼルが指定してきた地に到着した時、シュナイゼルらは“行政特区日本”の跡地上空に、すでに天空要塞ダモクレスを奥にして軍を展開させていた。その編成の中には、シュナイゼルの私兵はもちろん、超合集国連合から連絡があった、元黒の騎士団の艦艇やKMFも展開していた。あろうことか、黒の騎士団の旗艦たる“斑鳩”までがあった。先頭に配置されているのは、カレンが騎乗している紅蓮、そしてその両脇には藤堂の残月や、おそらく千葉のものであろう暁があった。
 それを見たルルーシュは拳を握り締め、椅子の肘掛けを一度強く叩き、小さく、しかし叫ぶように呟いた。「なんと愚かなことを。奴らは何も理解していないのかっ!」と。
 そしてその一方、シュナイゼルらが何かしらの罠をしかけている可能性も否定できず、ともかくも、間にフジを挟んでルルーシュは自軍を展開させた。
 その先頭にあるのはルルーシュの筆頭騎士たるフランツのKMFグリフレット、そしてその両脇には元ナイト・オブ・ラウンズのシックスであったアーニャのKMFモルドレッドとC.C.のKMFニヴィアン。少し離れてジェレミアのKGFサザーランド・ジークがあった。ちなみにフランツのグリフレットとC.C.のニヴィアンはランスロットの改良・発展系だが、ほとんどワンオフ機と言って差し支えないできとなっている。アーニャのモルドレッドも改良がなされ、形状はさほど変わっていないが、機能的にはすでにかつてのモルドレッドとは異なる。そしてまだ格納庫にあって現時点では出撃は見送られているが、改良なったルルーシュの愛機たる蜃気楼も、何時でも出撃できる態勢となっている。
 軍の展開が終えたのを見計らって、ルルーシュは一振りの剣を手にしてハッチから艦橋の外へとその姿を現した。それに従うのは、まだ完全に負傷が完治したとは言いいきれない咲世子だ。それでも、もともとのことを考えれば、すでに十分に、人並み以上の働きができるところまで回復していると咲世子は自負している。そして咲世子は、オープンチャンネルに繋がるマイクをルルーシュの膝辺りに捧げた。これからルルーシュが行う宣言を、戦場にいる全てのブリタニア兵に聞かせるために。
 ルルーシュは鞘から剣を抜くと、鞘を左手に持って下げ、剣を天空要塞ダモクレスにまっすぐに向けて言葉を放った。
「我がブリタニアの勇敢なる兵士たちよ! 逆賊となった元帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア、元第2皇女コーネリア・リ・ブリタニア、そして総督という地位にありながら守るべき民を見捨てたエリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニア! すでに諸君は承知していることであろうが、こともあろうに、彼らは大量破壊兵器フレイヤを自国の帝都たるペンドラゴンに向けて投下した。幸い開発なっていたシステムによってペンドラゴンの消滅は免れたが、もしそのシステムがなかったなら、億に達するペンドラゴンの民は皆一瞬のうちに、形すら残さずに虐殺され、以前の第2次トウキョウ決戦においてトウキョウ租界で利用された時のように、巨大なクレーターのみが残されていたことだろう。戦闘中の敵国にではない、本来守るべき自国の民に向けて、平然と悪魔の力ともいえるフレイヤを利用する者たちを決して許してはならない! これは我がブリタニアだけの問題ではない! もし万一にも我らが敗れるようなことがあれば、世界中が、フレイヤという恐怖の下に支配されることとなる。
 我らが祖国たるブリタニアはもちろん、世界の他の国々のためにも、我らは勝たねばならぬ! 平和な、よりよき明日、よりよき未来のために!! この戦いこそが、世界のこれから先の命運を賭けた決戦となる!
 我が兵士諸君! 何も恐れることはない! フレイヤは確かに恐ろしい兵器だ。しかし我らにはすでにそれに対抗できるシステムがある。それを信じよ! 誇りをもって戦いに望め! そして打ち砕くのだ、逆賊たちを、天空要塞ダモクレスを!」ルルーシュは右手に持った剣を高く掲げた。「── 未来は我が名と共にあり!!」
 ルルーシュのその演説に呼応するかのように、戦場に「オール・ハイル・ルルーシュ」の叫びが木霊する。
 その叫びを背に受けながら、ルルーシュは咲世子と共に艦橋内の指揮官席へと戻った。
 このルルーシュの演説によって、シュナイゼルは初めてフレイヤに対抗するシステムの存在を知った。しかしそれがどのようなものかまでは分からないこともあり、シュナイゼルは微笑を浮かべながら口にした。
「なるほど、フレイヤ用のシステムか、そんなものがすでにあったとはね。つまり、この前のペンドラゴンに向けたフレイヤが消失してしまったのはそのシステムが使われたため、ということか。しかし、そう常にうまくいくとは限らない。どこまでフレイヤに対抗できるものか、見せていただこうじゃないか」
 とはいえ、今はまだフレイヤを出す時ではないと、シュナイゼルはまずは合流してきた黒の騎士団のKMFを前面に押し立てて、ブリタニア軍と対することとした。
 そのKMFに対するは、もちろんフランツをはじめとした騎士たちと、それに従う兵士たちだ。その戦いの様を、ルルーシュはアヴァロンの指揮官席からじっと見つめていた。
「愚かなり、ナナリー・ヴィ・ブリタニア、そして黒の騎士団!」
