愚か者たち 【9】




 ラウンズたちの問題を片付けたルルーシュは、その日のうちに執務室にロイドとセシルを呼び出した。
「ロイド」
 入ってきた二人に、ルルーシュはそのうちの一人の名を呼ぶと、とある物を放り投げた。
「おおっとぉ」
 危なげなくそれを受け止めたロイドは、手にしたものをひっくり返しながら、ルルーシュに問いかけた。
「これ、なんですかぁ、陛下?」
「おまえたちにはフレイヤ対策を考案してもらいたい。そのディスクには、俺の考えたことを入れてある。まあ、所詮は素人の考えたものだから何処まで参考になるかは分からないがな」
「素人って、ホントに素人だったら、命令するだけで自らそんなこと考えたりしませんよぉ」
 ロイドはルルーシュから投げ渡されたディスクを大事そうに胸元にしまいながら告げた。
「俺は、超合集国連合にブリタニア参加の意向を伝える。そうなれば、何処かで最高評議会開催となり、俺は国を離れてそれに出席することになるだろう。その時が一番危うい」
「危うい、と申されますと?」
 ロイドの脇に控えていたセシルが口を開いた。
「シュナイゼルだ。俺の留守を狙って、今、行方を晦ましているシュナイゼルがこの帝都にフレイヤを撃ちこんでくる可能性が高いと、俺は見ている」
「「!!」」
 ルルーシュの言葉に、ロイドとセシルは息を呑んだ。
「まあ、確かにシュナイゼル殿下でしたら、そのくらいやりそうではありますねぇ」
 ロイドはシュナイゼルとは昔からの長い付き合いであるだけに、ルルーシュの読みはあながち外れてはいないだろうと考えることができる。
「最高評議会が何時になるか分からないから、どのくらいの時間があるのか読み切れない。俺の蜃気楼もだが、フランツたちのKMFに対しての、高性能化のための改造を含めたメンテナンスを行いながら、フレイヤ対策にあたってもらうことになるから、おまえたち科学技術班に対してはより忙しくさせることになって申し訳ないが、他にいないのでな。使えるものは何を使ってくれても一向に構わない。誰かに何か言われたら、俺の命令で許可を受けていると言えばよいし、足りないものがあったら何でも言ってくれ、すぐに用意させるようにする。時間との勝負になるが、よろしく頼む」
「分っかりましたぁ」
「畏まりました、陛下。力の及ぶ限り、フレイヤ対策に当たらせていただきます」
 ロイドとセシルの二人が首肯して執務室を出ていくと、ルルーシュは一息ついてから、執務机の上にあるPCを起ち上げ、超合集国連合最高評議会議長である皇神楽耶宛に、神聖ブリタニア帝国皇帝として、自国ブリタニアが超合集国連合に参加したい意向である旨の書状を打ち込み始めた。そして打ち終わり出力した用紙に記載された内容を、念を入れて二度確認すると、最後に自筆でサインを入れた。そしてブリタニアの紋章のあしらわれた封筒にそれを入れてしっかり封蝋で閉じる。
「フランツ、明日でよい、これを出しておいてくれ」
 少しでも時間を稼ぐために、ルルーシュはあえて「明日」と告げた。
「イエス、ユア・マジェスティ」
 ルルーシュの後ろに控えていたフランツは、ルルーシュが差し出すその封書を丁寧に受け取ると、大切そうに懐に仕舞いこんだ。
「最高評議会開催まで、少しでも時間があればいいんだがな」
「あちらも即答はできないでしょうし、場所の準備もあるでしょうから、多少は時間があると思いますよ」
 フランツの言葉には、超合集国連合とその外部機関である黒の騎士団に対しての嫌味が含まれている。ルルーシュを招いての最高評議会開催となったら、必ずや何らかの仕掛けをしてくるはず、そのための時間がかかるだろうとの。そしてルルーシュは、フランツが声に出さなかったそれを正確に読み取り、頷いた。
「それまでに間に合えばよいのだがな」
 そう言って、ルルーシュは椅子の背もたれに己の背を預け、何かを考えるように瞳を閉じた。



