「あなたの狙いは一体なんなのですか? 悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!?」
その神楽耶の言葉に、ルルーシュは今度はあからさまにはっきりと溜息を吐いた。
「狙い、ですか。それは先程申し上げたことですよ。それに“悪逆”とはまた異なことを。あなたがたにとっても今のブリタニアはよい国ではありませんか? 確かにまだ完全に、とまではいっておりませんが」
「確かに、今、に限って言えばそう言ってよろしいでしょうね。ですがこの先、あなたは何をされるおつもりか!? 黒の騎士団から日本は解放されたと聞いております。なのにあなたは未だに自国の領土のように仰っている。それの何処が信用できますか!?」
ルルーシュの傍らでそれまで黙って事の成り行きを見守っていたC.C.が、遂にもう耐えられない、というように、くつくつと笑い出した。しかもその笑い声は少しずつ大きくはっきりとしたものになっていく。
「そなた、その態度は何です!? 私たちを愚弄するつもりですか!?」
「いや、すまんな。おまえの馬鹿さ、愚かさ加減が嘲笑えてしかたなくてな」
「なんですってっ!?」
そういきり立った神楽耶は柳眉をしかめ、その顔は怒りで紅潮している。
「だってそうだろう? シュナイゼルはあくまで宰相であって皇帝ではない。植民地たるエリアの解放に関する権限を持っているのは皇帝のみだ。仮に、宰相が皇帝の命を受けてその代理としてそれを行ったとしたらそれは認められるが、その場合、れっきとした正式な外交文書があるはず。だがおまえたちはそれを何一つ提示できてきない。ただ叫んでいるだけだ。ましてやあの頃のシャルルにとっては、日本国内のある島が目的だったのだから日本の解放などありえない。するはずがない。おまえは何も知らず、ただ黒の騎士団の日本人幹部たちからの、自分たちに都合のいい身勝手な報告だけを信じている。そしてその日本解放にしたところで、幹部たちは、斑鳩を訪れた、それまで戦っていた敵の大将であるシュナイゼルの言葉だけを信じ、日本だけの解放を要求して、その見返りとしてゼロを殺した。シュナイゼルに求められるままにな。口約束のみで他には何も示されていないというのに。愚かなことだ。国家間の外交というもののなんたるかを全く知ることなく、そしてその口約束だけで事はなったとして、それで要求は受け入れられたと、そう思い込んで日本は解放されたと叫んでいるに過ぎないというのに」
「一体何を……っ!」
言い返そうとした神楽耶の言葉を、代表の一人が遮った。
「何だって、黒の騎士団がゼロを殺した!?」
それをきっかけに、次々と代表たちが思わず席から立ち上がり、C.C.に向かって問いただしていく。
「本当なのか、しかも日本解放だけのため、とは!?」
「そんな馬鹿な!!」
「日本奪還はきっかけであり、最終的な我々の目的は全てのエリアの解放にあるというのに、黒の騎士団の連中はそれを理解していなかったというのか!?」
「ゼロあってこその黒の騎士団であり、そしてこの超合集国連合とて、ゼロという存在があればこそ起ち上げることができた組織だというのに!」
「ゼロがいたからこそ、望みを託せると連合に参加したというのに……」
「国民たちになんと説明したらいいのか……」
代表たちの言葉は、次第に怒りや嘆きなどを込めたものへと変わっていった。
「ゼロは俺たちを騙してたんだ。俺たちを駒として、ゲームとして楽しんでいたんだ!!」
突然議場内に響いたのは、黒の騎士団事務総長の扇要の声だった。見れば、神楽耶の後ろに設置されている、先程までは何も映し出されていなかった大きなスクリーンに、今は斑鳩の艦橋が映し出され、総司令の地位にある星刻を中心に、日本人の幹部たちが並んでいる。前面に出ているのは、星刻の他には、扇と、統合幕僚長たる藤堂の三人である。
「扇、今はそのことは……。それよりも……」
藤堂が扇の方に手を置いてそれ以上のゼロに関する発言を止める。これ以上続けさせれば、黒の騎士団がゼロを殺したこと── 実際には逃亡されて、以後、ルルーシュがゼロとして何もできないようにとの思惑から死亡したと公表したに過ぎないのだが── を、直接ではなくとも、そう受け取られかねない話をするのはまずい、連合評議会の議員たる各国の代表たちに、自分たちがゼロに対してしたことを知られてはまずいとの判断からそうしたのだが、すでに、かつて常にゼロの傍らにいたC.C.の発言、そして無用な、たった今放たれた扇の言葉に、代表たちのほとんどは、黒の騎士団の日本人幹部たちがゼロを暗殺したのだとの確信を持ってしまっていた。
しかしそこまで気付くこともできないまま、話題を変えようと星刻が口を開いた。
「今回の第一の議題である貴国ブリタニアの連合加盟の件だが、超合集国の決議は多数決によって決まる」
