愚か者たち 【6】




「私が神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
 中央の玉座に腰を降ろしたのはルルーシュで、その両脇には男が一人ずつ、彼を守るように立っている。
 一人はルルーシュの右側に立つ、彼と同年配の、燃えるような赤毛と冷たい氷塊を思わせるような薄蒼の瞳を持つ、いかにも、騎士、といったものを連想させる男。
 左側に立ついま一人は、二人よりも少し年かさの大人の男だ。青い髪とオレンジ色の瞳。顔の半分は不思議な仮面で隠されているが、彼がジェレミア・ゴットバルト辺境伯であることは、彼を知っている者にはすぐ分かる。かつてエリア11で純血派を組織し、その長としてありながら、ゼロによってその地位から追い落とされ、ナリタの戦いの中で死んだと思われていた存在だ。こちらは騎士というよりは、軍人といった印象が強い。
 ルルーシュは二人を紹介した。
 まずは右手を上げて、
「私の唯一の騎士、フランツ・シュレーダー」続いて左手を上げて「ご存じの方もいらっしゃるようですが、ジェレミア・ゴットバルト辺境伯。彼には私の下で軍の統括を務めて貰うことになります」
「生きていたんだね、ルルーシュ」最初に一歩前に、ルルーシュに歩み寄ったのは、長兄のオデュッセウスだった。「ナナリーのことがあったから、もしかしたら、と思ってはいたが、君が無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます、異母兄上(あにうえ)。地獄から舞い戻ってまいりました」
「なれど、そなたが皇帝とは一体どのような了見じゃ!?」
 第一皇女のギネヴィアが、目を剥くようにして叫びかける。
「98代皇帝のシャルル、我らが父上は、私が弑しました。その父の唱えていた弱肉強食の国是に従って、あの男を弑した私が次の皇帝となる。それだけのことです」
「そなたが父上を殺したとっ!? それでは簒奪じゃ! 誰ぞ、この皇帝を弑逆し玉座を簒奪した痴れ者を捕えよ!」
 ギネヴィアの言葉に、広間の中に控えていた兵士たちが何人もルルーシュたちに向かっていくが、悉く、フランツとジェレミアによって倒されていった。
「お分かりいただけないようですね。では、もっと簡単に話を進めましょう。我を認めよ!」
 ルルーシュの両の瞳から朱い鳥が飛ぶ。途端、広間に一つの声だけが響き渡り出した。
「オール・ハイル・ルルーシュ! オール・ハイル・ルルーシュ!」
 それらの様はTV中継されており、その様を見ていた者たちの中には、恐怖に顔色を変えた者もいれば、狂喜を満面に浮かべた者もいた。
 経緯はどうあれ、皇帝となったルルーシュは皇位継承権第1位だった長兄のオデュッセウスと、正式ではないが、その妻子を残して、他のシャルルの皇妃、皇子皇女、全てを皇宮から追い出した。ギアスにかけられている彼ら彼女らから抗議の声が上がろうはずもなく、皆黙って皇宮から出ていった。
 そしてフランツやジェレミアの協力を得て、外からでは見えなかったブリタニアという国の現状を把握することに勤めた。何事も、分からなければ手の打ちようも無いのだから当然のことだ。
 そんなある日、かつてのナイト・オブ・セブン、すなわちスザクの下にいたロイド・アスプルンドをはじめとしたキャメロットの面々がペンドラゴンにやってきて、ルルーシュに謁見を求めてきた。最初は良い顔をしなかったルルーシュだったが、幼い頃、まだ母が母として生きていた頃にアリエスを訪ねてきていたロイドのことを思い出し、彼と彼の副官であるセシル・クルーミーに謁見の許可を出した。
 謁見の間で、セシルよりも一歩前に出たロイドが、ルルーシュに対して臣下の礼をとる。ルルーシュのすぐ傍には、ルルーシュが自分の唯一の騎士と紹介したフランツが立っている。
「お久しぶりでございます、ルルーシュ殿下、いえ、陛下」
「9年振りくらいか、懐かしいな、ロイド・アスプルンド」
「覚えていてくださったんですね。感激の極みでございます」
 ロイドの普段の口調とのあまりの違いに、頭を下げたまま、セシルは驚いていた。頭を下げていたために、その様子は他の者には分からなかったのは幸いか。
「ラウンズとなったことで上司といえば上司だったスザク君が行方不明、かつてのスポンサーだったシュナイゼル殿下も行方不明、ということで、つまり、私たちには今現在居場所が無い状態なんです。それで、昔の誼ということで、もしよろしければ、陛下の元に置いていただき研究を続けさせていただけないかと思い、こうしてお願いに上がった次第です」
「だが、おまえが研究していた、白兜、いや、ランスロットといったか、あれは適合率の関係で、スザクでなくては操縦できないのではなかったか?」
「確かにそうですが、今陛下の騎士としておられるシュレーダー卿も相当のものとお見受けしました。それに陛下の騎士ともなればやはりKMFは必要であると判断致します。ランスロットの改良を行う、あるいは、シュレーダー卿にあわせた機体を製作するということで、如何でしょうか?」
「ふむ、フランツの専用機については、必要だろうと、どうしようかと考えていたところだから丁度いい。許す。一日も早くフランツの専用機を創り上げてくれ」
「1日も早く、とは何かございますか?」
「先帝のラウンズたちが雲隠れしている。何時どうやって姿を見せるか分からん。だが姿を見せる時には、おそらく私を簒奪者として討つためだろう。その対策のためだ」
 今、ルルーシュの元にある量産機以外のものとなると、ルルーシュ自身の蜃気楼と、ジェレミアのKGFサザーランド・ジークしかなく、実際、ラウンズが相手となれば心もとないことこの上ないのだ。ましてや同じように姿を隠しているシュナイゼルたちの問題もある。
「畏まりました。必ずや陛下のご期待に添ってご覧にいれます」
「頼む。フランツ、そういうことだから、必要な時にはロイドに協力してやってくれ」
「分かりました。ですが、そのために私がお傍にいない時には、代わりに必ずゴットバルト卿を」
「分かっている。そこまで心配してもらわずとも大丈夫なのだが、おまえがそれで気が済むというのであればそうしよう」
 頷きながらも自分の意見を述べたフランツに、ルルーシュは微笑を浮かべながら応えた。
 こうしてフランツのためのKMFが、ランスロットの改良系になるのか、全く別の物になるのかはまだ判然としないが、その開発が急ピッチで進められることになり、同時に、蜃気楼とサザーランド・ジークのメンテナンスもロイドたちに任されることとなった。





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