愚か者たち 【8】




 アヴァロンとジェレミア率いるKMF部隊は、向かってくる先帝シャルルのラウンズたちに対し、真っ直ぐに向かっていた。その中で、ルルーシュはジェレミアに通信を入れた。
「ジェレミア、もし少しでも隙ができたら、モルドレッドに、アーニャ・アールストレイムにキャンセラーをかけろ。彼女には俺の両親、シャルルとマリアンヌ二人のギアスがかかっている。うまくいけばこちらに取り込めるかもしれない。だが無理をしてまですることはない。あくまで可能な状況であればのことでよい」
「イエス、ユア・マジェスティ」
 ジェレミアはルルーシュの指示に諾と応えた。ルルーシュの言う通りなら、こちら側に取り込むことは無理でも、少なくとも動揺を与えることは十分に可能だろう。ならばなんとしてもモルドレッドに、それに騎乗するアーニャにキャンセラーをかけてみせようと、無理をする必要はないと言われながらもジェレミアは決意した。
 やがてラウンズたちの機体がスクリーンを通して視界に入ってきた。ほどなく通信も可能になり、戦闘可能な距離になるだろう。そう思っているうちに、通信可能な距離にまで縮まり、先頭にいるナイト・オブ・ワンであるビスマルク・ヴァルトシュタインからオープンチャンネルで通信が入った。
『簒奪者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア! 我らはシャルル陛下に忠誠を誓ったラウンズ。我らの忠義にかけて、貴様の存在を許すわけにはいかぬ。その命、貰い受ける!』
 ヴァルトシュタインのその言葉は、騎士としては当然の言葉であり、今はルルーシュの元を去ったスザクに比べれば、遥かに騎士として相応しい有り様ではある。だが、とルルーシュは思う。その忠義の対象であったシャルルは、果たして彼らの忠義を受けるに相応しい主であったのだろうかと。
 ルルーシュもオープンチャンネルを開いてそれに応じた。
「成程。確かに騎士としてのそなたたちの立場を考えれば、その行動は正しいと言えるだろう。だが、果たして肝心の先帝シャルルは、そなたたちの忠義を受けるに相応しい存在だったと言えるのだろうか。己が本来果たすべき政を俗事と言い放ち、己の下らぬ、人としての範疇を超える望みを叶えることのみを考え、そのために多くの国々を征服し植民地としていき、そこに生きる人々をナンバーズと呼び、弱肉強食を謳って彼らを人間扱いすることすらなかった。己の余りにも身勝手な望みしか頭になく、他を顧みることはしなかった。そのような男に、本当にそなたらの忠義を受け、そして一国の君主たる資格があったと言えるのだろうか」
 それはルルーシュからラウンズたちに向けての、一種のゆさぶりとも言えた。ヴァルトシュタインは無理だろう。彼は全てを知る、シャルルの同志だ。しかし、他の者たちがどこまで知っているか、それによっては今のルルーシュの言葉によって動揺を与えることができるかもしれないと思う。とはいえ、騎士たる立場を考えれば、それは限りなく低い可能性ではあったが。
『貴様、何を! 皇帝陛下はこのブリタニアにおいては絶対の存在! それを……』
「その絶対の存在たる皇帝が、己の果たすべき役割を放棄して政を俗事と言い切る! その行動のどこが皇帝たるに相応しいと言えるのかと私は問うている」
 彼らの顔や姿は直接的にも間接的にも見えずとも、それでも、ギアスはもちろん、“ラグナレクの接続”のことなど何一つ知らされていなかった他のラウンズたちに、ルルーシュは軽い動揺を見て取った。彼らの率いる部下たちになればそれは更に大きいものとなっている。
 そして同時に、主君と同様にそれを見切ったジェレミアは、早急にモルドレッドに近付くとキャンセラーを発動させ、それが済むと早々に己の持ち場に引き返した。
「あ、……あ、ああっ……、ああ───── っ
 モルドレッドのコクピットでは、アーニャが頭を抱え込んでいた。
『アールストレイム、どうしたっ!?』
『アーニャ、大丈夫か?』
 何が起こったのか分からぬまま、ヴァルトシュタインが、そしてヴァインベルクが心配して声をかけた。
『わ、私、私は……、アリエスの離宮に行儀見習いとしてあがってた。そしてそこで、マリアンヌ様を殺した犯人を見た』
『っ!!』
『その記憶を改竄したのはシャルル皇帝。そして犯人を忘れさせただけじゃない。ルルーシュ殿下の騎士になりたいという思いも忘れさせ、ラウンズにした。私の中にマリアンヌ皇妃がいたから! 私の意思を無視して、記憶を弄った。そしてマリアンヌ皇妃がいたから、私の記憶は途切れ途切れで繋がらなかった!! あの二人のせいで私の今までの人生は、意思は狂わされてきた!』
