ルルーシュが超合集国連合の臨時最高評議会に出席のためにアッシュフォード学園を訪れたことについては、実は今一つ、隠された目的があった。
それは、フレイヤを開発したニーナ・アインシュタインの保護であった。フレイヤの開発者として、今や各国がその頭脳を手に入れようとしているとの情報を掴んでいたためだ。そのニーナを保護しているのが、アッシュフォード学園、更に正確に言うなら、生徒会メンバーのリヴァルと、すでに卒業し、ニュース・キャスターとして名を馳せている、元生徒会長であるミレイであるということも掴んでいたルルーシュは、先にジェレミアに命じて、密かにシャルルがかけていた記憶改竄のギアスをキャンセラーしていたルーベンに命じ、自分たちが議場を去る前に、すでに密かに小型艇に三人を乗せていたのだ。ルルーシュが希望したのはニーナだけだったが、傍から離れようとしなかったリヴァルが必然的についてくることになり、また、ある思惑からリヴァルに連絡を入れていたフランツにより、ミレイも同乗していたのだ。
ニーナ以外に二人も同乗していることをルルーシュが知ったのは、シュナイゼルやナナリーとの通信の後だった。すでにアヴァロンは洋上にあり、この後のことを考えればアッシュフォードに戻れる状況でもなく、致し方なく、ルルーシュは三人を宮殿まで招きいれることとなった。
ペンドラゴンの宮殿に戻ったルルーシュは、まずジェレミアに、ミレイとリヴァルにかけられているシャルルの記憶改竄のギアスをキャンセラーさせた。取り戻した記憶に動揺しきりだった二人だったが、その二人にニーナを加えた三人に対して、他の誰も交えることなく、全ての真実を打ち明けた。
ルルーシュがゼロであったことを知ったニーナは、自分が敬愛してやまなかったユーフェミアを殺した者としてルルーシュに対する憎しみを捨てることはできなかった。しかしそうなった経緯も説明され、また、己のゼロに対する憎しみだけで生み出してしまったトウキョウ租界の犠牲、そして、防ぐことが叶ったために実際には起こらなかったが、それがもしなされていたならば、ペンドラゴンが消滅し、トウキョウ租界を遥かに上回る犠牲を出すことになったであろうことを思うと、己の考えの足りなさ、覚悟のなさに唇を噛み締め、ただルルーシュを責めるだけ、ということはできなかった。そこには、確かにユーフェミアの死のきっかけを与えたのは、ゼロが放った腹部への銃弾一発であったが、それは決して致命傷ではなく、死に至った直接的な原因がスザクの浅慮な行動によるものであったと、フランツから聞かされたこともあり、それもあって、尚、ゼロであったルルーシュのみを責め、憎しみの対象とするのは間違っているとの思いに至ったこともあげられる。
ミレイとリヴァルは、ルルーシュがゼロであったことには純粋に驚いていたが、それ以上に、ルルーシュがシャルルから、そして友人と、幼馴染の大切な親友と言っていたスザクから受けていた仕打ちに怒り心頭だった。しかも、スザクは自分たちに対してもシャルルの記憶改竄のギアスをかける手助けをした、いわば加害者といえる立場であったにもかかわらず、そんなことは知らぬげに、何食わぬ顔をしてアッシュフォード学園に戻り、ミレイたちに以前と変わらぬ態度を取り続けていたというのだから。聞かされた話から、二人は、スザクは自分がされたことには過ぎるほどに敏感だが、自分がしたことに対しては、無関心ともいえるほどに罪悪感の欠片もない、感じてもいなかったのだと思った。そして日本を取り戻すと言いながら、ルルーシュを売って得たラウンズという地位で、ブリタニアの先鋒として他国への侵略を続けていたこと、つまり自国である日本が戻るならば、他国がブリタニアに侵略されることに対し、ルールに従って命令されるままに行動することが正しいと思っていたのだろうと受け止めた。その為に多くの者を殺し、新たなナンバーズを生み出すことに良心の呵責を覚えていなかったのだろうと思った。スザクが言っていた内部からの改革など、シャルル時代のブリタニアでは到底無理な話であり、実際にスザクがとっていた行動からはそうとしか受け取れなかったからだ。
宮殿に戻ると、ルルーシュは主だった者たちを集め、直ちに対策会議を開いた。シュナイゼルが内密に私的に建造させていた天空要塞ダモクレスについては、実はすでにルルーシュがハッキングで相当の情報を得ていた。会議の内容は、その情報を元にした対ダモクレスであり、また、実用なったアンチ・フレイヤ・システムのことがメインとなった。
そして会議の結果、ルルーシュの命を受け、ラクシャータを含めた科学者たちは大忙しとなった。
