悩んでいるスザクに、部隊長はルルーシュをテロの一味、主義者と判断し、スザクに彼を殺すように命じて銃を差し出した。
スザクは迷う。
彼は、ルルーシュはいずれはテロリストとなる身だ。しかも総督を殺して。けれど今の彼はまだ何もしていない。何もしていない彼を殺す権利があるのだろうかと。
「できません」
悩んだ挙句そう答えたスザクに、部隊長は顔色を変えた。
「貴様、名誉如きの分際で命令に逆らうか! それとも実は貴様もテロリストの仲間か!」
そう言うと手にした銃を構え直し、いきなりスザク目がけて発砲した。その遣り取りの間に、ルルーシュと少女はその場を去るべく駆け出した。
やがて地上に出たルルーシュは、ほっと一息つきながら先刻のことを思い返す。
「あいつ、死んだのかな……?」
「当たり所が悪ければ死んでいるだろうな」
まるで他人事のように告げる少女に、ルルーシュは柳眉を寄せた。確かに他人だ。しかし彼は自分たちを守ってくれたのだ。それを少女のように割り切ることはルルーシュにはできなかった。しかし安心できていたのも束の間のこと。ルルーシュたちの前に、総督の親衛隊が姿を現した。
「その娘を渡してもらおうか。そして君は主義者として処分される」
銃を向けられて、ルルーシュはここまでかと思った。逃げ道はない。隊長が手にした銃の引き金を引くのが見えた。
「止めろ!」
次の瞬間、少女がルルーシュの目の前に立ちふさがった。ルルーシュを身を挺して庇うように。
「!」
そしてルルーシュの脳裏にまた声が響く。
── 力が欲しいか? 生きるための力が? ならば私と契約を結べ。
考える時間などなかった。自分はどうでもいい。しかし遺される妹のナナリーのことを考えると、今此処で死ぬわけにはいかなかった。だからその契約がどんな内容かなど、考えることもしなかったし、少女が与える力というものがどんなものか、それを考える暇もなくルルーシュは答えていた。
「結ぶぞ、その契約!」
倒れていく少女の腕を掴む。
途端にルルーシュの脳裏に次々と浮かんでは消えていく映像、それは少女の記憶なのだろうか。
倒れ伏した少女の傍らに立つルルーシュに、再び複数の銃が向けられる。
ルルーシュは口を開いた。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
何が起こったのか、正確なところは分からなかった。しかし少女の腕を掴んだと同時に流れ込んできたものが何であるのか、己が何をすればいいのか、ルルーシュには考えるまでもなく理解できていた。そしてそれを実行したのだ。
目の前に倒れ伏している幾人もの総督の親衛隊の者たちの死体。けれどそれを見ても心動かされることはなかった。
建物の外、激しくなる爆撃音に、ルルーシュはクロヴィスが何をしようとしているのかを朧に察した。
クロヴィスが奪われたのは、テログループが奪ったのは、今自分の目の前に倒れている少女。その少女のことを知られる前に、少女が完全にテログループの手に渡る前に潰そうと判断し、ゲットーを攻撃しているのだろう。そう判断したルルーシュはそれを止めさせるべく行動を開始した。原因となった少女は自分を守ってすでに死んでしまったのだから。
少女から与えられた力を使ってG1ベースに乗り込んだルルーシュは、クロヴィスの元へと向かった。そして唯一人で部屋にいたクロヴィスに、ルルーシュは銃を向けながら指示を下した。
「シンジュクゲットーの掃討作戦、直ちに止めていただきましょうか」
「わ、分かった」
自分に向けられる銃、その初めての出来事に、クロヴィスはルルーシュの命じるままに作戦の終了を命じた。
「つ、次は何をすればいい?」
「そうですね。質問に答えていただきましょうか」
そう言いながら、ルルーシュは銃を持つのとは反対の手で被っていたヘルメットを脱いだ。
そこから現れたのは、漆黒の髪とロイヤル・パープルとも呼ばれる紫電の瞳。そしてその容貌に、クロヴィスは記憶を刺激された。
「ま、まさか、ルルーシュか? マリアンヌ様の息子の。生きていたのか!?」
「ええ、生きておりましたよ、異母兄上。では、教えていただきましょう」
そう告げるルルーシュの左の瞳が紅に染まった。
「誰が母上を殺したのです? あなたですか、クロヴィス異母兄上?」
「し、知らない。私がやらせたのでもない」
「なら、誰なら知っています?」
「シュナイゼル異母兄上かコーネリア異母姉上なら、あるいは何か知っているかもしれない」
「そうですか。ではもうあなたに聞くことはこれ以上ありませんね」
クロヴィスの意識が元に戻った。
今、自分は何をしていた。目の前の異母弟と何を話していた。その異母弟の手には変わらずに自分に対して向けられた銃が握られたままだ。
「ル、ルルーシュ、君が生きていたこと、直ぐに本国に連絡して……」
震えながら、それでも必死に言葉を綴る異母兄を無視して、ルルーシュは銃の引き金を引いた。
「お別れです、クロヴィス異母兄上」
その一言がクロヴィスの最期の記憶となった。
総督である第3皇子クロヴィスの死に、すでに先の命令を受けて掃討作戦を終了していたブリタニア軍だったが、右往左往する状態になった。
そんな中、純血派のジェレミア・ゴットバルトは冷酷に告げた。
「クロヴィス殿下の暗殺犯、分からなければ創り出せばいい。どちらにせよ、犯人はG1ベースに入り込めるような形をしていたのだ。となれば、大方名誉ブリタニア人の誰かだろう?」
名誉ブリタニア人の存在を快く思っていないジェレミアにとってみれば、これはその名誉ブリタニア人という存在を抹消させるいい機会でしかなかった。そしてその生贄の羊に選ばれたのは、主義者を庇って負傷した枢木スザクである。
「主義者を庇う名誉ブリタニア人など、目障りなだけだ。飼っていても何の益もない、むしろ不利益なだけ。そのような存在は早々に処分するに限る」
辺境伯という身分を持ち、エリア11に駐屯するブリタニア軍の中でもそれなりの地位を持ち、かつ純血派を組織するジェレミア・ゴットバルトのその言葉で、スザクの命運は決まったも同然だった。
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