 超合集国連合最高評議会議長たる皇神楽耶から、ルルーシュに返信が届いたのはそれから10日程してからだった。それを受けて、主だった重臣たちがルルーシュの執務室に集められた。
「ちょうど二週間後、だな。しかしそれにしても、場所がトウキョウ租界のアッシュフォード学園、というのは……」
「エリア11は、今は半ば中立地帯のような状態ですからね。国際法上は、まだエリアから解放されていませんから、あくまでブリタニアの植民地ですが」
「両陣営が集まる場所としては、まあ、無難な所、といったところでしょうねぇ。それにアッシュフォード学園なら、第2次トウキョウ決戦で使用されたフレイヤの被害、全く無かったとは言えませんが、それでも随分とましで、それなりの施設もありますから」
「いずれにしても決まったことだ。ロイド、セシル、おまえたちはフレイヤ対策を第一に考えてくれ」
「畏まりました」
「はい。にしても陛下ぁ」
「なんだ、ロイド?」
「あれ、どっからあんな発想されたんですかぁ?」
「学園にいた頃に読んだSF小説に出てきたものを思い出して、それを何とか実用化できないかと考察してみたんだが。やっぱり無理だったか?」
「いいえぇ、あれで進めてます。むしろ陛下が考えてくださった理論が元としてあったので、思ったより早くなんとかなりそうですよぉ」
「本当にそうですわ。陛下、学者としても十分にやっていくことがおできになりますわよ」
「ついでに、あれを応用してシュレーダー卿のKMFに武器として何か装備できないかと考案中だったりしてます」
「それは、褒められてると思っていいのかな……」
「もちろんお誉めしてるんですよぉ」
「そ、そうか」
 ロイドやセシルから次々と発せられる言葉に、ルルーシュは幾分頬を染めて俯いた。「誉めいている」などと今まではっきりと口にされたことなどなかったから、そのような状況に慣れていないのだ。
「それで陛下、当日の配置についてですが、如何致しますか?」
 ジェレミアの問いかけに、ルルーシュは顔を引き締めて皆を見回した。
「まず、出発前まではロイドとセシルは、先程も言ったようにフレイヤ対策を第一に。その状況次第で、当日、セシルにはアヴァロンにオペレーターとして乗ってもらうことになるかもしれない。ロイドとジェレミアはペンドラゴンで待機、事が起きたらおまえたちの判断で対処を。だからロイド、それまでになんとかフレイヤ対策を仕上げてくれ。ジェレミアはダモクレスとフレイヤに対する警戒を。フレイヤ対策はロイドに任せろ。ダモクレスについては今はまだ無視していい。しかしフレイヤ以外の他の敵機が襲来した場合は、おまえが指揮を執って帝都を、臣民たちを守るように」
「畏まりました」
「フランツはアヴァロンで待機、何かあったら何時でも出撃できるように。アーニャは私と共にアッシュフォード学園へ。最高評議会は武官の立ち入りを禁じているが、我が国はまだ加盟したわけではない。議場前、少なくとも、建物前までは警護としてついてきても大丈夫だろう。そこまでは文句は言わせない。これには」神楽耶からの書状を皆に見せるようにして「“会場となるアッシュフォード学園へのKMFの立ち入り、及び、議場への武官の立ち入りは禁止”、としか書かれていないからな」
「「イエス、ユア・マジェスティ」」
 フランツとアーニャが声を揃えるようにして答える。
「で、C.C.、おまえはどうする? アヴァロンで待機か、それとも、共に議場まで来るか。おまえなら武官ではないから中まで同伴しても問題ないと思うが」
 問われたC.C.は首を傾げて数瞬考えるようにしていたが、にやりと人の悪い笑みを浮かべて答えた。
「ならば、魔女として魔王と共に議場内まで。多分、黒の騎士団の幹部連中も何らかの形で接触してくるだろう。久しぶりにあの間抜け面共の顔を見るのも楽しそうだ」
「そうか。ではこれで決まりだ。後はとにかく、ロイド、セシル、おまえたちの進捗状況次第だ」
「畏まりました」
「はぁい、陛下。しっかりやらせていただきますです」
「では、散会」
 ルルーシュのその言葉に、騎士であるフランツ一人がルルーシュの元に残り、他の者はそれぞれの持ち場に戻っていった。来たるべきその時に備えて。





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