ルルーシュはシュナイゼルと通信で話をした際、アンチ・フレイヤ・システムを開発したことは一言も告げていない。可能性としては考えているかもしれないが、それがどのようなものかまでは及びもつかないだろう。そうなれば、来たるべき戦闘に際して、シュナイゼルがフレイヤを持ち出してくる可能性は必然的と言えるだろう。そのことから、彼らはシステムをアヴァロンにも搭載、KMFの改良を含むメンテナンス、アンチ・フレイヤ・システムを応用した武器の搭載などの作業に追われた。武器としての搭載は、KGFであるジェレミアのサザーランド・ジークには無理があり取りやめられたが、当初ロイドが口にしていたフランツのKMF以外のものにも取り付けられることとなった。もちろん蜃気楼にもだ。ゆえに大忙しの状態となったのである。対フレイヤを抜きにしても、そのシステムの使い道は応用が効く。後は使い手次第、ということになるだろう。如何に使用するか、それはそれぞれのKMFの特性もあり、それなりに各KMFにあうように調整はされたが、最終的には個々人の判断に委ねられた。
「システムのアヴァロンへの搭載と使用に関しては問題ありません。各KMFについては、小型化することになったため、どれだけの力を発揮できるかは、テストができていないのであくまでコンピューター上のシミュレーションの結果でしかなく、実際のところは申し訳ありませんが、判断しかねます。ですが、ダモクレスに対して、全面的には無理でも、少しは効果を出すことが可能と判断しています」
疲れきった様子のロイドの言葉を聞きながら、ルルーシュは一つ確認した。
「それは、ダモクレスに設置されているブレイズルミナスに対して有効と考えてもよいのか?」
「はい。あれには、いくらブレイズルミナスでもどうしようもないと思いますよ。ある意味、それが一番の使い道だと思います。それとフレイヤが発射された時には、アヴァロンで対応します。各KMFに搭載したものでは、対応しきれない可能性がありますから」
そうしたロイドとの遣り取りから程なく、シュナイゼルから「エリア11の行政特区日本跡地で待っているよ」との通信が入った旨がルルーシュに伝えられた。
それを聞いたルルーシュが思ったのは、「また日本を戦場にするのか」だった。そしてシュナイゼルがその場を選んだのは、多分に扇たちを中心とする、元といっていいだろう、黒の騎士団の存在によるところが大きいのだろう。超合集国連合最高評議会は、神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュに対して、評議会議長皇神楽耶、並びに黒の騎士団の、日本侵攻の際のトウキョウ方面軍を中心とした幹部たちの更迭を申し伝えてきていた。おそらく、その更迭された彼らが同じ日本人たちを促し、武器を奪ってシュナイゼルらと合流したものと考えられた。実際、後追いで、超合集国連合の暫定議長から、更迭した幹部たちが、主に日本人を中心とした団員たちと共に黒の騎士団の装備を奪って逃亡したことが伝えられてきた。その彼らと自分たち超合集国連合はすでに無関係である、との表明と共に。つまり、扇たちは超合集国連合から切り捨てられたのだ。そのことを彼らがどこまで自覚し、それが何を意味するかを理解しているかは不明だが。
突貫工事ともいえる状況ではあったが、準備を整え終えたブリタニア軍は、ルルーシュが乗っているアヴァロンを旗艦としてブリタニアを発し、エリア日本へ、更には“行政特区日本”の跡地へと向かって出発した。戦場を決めたのはシュナイゼルであり、その点ですでに後手に回ってしまっていることは事実であり、いまさらどうしようもないことではあるが、ともかくも向かうしかない、として出発したのだった。そしてアヴァロンにはニーナも乗っている。それはニーナ自らが望んだことである。もしこれからの戦いでフレイヤが使用されるようなら、アンチ・フレイヤ・システムには自分はタッチしていないが、フレイヤの開発者として見届ける義務があると思うから、とのことからだった。そしてルルーシュはその言葉を受け入れ、ニーナの乗艦を許可したのである。
ちなみに、ニュース・キャスターであるミレイは、フランツからの要請を受けて、リヴァルと共に1日早く出発している。今頃はすでに日本に着いて、フランツからの依頼を果たすべく、その用意に奔走していることだろう。おそらくはリヴァルを使いながら。ただし、その内容についてはルルーシュだけではなく、他の誰にも知らされておらず、知っているのはフランツとミレイの二人のみ、あとはリヴァルがどこまで気付くか、であるが。
程なく、ブリタニアの第99代皇帝位と大量破壊兵器フレイヤを巡っての戦いが始まろうとしている。
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