愚か者たち 【15】




 そうしてルルーシュは続ける。
「現在、職務を放棄して所在不明となっているシュナイゼルですが、黒の騎士団との停戦について、正式な書面はまだ交わしていないが、停戦の合意はなった、との報告は入っておりました。このことから、現在、停戦状態にあるということは認めております。しかしながら、エリアの解放に関しては一切何の報告もありませんでしてし、ましてやそれを証明する正式な文書がない以上、国際法上からしてもエリアの解放はなされていない、つまりエリア11、現在はエリア日本ですが、未だ我が国の植民地(エリア)であり、解放はなされていないことになります。このことは、国際法をご存知の方であれば十分にご理解、ご納得いただけるものと思いますが」
 そう告げてルルーシュは評議員たちを一通り見回したが、その言葉に反意を示す者、否を唱える者は一人としていなかった。ただ、議長の神楽耶と未だスクリーンに映っている斑鳩の幹部たちが、返す言葉はないものの、納得いかないと顔を歪めている。
「ついては、現在まだこちらに留まっている黒の騎士団には早々に退去願いたい。とはいえ、今すぐに、1日で、というのは酷でしょう。とはいえ、やはりあまり余裕を差し上げる気もありません。そもそも未だに留まられていること自体、停戦合意はなっているとはいえ、認められることではありませんから。ですから、これから48時間の猶予を差し上げます。それまでに即座にこのエリアから退去をなさってください。それを過ぎてもまだ留まられている場合は、停戦の合意は破棄されたものとして、我が軍は戦闘を再開することになるでしょう。また、フレイヤの被災者に対する我が国からの救援に対する黒の騎士団の妨害行為ですが、これが続くようであれば、たとえ先程申し上げた48時間以内であっても、これもまた停戦合意の破棄として、その行為を我が国に対する宣戦布告として、戦闘を再開させていただきます。
 念のために申し上げておきますが、確かにトウキョウ租界に駐留していた軍は行動不能に近い状態にはありますが、このエリアにはまだ十分に軍はありますし、公海上に控えさせている軍を即座にこのエリアに向けて行動させることも可能です。
 それらを承知の上で、黒の騎士団がこのエリアから去ることもなく、フレイヤ被災者に対する我が国の救援行動に対する妨害行動を続けた場合どうなるか、よくお考えになられることです。時間内に退去され、被災者に対する救援行動に対する妨害行為もなければ、停戦合意だけは継続と致しましょう。
 それでは、評議員の皆様にはお忙しい中、わざわざお時間を割いていただきながらこのような結果になりましたこと、大変申し訳なく思いますが、これまでの状況からご理解いただけるものと思います。今後につきましては、本日のことから、あえて我が国はこちら、超合集国連合と関係を持つ意思はございません。少なくとも、そちらから我が国に対して何らかの行動を起こされない限りは。ですが、何かなされた場合は、その内容に応じて対処させていただくことになります」
 評議員たちを再び見回すと、「それでは本日はこれにて失礼させていただきます」と、そう告げて、ルルーシュは身を翻した。
「C.C.、帰るぞ。とんだ時間の無駄になった」
「そうだな」
 一度発言して以来、また沈黙を守っていたC.C.だったが、ルルーシュの言葉に一言そう返して頷いた。
 そして二人が議場を出ようと一歩を踏み出した時、いきなり天井がバリバリと大きな音を立てて崩れ、構築していた資材がバラバラと落ちてきた。その後、空いた天井から見える青空の中に浮かぶのは、黒の騎士団のKMF紅蓮の姿だった。
『ルルーシュ! あんたが何を考えてるのか分からないけど、絶対に認められないことだけは分かってるから、だからあんたのやろうとしていることは私が止める! あんたの命は私がもらう!』
 周囲に響いた紅蓮のデヴァイサーであるカレンのその声に、まずルルーシュは大きな溜息を吐いた。カレンは何も理解していないのだと、改めて呆れを込めて。それはC.C.も同様だった。
 そして議場の外に控えていたアーニャも、その状況を受けて、警備に当たっている黒の騎士団の団員たちの彼女を制止しようとする行動を振り切って、議場の中へ、主たるルルーシュの元へと駆けつけ、ルルーシュを守るようにその前に立ちはだかった。KMF相手に生身では何もできないと、それでも少しでもルルーシュの盾となり、彼を逃がすための時間を作ることができればと、それを全て承知の上で。
「君は一体何をしている! 自分が何を言っているか、その行動が何を意味するか理解しているのか!?」
 評議員の一人がそう怒鳴りつける。それを受けて他の者がまた発言をした。
「黎星刻総司令! 即刻そのKMFを下がらせたまえ! 皇議長はどうか知らないが、我々は君たちの行動を認めることは決してない!」
 それらの言葉に、次々に評議員たちがそれに同意するような発言を行い、カレンは勢い込んで紅蓮で飛び出してはきたものの、議員たちの発言に、この後の行動をどうしたらいいのか、戸惑い、神楽耶を見、そしてその背後に映し出されている斑鳩の艦橋にいる幹部たちを見た。