 ふいに、オープンチャンネルによるフランツの声がアヴァロンの艦橋内に響いた。もちろんアヴァロン内だけではない、戦場の全てに、そして、更にはフランツからの依頼を受けて手配をしていたニュース・キャスターであるミレイによって、その声は全世界に生で、リアルタイムで流されている。とはいえ、そこまでの事実はさすがにその依頼をしたフランツと、それを受けて手配をしたミレイ、その手伝いの中で気付いたリヴァル以外には今はまだいないが。
「その声、フランツ!?」
 フランツの声に真っ先に反応したのは、紅蓮に騎乗する黒の騎士団のエースパイロットであるカレンだった。
「カレン、君には失望したよ」
「何を言ってるのよ、あなたはルルーシュに騙されてるのよ!」
「陛下が私を騙す? 異なことを言う」カレンに対してはまず一言だけそう返すと、相手を変えた。「まずはエリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアよ。おまえは母親を殺され、たった二人で人質として日本に送り込まれてから、必死におまえを慈しみ守ってきた兄の想いを裏切った。確かに陛下は、元から先帝シャルルらによって為された行為からブリタニアに対する憎しみがあり、ブリタニアをぶっ壊すとの思いをお持ちだった。しかし一学生の身では何をすることもできず、行動に移すことができずにいたが、とあることから力を得、そして陛下はおまえの“優しい世界になりますように”との願いが直接のきっかけで、ゼロとなってブリタニアに反逆の狼煙を上げたのに、おまえは何も気付かずにいた。すぐ傍にいたにもかかわらず。おまえは兄を愛していると言いながら、何も知ろうとしなかった、気付こうとしなかった、その兄の苦労を、想いを。ただ愛し守られ、兄からの必死な献身を受けているだけだった。与えられて、そう扱われて当然だとでも言うように。
 そしてエリア11の総督としても最低だ。就任演説で自分は何もできないと言いながら、何も考えず、何の検証もせぬままに、僅か1年程で、ーフェミアの唱えた“行政特区日本”を再建しようなどという愚か極まる政策を宣言し、それを実行しようとした。相談はもちろん、前触れも何もなしの突然のおまえのその宣言に振り回されることになる周囲の官僚たちの苦労も何も考えず。当然の如く失敗に終わったがな。
 それだけではない。矯正エリアだった当時のエリア11が衛星エリアになれたのも、エリア11から離れたゼロや黒の騎士団たちのこと、そして何よりも、必死に働いていた官僚たちのお蔭だというのに、そして総督としてまず一番に考えるべきは同胞たるブリタニア人のことであるにもかかわらず、おまえは当時のブリタニアの国是に反したことでありながら、ただイレブンに対して公平ではないというだけで、提示されたものをことごとく、代替案を示すこともなく、官僚たちが少しでもおまえの意に沿うようにと努力し、苦労して提示した政策をただつき返すだけだった。これのどこが為政者たる者のすべきことと言えるか!
 その上、最悪なことに、第2次トウキョウ決戦でフレイヤが投下された後、総督という、エリアにおいて最も責任ある立場にありながら、己自身は死を偽装して身を隠し、戦後の混乱を治めることもなく、守らねばならぬエリアの民を見捨てた!
 そして今また、シュナイゼルに言いくるめられるままに皇帝の名乗りを上げ、実兄である陛下に背き敵対している。
 陛下がこれまでおまえに対して為してきたことを全て無かったこととして、必死におまえを守り続けてきた兄を信じず、異母兄の欺瞞に満ちた言葉を信じる。そしてそのシュナイゼルの言葉のままに、幸いなことにすでに開発済みだったシステムのおかげで被害を免れることができたが、そのシステムがなかったら、自国の帝都をフレイヤという悪魔の兵器で消滅させ、億にのぼらんとする犠牲者を出すところだった。システムが完成していなかったら、おまえは歴史上最大の虐殺者だ! 結果的に未遂に終わったとはいえ、そんなことをしておきながら、さも自分が正しいと、己の為したことの意味も考えない。愚かもこれに極まる! 自国を、その民に対して平然と攻撃を行うことができる、そのような為政者を国民の一体誰が認めるというのか!?
 次に黒の騎士団、特に扇要をはじめとする日本人幹部たちよ。貴様らはそれまで戦っていた敵の大将ともいえるシュナイゼルの持ってきた、中途半端な真実を混ぜた偽りの言葉に惑わされ、日本を返せと言って、自分たちの、自国だけの利益に執着し、連合に加盟する他国を無視し、そしてそれまで自分たちを、先陣をきって率いてきたゼロを裏切り、殺そうとした。いや、殺した! だからゼロはいなくなった。陛下はゼロとしてあることができなくなり、だからこそ先帝シャルルを弑逆し、ブリタニアという大国の統治者として世界を変えていく道しか執ることができなくなった。
 そしてアッシュフォード学園における超合集国連合との会談では、一国の君主に対して、本来何の権限もないにもかかわらず、陛下を罵倒し、避難の言葉を浴びせ、そして我がブリタニアに国を割れなどと平然と内政干渉を行い、更にはゼロの親衛隊長を名乗っていた娘は、一度は先に自分が陛下がゼロであると知るや、見捨てた、つまり裏切った。そしてゼロとして復活した陛下が、その仮面を置こうとした時には、自分が陛下を修羅の道に戻したのに、そのことを忘れて殺そうとした。そして今また、シュナイゼルに利用されるままに、我がブリタニアの敵として目の前にある。大量破壊兵器フレイヤを持つ側に! つまりフレイヤの存在を容認して。何一つ真実を知ろうとせず、見極めようともせずに!」





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