「この投票権は各国の人口に比例している」
「中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を誇る国家は……」
「ブリタニアだ」
「ここでブリタニアが超合集国に加盟すれば」
「過半数の票を、ルルーシュ皇帝、あなたが持つことになる」
「つまり超合集国は事実上、あなたに乗っ取られてしまうことになるのではないのか?」
「どうなんだ! ルルーシュ皇帝!?」
「違うというのなら、この場でブリタニアという国を割るか、さもなくば投票権を人口比率の20%まで下げていただきたいものですね」
次々とメインの三人が入れ替わり立ち代わりルルーシュに投げかける言葉。それらを聞いて、いや、聞かされて、ルルーシュは内心で侮蔑に近い苦笑をしていた。あくまで内心で、であって、表面には出してはいなかったが、正直、ルルーシュとしては大笑いしたいとも思ってしまっている。それをどうにか抑えて、三人に向けて問いかけた。
「黎星刻総司令、藤堂統合幕僚長、扇事務総長。あなたがたは確か黒の騎士団のトップ3といえる立場だったと記憶していますが、何の所以をもってこの会談に、通信とはいえ発言をされました?」
その問いに明らかな疑問を抱きながら、星刻は答えた。何故そのような問いかけをされるのか、何か問題があるのか、とでもいうように。
「超合集国連合にとっては大事なことだ。ならばあなたの真意を確かめることは重要なことだろう」
「真意を確かめる? その割には国を割れだの投票権を20%に抑えろだのと、随分と具体的な提案をされていましたね? それらは明らかに我が国に対する内政干渉であり、あなたがたにそんなことを発言する権利など無いこと、ご存知ではないと?
そして、あなたがたが問題にしているであろう、我がブリタニアがこの連合に加盟した場合のことは、確かにあなたがたが懸念されることは事実と申し上げてもいいことと言えるでしょう。ですがそれ以前に、あなたの仰る「真意を確かめる」ということに関してであれば、それを行うのはこの最高評議会がその場であり、その最高評議会に参加できるのは各国代表たる評議会議員のみ。つまりあなたがたは最高評議会の決定に従う外部機関であるに過ぎず、参加資格は端から無く、ましてや一方的な、しかも先にも申しましたが、明らかに内政干渉と取れる要求を突きつけて他国と、今に限って言うならば我がブリタニアに対してということになりますが、交渉する権限など欠片たりとも無いのですよ?
そのこと、ご理解されてはいらっしゃらないのですか?」
そしてルルーシュはその視線をスクリーンから、その前に座す議長の神楽耶に移した。
「皇議長、一つお尋ねしたいのですが、あなたにとって、世界を統べる資格とは一体なんですか?」
突然のルルーシュからの問いに、神楽耶は一瞬瞳を瞬いたが、それでもはっきりと己の思い、信念を、自信をもって告げる。
「矜持です。人が人を統べるには……」
「成程、矜持、ですか。ですが、あなたの言動はそれとは明らかに不一致だとしか私には思えないのですが。あなたの言動の一体何処に、あなたの仰る矜持があるというのです?」
「なっ!? 私は……!」
神楽耶の言葉を最後まで聞くことなく、ルルーシュは言葉を続けた。
「黒の騎士団の彼らの言っていること、つまり投票権に関して人口比率が問題となり、超合集国連合がブリタニアに乗っ取られる恐れがある。その懸念は理解できます。ならばそれを理由に、ブリタニアの加盟を認めなければ良いだけのことではないですか? そしてそれを決めるのは最高評議会であり、最高評議会の3分の1以上の反対があれば、苦もなくブリタニアの加盟を跳ね除けられます。そうなれば私はその決定を尊重して加盟を諦め、超合集国連合とはそれなりの距離を置くだけで済んだでしょう。何故そうせずに、最高評議会がすべき意志決定の場に黒の騎士団を介入させるのですか? 皇議長、あなたは最高評議会議長という要職にありながら、他の評議会議員たちを蔑ろにしすぎてはいませんか? そしてその始まりの関係から、多くの日本人を擁するといって差し支えないだろう黒の騎士団ばかりを頼みとし、ひいてはその軍事力を背景に他国を威圧しているように見えるのですが、それは私の考えすぎ、穿ちすぎでしょうか?」
「私はそんなつもりは……」
自分にはそんな考えはない、そんなつもりはないと反論しかけた神楽耶だったが、ルルーシュはその言葉を遮った。
「もう結構です。我が国の超合集国連合への加盟申請は取り下げます。これまでの遣り取り、議長や黒の騎士団のトップたる方々の言動から、我が国がこの連合に加盟する意味、必要はないと、十分に理解致しましたから。
ですが、もう一つの件について、宣言させていただきます」
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