正 夢 【4】




「違います! そんなこと、総督の暗殺なんて僕はやってません!」
 取り調べは、最初からスザクが有罪という前提で行われていた。ゆえにスザクの言葉など誰も聞いてはいなかったし、取り上げようともしていなかった。
 ここでスザクは思い出した記憶を取り出して、真犯人の名を上げた。
「クロヴィス総督を殺したのは、ルルーシュです! ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア! ブリタニアの元第11皇子。今はルルーシュ・ランペルージという名前でアッシュフォード学園に在籍しているはずです! 信じてください、僕は嘘は言ってません!!」
 スザクの言葉から出てきた名前に、取調官は唖然となった。
 死んだとされている“悲劇の皇族”として、そしてかつて“閃光のマリアンヌ”として軍や一般庶民の間で人気の高かった皇妃の遺児が、実は生きていて、今回の総督暗殺の犯人だという。
 総督の暗殺犯は名誉ブリタニア人の枢木スザク、それはブリタニア軍の既定路線だった。よって、取り調べも行われはしたが、あくまできちんと手順が踏まれたというそのことがあればいいのであって、真実の犯人が誰かなど、実際のところ、誰でも構わなかったのだ。要は見せしめである。
 しかしその取り調べの中で出てきた名前に驚愕が走った。取り調べは一時中断され、係官は即座にジェレミアの元へと走った。
 中断された取り調べに監獄へと戻されたスザクだったが、彼はこれでいいと思っていた。
 ルルーシュは彼の記憶の中では幼馴染の親友だった。だが現在のスザクにとっては、七年前に自分の秘密基地だった枢木神社の土蔵にやってきたブリキのガキであり、友人関係など築いていない。
 ましてやクロヴィスが殺されたということは、スザクの持つ記憶の通りで、すなわち犯人はルルーシュということだ。それが認められれば自分は釈放される。そして他になり手のいない特派所有の、現行唯一の第7世代KMFランスロットのデヴァイサーとして起用されることになる。その中で自分は更にこのエリア11に新たに副総督として赴任してくる第3皇女ユーフェミアと知り合いになって、いずれは彼女の騎士となるだろう。
 今回、ルルーシュがクロヴィス暗殺の犯人として捕まれば、ゼロとなるルルーシュに貶められて、ユーフェミアが日本人虐殺などということをしでかすこともなく、無事に副総督の任を務めあげるだろう。そうすればその騎士となった自分もまた認められて、政治の中枢に近くなる。
 ユーフェミアの持つ高い理想を実現させるために、自分は全力で彼女を守りその力となるのだと、身勝手に己の将来像を描き出していた。
 その頃、ルルーシュのことを聞かされたジェレミアは、スザクのこと、すなわちクロヴィス暗殺の件は一旦おいて、即座にアッシュフォード学園の件を調べるようにと指示を下した。
 何故スザクがそのようなことを知っているのかは分からない。だがもし仮にスザクの言うことが真実であったならば、ジェレミアにとっては失ったと思っていた忠義が蘇ることとなる。
 己が守りきることのできなかった皇妃マリアンヌ。その遺児が日本に、今やエリア11となったこの地へ送られるのを指をくわえて見ているしかできなかったかつての自分。だがもし本当に第11皇子ルルーシュ殿下が生きておいでなら、自分は今度こそ殿下をお守りするのが役目と、ジェレミアは亡くなってしまったクロヴィス総督の暗殺犯をどうこうするよりも、生きているかもしれない第11皇子の捜索を優先させた。第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが真実クロヴィス総督の暗殺犯だとしてもそんなことはジェレミアには関係ない。彼が生きていることが、そしてその存在を守ることのほうがジェレミアにとって最優先だった。ましてや皇族間の殺し合いはブリタニアでは許されている。ルルーシュがクロヴィスを殺したのだとしても、それは同じ皇族間同士の争いとして認められることであり、クロヴィスよりもルルーシュの方が強かったという、ただそれだけのことなのだ。
 そこがブリタニア皇室の内情を知らないスザクの計算違いだった。そしてスザクはそのことに気付いていない。