『アーニャ、一体何を言ってるんだ!?』
『ルルーシュ殿下、いえ、陛下! 今からでも私をお傍に置いてくださいますか!?』
「それがおまえの偽りなき心からの望みなら叶えよう」
『ありがとうございます。私、アーニャ・アールストレイムは、今この時を持って、ルルーシュ陛下に忠誠をお誓い申し上げます』
 そう言いながら、アーニャは他のラウンズの機体の合間を縫って、モルドレッドをアヴァロンに向けた。ルルーシュの敵としてではなく、味方として。そしてアヴァロンを守るように、その背をアヴァロンに向け、先ほどまで味方だった他のラウンズたちにハドロン砲を向ける。
『アーニャ、おまえ、何をしてるか分かってるのか!?』
『分かってる。私はルルーシュ陛下の騎士。だから騎士としてルルーシュ陛下をお守りする』
『何を言っている! アーニャはシャルル皇帝のラウンズだろう!!』
『それは私の中にマリアンヌ皇妃がいたからシャルル皇帝がそうしだだけ。私がお仕えしたかったのはルルーシュ様だけ。遅くなったけど、今からそれを果たすの!』
『アーニャッ!?』
 ヴァルトシュタインだけは何が起きたのか理解した。如何なる方法にてかまでは分からぬものの、アーニャにかけられていたシャルル皇帝とマリアンヌ皇妃のギアスが解除され、アーニャは本来の彼女に戻ったのだ。
『アールストレイムは敵に寝返った。今からはアールストレイムも撃たねばならぬ敵だ。情けは無用!』
 そう告げると、ヴァルトシュタインはエクスキャリバーを手に、速度を上げてアヴァロンに突入をかけた。
 しかしその前には、フランツ、C.C.、そして新たに加わったアーニャの操るモルドレッドがいる。そして、もちろんジェレミアの乗るサザーランド・ジークも。他の者はともかく、キャンセラーであるジェレミアにはヴァルトシュタインの先読みのギアスは通じない。それを知らぬヴァルトシュタインは、サザーランド・ジークの全力での砲火の前にあっけなく撃ち落された。そう、これがナイト・オブ・ワンかと思う程に。
『な、何故……?』
 何故、己のギアスが効かぬ、こんなに簡単に敗れ去るなどとは……。
 そう思いながら、ヴァルトシュタインの操るギャラハッドは落ちていった。
『『ヴァルトシュタイン卿!!』』
 ナイト・オブ・ワンの余りにも呆気なさすぎる最期に、他のラウンズたちは恐怖を覚えた。
 ナイト・オブ・ワンであるヴァルトシュタインは、帝国最強の存在のはず。それがこうも簡単に敗れるとは、一体どういうことなのか。何が起きているのか。
 動揺する他のラウンズたちにはフランツたちが、そしてラウンズたちの部下たちに対してはジェレミアの指揮する部隊が一斉に躍りかかっていった。
 彼らにとっては絶対的存在ともいえたヴァルトシュタインの最期が信じられないまま、動揺に揺れる中、次々とフランツたちに討ち取られていった。ある者は死に、ある者は捕えられて帝都に護送されることとなった。その中にはナイト・オブ・スリーのジノ・ヴァインベルクの姿もあった。
 ラウンズたちとの戦いを終えて帝都に戻ったルルーシュたちだったが、謁見の間で、ルルーシュは改めてアーニャと顔を合わせていた。
「私の記憶を戻してくださったのは、陛下ですか?」
 臣下としての礼を尽くしながらも、アーニャは疑問を口にした。
「ジェレミアがギアス・キャンセラーだ。アーニャには私の両親であるシャルルとマリアンヌ、二人のギアスがかけられていた。それをジェレミアに解かせただけのこと」
 ルルーシュのその言葉に、アーニャはルルーシュの傍らに控えるジェレミアに視線を移した。
「全てはルルーシュ様の指示があったがゆえのこと。私はそれに従ったまでだ」
「ありがとうございます、陛下。そしてゴットバルト卿」
 アーニャは改めて、二人に対して深く礼を取った。
「これからのそなたの力に期待している」
「はいっ!」
 何時かルルーシュの騎士になりたいと、それは初めてルルーシュを見かけた頃からアーニャの中にあった思いだった。それを思い出した今、ルルーシュに仕えることに何の問題があろうか。今までの生活が間違いだったのだ。自分の人生はこれからだ。これからは自分の本当の意思に従って、自分を解放してくれたルルーシュ陛下と、その陛下の意向に従っただけだというが、ジェレミアのためにも、誠心誠意ルルーシュ陛下にお仕えする、そう改めて心に誓うアーニャだった。





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