いつも通り五人分の朝食を用意して自分の席についたルルーシュだったが、ただ一つ空席のままの席に目をやり、フランツに尋ねた。
「スザクはどうした? そういえば、朝起きた時から一度も見ていないが……」
「スザクでしたら、昨夜出ていきました」
「出ていった!? どういうことだ! それではゼロ・レクイエムは……」
「私がスザクに話したのです。スザクがこれまでしてきたことを話して、彼にそれを自覚させ、そしてゼロ・レクイエムの無謀さと、そもそもそれを為したとしても、彼にはゼロの代役など果たせない、無理だと。そうしたら何をどう思ったのか、出ていきましたよ」
フランツは昨夜、自分がスザクを手にかけた事を微塵も感じさせることなくそう告げた。事実を知っているジェレミアもC.C.も何も言わず、顔色も変えていない。
「ルルーシュ様、ゼロ・レクイエムなどというものはあまりにも無謀、無駄な計画です。今の世界、ルルーシュ様が創り上げた超合集国連合、黒の騎士団の状況を考えれば、ルルーシュ様とスザクが考えたゼロ・レクイエムなどではどうにもなりません。ルルーシュ様がお考えになっている世界になどなるとは到底思えない。それならば、これは途中まではゼロ・レクイエムで考えておられたことと同じですが、ルルーシュ様がブリタニアの皇帝となり、その後、ルルーシュ様が世界の盟主として、世界を導いていかれるのが一番良い方法だと考えます」
「し、しかしそれでは……」
フランツの言葉に、ルルーシュは俯いて唇を噛んだ。
ルルーシュの脳裏を占めるのは、ユーフェミアをはじめとして、彼のために死んでいった者たちの顔だ。それを察して、フランツが尚も言葉を続ける。
「ルルーシュ様がこれまでなさってこられたこと、ルルーシュ様が、あるいはルルーシュ様のために命を落とした者たちの事を考え、ご自分の命を懸けてその償いを、と考えていらっしゃるのは分かります。しかし、本当にルルーシュ様がご自分の命を捨てることだけが償いの方法でしょうか。ルルーシュ様が亡くなられた方々の分も生きて、その方たちの望んだ世界を生み出すために働き、そして新しい世界を創り出す。それもまた、いえ、それこそが、一番の償いの方法ではないでしょうか。ルルーシュ様がご自分の命を捨てるというのは、あるいは一番簡単な償いの方法かもしれませんが、同時に、それはルルーシュ様の逃げなのではないかと私は考えます」
フランツの言葉にルルーシュは顔を上げて彼を見つめ、それから、ジェレミアとC.C.の顔を見た。ジェレミアもC.C.も、フランツの言う通りだというように頷いている。
フランツの言った「逃げ」という言葉が、ルルーシュの脳裏で繰り返される。そしてやがて、そうなのだろうかと、その思いが次第に強くなっていく。しかしユーフェミアやナナリーが望んだ“優しい世界”を自分が創り出す、そんな権利が自分にあるのだろうかと思う。
が、同時に、彼女たちが、そして自分の腕の中で死んでいったシャーリーや、自分を庇ってその命を落としたロロが、自分の死を望んでいはいないだろうことも、実をいえば理解していた。
神根島で、あくまでルルーシュをユフィの仇と剣を向けたスザクの言葉が、そして母が死んだ後、生きていない、死んでいるも同じと告げたシャルルの言葉が、自分は生きていてはいけないのだと、ルルーシュに思わせてもいたのだ。
スザクが姿を消したということは、スザクはルルーシュをユーフェミアの仇としてその命を奪うことを諦めたということなのだろうか、とも思う。そして父の言葉は、父が、いや、父だけではない、母が考えていたことを考えれば、何時までも気にすることなど、捕らわれている必要などない、意味のない言葉なのだと。
ルルーシュは食事に手を付けることなく席を立った。
そうして食堂を出ていくルルーシュの後ろ姿を見送り、C.C.は呟いた。
「これで、考えを変えてくれればいいのだがな……」
「そうだな」
「ええ」
互いに頷き合い、そうなることを祈りながら、三人はゆっくりと朝食に手をつけた。
それから1ヵ月近く経った頃、ブリタニアにおいて大いなる変化が起きようとしていた。
神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴン、そこにこにある皇宮の中にある最も大きな広間である“玉座の間”。今、そこには皇族、貴族、そして大勢の文武百官が揃っている。
「皇帝陛下ご入来!」
近侍のその言葉に、ざわついていた広間が一瞬静まり返った。
しかしその後、奥から出てきて玉座に腰を降ろした者に、一度は静まり返った広間が、驚きに、再びより大きくざわめき出した。
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