 数日後、ジェレミアの元に報告が届けられた、数枚の写真と共に。写真の中には一人の少年と、その少年よりも何歳か年少の、車椅子に乗った一人の少女が写っているものがあった。
 少年の顔がアップで写されたものもあったが、その容貌は皇帝シャルルの、今は亡き第5皇妃マリアンヌを彷彿とさせるものだった。そして何よりも、七年前の面影もその中にあった。
 ブリタニア人には珍しい漆黒の艶のある髪、ロイヤル・パープルと呼ばれる、現皇帝によく似た紫電の瞳。そして目と足が不自由な妹。
 ルルーシュ・ランペルージとナナリー・ランペルージ。両親は亡く、後見はアッシュフォード学園の理事長であるルーベン・アッシュフォード。アッシュフォード家は、かつて研究開発していたKMFの関係からマリアンヌ皇妃の、ひいてはヴィ家の後見を務めていた家柄。ルーベンは忠義に熱い男だったとジェレミアは記憶している。そんな関係を思えば、ルーベン・アッシュフォードがマリアンヌの遺児二人を引き取り、皇室では弱者としか扱われないであろう二人を自分の手元で育てていても一向におかしくないという結論に達した。
 アッシュフォード家はマリアンヌを救うことができずに死なせてしまった責を負い、爵位を剥奪されてしまっているが、今の自分は家督を継ぎ、ゴットバルト辺境伯の身分にある。確かにかつては大公爵であったアッシュフォード家程ではないが、それでもルルーシュを守り抜く力の一端にはなれるはずとの自負がジェレミアにはあった。
 ジェレミアが覚えている限り、ルルーシュは幼い頃から利発で優秀であり、チェスにおいては幾度も異母兄(あに)のクロヴィスを()かしていた。そして上がってきた報告書によれば、ルルーシュの優秀さは失われているようには見受けられない。確かに成績は目立たぬように、決して上位のものとは言いきれないが、学園の生徒会副会長を務める者が優秀でないはずがない。それに危険極まりないことだが、ルルーシュがやっているという賭けチェスにおいては、彼のずば抜けた優秀さはその筋では有名だという。ならば皇室に戻っても決して侮られるようなことはない。自分がそのような真似はさせまい、とジェレミアは己の心に固く誓った。
 その一方で、ルルーシュをクロヴィスの暗殺犯だと言ってのけているスザクに対して、ジェレミアは怒りを覚えた。何故スザクがルルーシュの現状を知っているかは知れない。だがそれは別として、仮にも皇族、第11皇子であるルルーシュを暗殺犯として名指し、それも呼び捨てで行い、自分の無罪を主張する様は醜かった。ジェレミアの立場から見れば、名誉とはいえブリタニア人となっていながら、ブリタニアの事を何ら理解していない愚か者でしかなかった。
 そんなスザクに対して、ジェレミアは既定路線のままに進めることとした。つまり、あくまでスザクをクロヴィス総督暗殺の犯人として仕立て上げることにしたのだ。しかしそれより先にルルーシュたち兄妹を保護するのが先だとも思った。
 すでに係官がスザクの口からルルーシュのことを聞いているのだ。極秘にと、決して他言無用と念を押しはしたが、どのようなことで外に漏れるかもしれない。そして漏れたが最後、ルルーシュの存在を快く思っていない者の耳に入った場合、彼の命が危険に曝されることも十分に考えられた。ゆえにこれまたスザクのことよりも先に、ルルーシュとその妹ナナリーに対しての行動の方がジェレミアにとっては先決事項であった。



 アッシュフォード学園に入ってくる数台のリムジンに気付いた者たちは動きを止めた。それはクラブハウス内にある生徒会室にいるメンバーにしても同じである。
 そしてそのリムジンに顔色を変えたのは生徒会長のミレイと副会長のルルーシュ。それ以外のメンバーは、一体何事なのだろうと不思議に思い、また、顔色を変えた二人の様子に首を捻った。
 やがて生徒会室の扉がノックされ、返事を待つことなく扉が開けられる。そこに立っていたのは、ブリタニアの軍人、先頭に立つのはジェレミアだった。そのジェレミアの顔は喜色に溢れいていた。





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