「……紅月君、下がりたまえ」
「星刻!!」
 星刻の言葉に、それを責めるように扇がその名を呼んだ。
『ですがこのままでは……』
 議場でのそんな遣り取りの中、黒の騎士団のKMF紅蓮が飛び出してきた時点で、公海上にあったブリタニアの旗艦であるアヴァロンから1機のKMFが発進していた。
 そのKMFが最高速で飛来し、紅蓮の背後に至った。そのKMFは、黒の騎士団にとっては仇敵、最大の敵といえる、彼らが白兜と呼んでいた枢木スザクがデヴァイサーだったランスロットに酷似していたが、その色合いから、スザクのものとは別の物だとカレンは判断し、そのKMFに向きを変えて対峙した。
『これ以上の陛下に対する無礼な行動を許すことはできない。陛下の言葉を受けた後の行動であれば、これはすなわち、超合集国連合から我が国に対する宣戦布告と受け取るが、それでよろしいか!?』
『……その声、フランツ……?』
 突如飛来したブリタニアのKMFから発せられた声に、評議員たちが次々と、そんなことはない、これは黒の騎士団の独断専行に過ぎず、我々はブリタニアと敵対するような意思はない、そう必死になって告げる。
 そしてまた、やってきたKMFに、ルルーシュの筆頭騎士であるフランツの登場に、アーニャは小さく、だが確かな安堵の息を吐き出した。とはいえ、いまだ緊張感を満たしたまま、決して油断するようなことはしていないが。
『だがこのKMFだけではない。学園内のそちこちに汎用型だが、何体ものKMFが配置されているのが確認されたが。その上、この学園の理事長から報告を受けている。確かにこの場を貸し出すことは認めたが、それ以外のことは認めていないと。しかるに、この』剣を構えた右腕ではなく、左腕で紅蓮を示し『紅蓮といったか、このKMFが潜んでいたのは、前々からこの学園内にあった、以前はアッシュフォード家が開発した第3世代KMFガニメデを保存しておくために備えられていた格納庫。更には、理事著が事前に気付いて昨夜のうちにその機能を破壊したとのことだが、陛下を閉じ込めるためであろう檻が用意されていたとのこと。それでもそう言いきられるか!?』
「なっ!?」
 KMFからの指摘の声に、評議員たちから驚きの声が上がる。そしてそのようなことは承知していない、何も知らなかった、知っていれば止めさせていた、議長と黒の騎士団の独断だ、と評議員たちは誰しもがそう声を発し続ける。
 もはや評議員たちからは、議長である神楽耶の存在は無視され、黒の騎士団は否定されているといっていい状態だった。彼らの言動は決して許されるものではなく、ましてや皇議長はともかく、誰も認めていないのだと。
 終わったな、とルルーシュは思った。超合集国連合はこれで終わりだと。最悪は解散。最低でも議長の交代は必然だろうと。そして黒の騎士団に対しては、幹部たちの更迭、メンバーの一新が図られるか、もし連合が解散するなら、各国から黒の騎士団に派遣されている軍人たちは一斉に引き上げることになり、残るのは元々の団員たちである日本人のみ── それとて本日のこの議場でのことを受けて、全ての者が残るとは限らない── であり、そうなれば元のテロリストに戻るだけだ。それでなくても、とうにラクシャータは部下たちと共に黒の騎士団を去っており、そこまでは把握していないかもしれないが、現在の彼女はルルーシュの元に、つまりブリタニアにいるのだ。仮に戦闘再開となった時、損傷したKMFを完全に修理修復できる可能性は低くなっている。ラクシャータ開発のワンオフ機である紅蓮はなおさらだ。そしてそのことにカレンが気付いているか、それもまた不明であるが。なにせ停戦合意がなって以降、紅蓮は今まで動いておらず、単なる日常的なメンテナンスならばラクシャータ不在であっても問題はなかった。つまり、第2次トウキョウ決戦の停戦合意直後以来、紅蓮にラクシャータの手が入ることはなかったのだから。そしてそれは、元々の開発者がラクシャータである星刻の神虎にも同様のことが言える。
「……同じ事を繰り返させるな。紅月君、下がりたまえ」
 評議員たちからの言葉を受けて、星刻はカレンに向けて先刻と同様の言葉を告げる。
「星刻、それでは……!!」
「星刻、そのようなことをしたら……」
 扇と藤堂が星刻の言葉を批難するように声をかけるが、星刻は引かなかった。
「私はこの黒の騎士団の総司令だ。総司令として紅月君に命じている。それとも、君たちは総司令である私よりも立場が上だとでも言うのか? 紅月君も、私の指示に従わないというなら、そう思っているということだな?」
 星刻のその言葉に、カレンは渋々といった感じで紅蓮を下がらせた。それを見て、フランツは天井のあいた箇所から議場内に入り、自分のKMFをルルーシュの傍に着陸させると、その両手にルルーシュたちを乗せてゆっくりとその場を離れていった。





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